映画『インターステラー』とブラック・ホールと重力波検出すごいという話
あの映画、重力が結構重要なキーワードになってるじゃないですか。
ブラック・ホールが出てきますよね。「やった!」と思いますよね。
ブラック・ホールに落ち込んだ主人公が五次元に入って、子供の頃の娘に重力を使ってメッセージを送るじゃないですか。
あの映画はキップ・ソーン(アメリカの物理学者/LIGOの共同研究者の1人でもある)が協力してアイディアを授けたということになっているんですけど、たぶんキップ・ソーンはそういうドラマ的な部分まではたぶんサジェスチョンしてないと思います。
キップ・ソーンは『インターステラー』以外でも映画とかに協力しているんですよ。しばらく前に『コンタクト』というジョディ・フォスター主演の映画がありましたけど、あれは原作があって。カール・セーガンという宇宙物理の人が書いた小説なんですけど、その原作を書くときにカール・セーガンがキップ・ソーンに「テレポーテーションを小説の中に出したいんだけど、もっともらしく聞こえる説明はないだろうか?」と相談して、そしたらキップ・ソーンが「ワームホールを使うといいよ」とアドバイスしたらしいんです。だから『コンタクト』にはワームホールが出てくるんです。“ワームホール”という言葉は使っていないんですけどね。
ワームホールは『インターステラー』にも出てきますよね? あれってワープということなんですか?
いや、実は誰もワープもワームホールも見たことがないので、「あれはワームホールじゃない」と否定することはできないんです。キップ・ソーンが考えているワームホールは、ボールのような球体で、そこに入ると別の場所にあるボール状のワームホールから出てくる、というものなんですね。
その2つは近道のように繋がっていて、その近道のことをキップ・ソーンは「ワームホール」と呼んでいるんです。
『インターステラー』は現代の宇宙物理学的な観点から見ても、リアリティのある作品なんでしょうか?
後半はあまり物理関係ないですね。あと、陰謀論みたいなものと闘って科学を応援する映画なのかなと思って観ていたんですけど、途中で陰謀論をモチーフにしたようなシーンがあったりもして。
しかしながら、映像はすごく綺麗でしたよね。ブラックホールも綺麗でしたよね。あれは「本物だ」と言っちゃったらマズいんですけど、本当にブラック・ホールがあったらああ見えるように計算して作った映像らしいです。
想像上であることは間違いないんですけど、現実にあるとしたらこういうハズだという計算に基づいた映像ですね。
衝突寸前のブラック・ホールのコンピュータ・グラフィクス。2個のブラック・ホールが互いの周りを周回し、何億年もかけて接近し、衝突・合体する過程を相対性理論の方程式を用いて数値計算した結果。背後の恒星から来る光がブラック・ホールの重力場によって曲がるため、ゆがんで見える。
提供:The SXS (Simulating eXtreme Spacetimes)
あとブラック・ホールっていうのは、質量があるものなんですよね? なんかその辺がよくわかんないんですよね。
重力波が見つかったから自信を持って言えますけど、質量はあります。太陽の何十倍も持った、だけど光を出さない天体(ブラック・ホール)があるんですよ。
今回検出された重力波は、ブラック・ホールが出したということもわかっているんですか?
間違いないですね。最初に言いましたけど、物が振動すれば微妙な重力波が出るんですけど、重力波は弱いので、ものすごく重い物がものすごく強く振動しないと、検出できるくらいの重力波は出ないんですよ。でも今回バシッと検出できちゃったので、これはとてつもなく大きな重力を持った物が、とてつもなく振動したのは間違いがないと。だからブラック・ホールが衝突したと。
そうです。宇宙空間だと、交通事故みたいに正面衝突なほぼありえないんです。真正面からぶつかることはほぼなくて、少しでもズレていたら、相手の重力も働いて、互いの周りを周回してしまうんです。
宇宙空間は摩擦がないですから、まわりっぱなしなんですよ。何億年もまわってるんです。
ブラック・ホールの場合、回転する毎に重力波を少し出すんです。出すと少し距離が縮まるんです。そうすると出る重力波が少し強くなる。そうするとまた少し距離が縮まる…その繰り返しで何億年もかけて衝突して、重力波を出すんです。
「生活とか便利なものとかは、ヒッグス粒子を見つけるためにあるんです。重力波を見つけるためにあるんです。音楽だってそうじゃないですか」(小谷)
物理とか宇宙とか素粒子とかめっちゃ気になるんですよね。ヒッグス粒子が少し前に見つかったというニュースとか。
でも、ヒッグス粒子が見つかったからって何がすごいんだ? と思うんです。理論というか数式があって、その数式から「ヒッグス粒子は存在するはずだ」と言われていて、それで最近やっと「ヒッグス粒子が見つかった!」と騒がれていて。
でも「じゃあ結局ヒッグス粒子が見つかって、何が変わるの?」っていう疑問が生じるんです。
そうですよね。そもそも宇宙なんて、空を見上げれば宇宙があるけど、空を見上げなくても普通に生活できますよね。
それに素粒子やヒッグス粒子をわざわざ見なくても生活できますよね。日常にはまったく関係ないですよね。
フフフ(笑)。でもそれを追い求めているっていうのは、研究者のみなさんは衝動でやっているんですか?
いや、それはでも音楽も同じじゃないですか。「音楽が無くても生きていけるだろう?」と問われたら、「そうです」と答えますよね。宇宙のことがわからなくても生きていけるんです。そうなんですけど、でも無きゃダメな人間もいるんですよ。
「ヒッグス粒子は何の役に立つんですか?」と問われましたけど、それは逆なんですよ。生活とか便利なものとかは、ヒッグス粒子を見つけるためにあるんです。重力波を見つけるためにあるんです。音楽だってそうじゃないですか。
我々は何のために生活しているかというと、やっぱり音楽を聴くためなんですよ。宇宙のことを知るためなんですよ。
あと気になることがあるんですけど、例えばこの手と、ここ(空中を指す)と、これと(机を指す)、要は全部原子で出来ているじゃないですか。
ほう…。難しい質問ですね(10秒くらい沈黙)。いくつか答え方があるんですけど、例えば水がありますよね(コップの水を指す)。
このコップの水は地球の重力があるから今はこういう形になっていますけど、無重量状態に持っていくと、水はボール型になるんですよ。やっぱり表面があるんですよね。
説明が難しいんですけど、水の中に物が入っているときと、水の外に物があるときではエネルギーが違うんですよ。
物を水の中から出そうとしたら、エネルギーを外から加えてやらないと出てこれないんですよ。ボールみたいになっている水っていうのはエネルギーの低い水分子の集団で、そういうものは群れ集う性質があるんです。
金属などの場合は、結晶構造を観察するという方法があるんですけど、X線を当てたりして結晶を調べるんです。でもその場合、内部しかわからないんですよ。表面っていうのはすごく特殊な構造をしているんです(※表面科学という研究分野もある)。
いや、だからずっと気になってるんですよ。表面は空気と触れ合ってるじゃないですか。だからきっと溶け合ってるんだろうなっていう感覚があって。
はい。この辺は専門外なのでちょっとラフな話をしちゃいますけど(笑)、そうなんですよね。表面があって分かれているように思うんですけど、実は物のやりとりがあったりして。
例えば化石ってあるじゃないですか。化石というのはもとは骨なんですけど、取り出してみるともう骨じゃなくて石になっているんです。元素が違ってるんです。
なぜかっていうと…というかなぜそうなってるかは誰も説明できないんですけど…観察によると、骨を埋めておくと、骨の原子と外側の土の原子が何かを交換するんですよ。
それが不思議ですよね。中身が入れ替わっても表面だけが残る感じがしますよね。不思議ですよね。
さっき水の話でおっしゃっていましたけど、表面というのはエネルギーの境界線なんでしょうか?
その話が化石についても言えるかというと、ちょっと自信がないですけど。
マネージャー:拓は昔から「表面すげぇ」とよく言ってたんです。
昔から思ってたんですよ。間接的に、すげぇ綺麗な姉ちゃんと知らない間にセックスしてるんじゃないかって。
相手は怒るんじゃないですかね。「そんなことした覚えはない」って。
でも、想像上のことではなかったということがわかったのは嬉しいです。やっぱりそうなのか〜。あともう1つ不思議に思っていたことがあるんですけど、蝶のことなんです。
蝶って綺麗な模様をしているじゃないですか。でもあんなに小さい生き物が、周りから見られることを意識しているような模様になるなんて、ありえないことだなって。
ああ、なるほど。そこには2つの不思議がありますよね。なぜ蝶にああいう模様ができたのか? というのと、なぜ人は蝶を見て綺麗と思うんだろう? という。
夕日とかああいう光景って、別に人間のために作られたものじゃないですけど、あれを見て感動しますよね。不思議ですよね。
それこそ、誰も永久に答えることができない問題なんじゃないでしょうかね。
はい。和音だって、なぜ聴くと気持ちがいいのか誰も説明できないじゃないですか。
昔の作曲家たちは、たぶん音に美しさとか切なさを感じて、それを分析して、自ら旋律を作って追求してきたと思うんです。それは科学を解き明かすことと似ているなと。
音楽を作るという行為自体が不思議で。それを生み出して、人を感動させていく。
しかもそこにはルールがあるんですよね。そのルールはどこかに書かれているものじゃなくて、みんなが美しいと思うか思わないかに基準があるだけなんですけど。
そこからルールを引き出して音符にすることができる人が居るっていうこと自体が不思議ですよね。