1st EP『I'm NOT a pirolian』で衝撃のインディーズデビューを果たした、大阪発3ピースバンド・そこに鳴るが2nd EP『YAMINABE』をリリース。前作から10ヶ月という短いタームで放たれる新作からは、その間に彼らが吸収してきた様々なものを独自に昇華・増幅した現在進行形のサウンドを聴くことができる。超絶テクニカルなメタルにも匹敵する重厚サウンドに、男女の幾重にも重なりあう独特の和メロとハーモニーが見事に融合。新たな次元への扉をこじ開けるように覚醒進化する、迷宮のポップワールド第2章を体感して欲しい。
●初の流通盤だった前作の1st EP『I'm NOT a pirolian』から10ヶ月ぶりの新作となりますが、今作『YAMINABE』収録曲はそれ以降で作ったもの?
鈴木:実は前作をリリースした時点で、今作の中の6曲は録り終えていたんですよ。2015年4月に前作をリリースしたんですけど、その前に(KOGA RECORDSオーナーの)コガさんから「とりあえず今ある曲を録ろうよ」と言われて、2015年3月にまず6曲を録ったんです。
●前作リリース前に、既に今作の大半を録り終えていたんですね。
鈴木:自分の中では、今作用に録った曲のほうが良いと思っていたんですよ。だから、その時点で「早く次の作品を出したいな」と思っていて。
●前作と今作の違いはどういうところなんですか?
鈴木:前作に収録した曲は、どれもコガさんが関わる前に作ったものなんです。2014年の8月頃からコガさんが関わってくれるようになったんですけど、そこからKOGA RECORDSを意識した曲を作り始めたんですよね。そういう曲は、まだ前作には入っていなくて。
●KOGA RECORDSを意識したというのは、どういう部分で?
鈴木:ちょっとポップな感じというか…。
藤原:あと、向井秀徳さん。
●M-5「少女の音色に導かれ」の歌詞中に、向井秀徳さんの名前が出てきますよね。これはリスペクトを表している?
鈴木:そうですね。むしろ崇めているくらいの感じです。「少女の音色に導かれ」は、KOGA RECORDS(からデビューする)記念みたいな気持ちで作った曲なんです。
●M-4「もう二度と戻れないあの頃に」にハンドクラップが入っているのも、KOGA RECORDSっぽいかなと。
鈴木:コガさんから「(藤原)美咲ちゃんがメインで歌うポップな曲を作って」と言われて、…ポップといえば手拍子かなって(笑)。
●ハハハ(笑)。この曲は美咲さんが歌うことを意識して作ったんですね。
藤原:歌詞もそれ用に書かれているので、女の子が歌うような内容になっているんです。
鈴木:初めて、恋の歌を書きました。恋の歌なのに、(歌詞の)最後が“聞かずに見れずに死ぬんだろう”っていう…。
●ネガティブですよね(笑)。歌詞で言うと、M-2「エメラルドグリーン」の最後では“こうして僕らは生きる 光を探して それでもそれでも生きるんだ”という言葉に続いて、“まあ無理だけど ていうか光ってなんだよ”で終わるっていう(笑)。
鈴木:僕の性格を前面に出すという意図で書いた歌詞なんですけど、如実に表しているかなと。別に“どうせ何も変わらないんだよ”といつも思っているわけじゃなくて、たとえば歌詞で最初から積み上げてきたものを最後に“別にどうでもいいし”と言って(切り捨てて)しまうようなニュアンスというか。
●自分が言ってきたことを最後に自らバッサリ切り捨ててしまうような、シニカルさがある。
鈴木:歌詞をそういうものにすることで、自分の人間性が出せたら良いかなと思いました。
●実際に自分で積み上げてきたものを、一気に壊したくなったりもする?
鈴木:それ以前に“積み上げられているんだろうか…?”っていう感じで。そもそも壊すことができるほどの何かを積み上げられている気がしなくて。自信がなさすぎるんです。何をやっても自信を持てないというか。
●作品に対する反響があっても、自信やモチベーションにはつながらない?
たけむら:モチベーションというよりも、課題というか…。自分たちにプレッシャーをかけてくるものにはなりますね。
鈴木:僕は、プレッシャーを感じられるほどの期待も感じられなくて。基本的に後ろ向きなんです。「これからの人生、どうなるんだろう…?」みたいな怖さがあって。
●今後もっと売れたとしても、そういう気持ちは覆ることはないんでしょうか?
鈴木:一生、覆らないと思います。
●逆にすごい…(笑)。M-3「UTSUNOMIYA」の“死ぬまで君を恨んでいいですか”という歌詞もすごくパンチがあるなと。
鈴木:これはメロディと同時に出てきた言葉なんです。自然と浮かんだ言葉だし、歌詞としても引っかかる言葉だと思ったので良いなと。それを軸にして、歌詞を書いていった感じですね。
●最初から明確なメッセージ性や意味があって、歌詞を書いていくわけではない?
鈴木:全く意味がないわけではないんですけどね。M-7「pirolin -exskill of excalibur ver.-」は元々、壮大な物語として書いたんですよ。でも後から見たら、抜け毛の歌にしか見えなくて…本当は輪廻転生の歌なんですけど。
藤原:歌詞の途中では“わずかにのこって”いたんですけど、曲が終わる頃には“遥かに消えた”んです(笑)。
●ハハハ(笑)。この曲もそうですが、タイトルで“ex〜ex〜 ver.”となっているものには何か理由がある?
鈴木:“ex〜ex〜 ver.”となっているものは、デモ音源で発表していたもので2012〜2013年頃に作った曲なんです。そういう曲は若さが残るアレンジだと思うんですけど、「エメラルドグリーン」やM-6「内緒にしててよ、醜い私のことを嫌っても」はJ-POP的なアレンジというか。だから、1枚の作品の中でもすごくギャップはありますね。
●それをあえて1枚の作品に入れたのは?
鈴木:あえて1枚に入れてしまうのが、面白いかなって。だから『YAMINABE』(闇鍋)というタイトルにしたんです。ごった煮なんですね。
●結果的には、前作以上にポップさを増した作品になったと思います。
たけむら:全8曲中6曲は先に録っていたんですけど、残りの2曲は去年の8月頃に録ったんです。それが「エメラルドグリーン」と「内緒にしててよ、醜い私のことを嫌っても」なんですけど、その2曲は特にポップさを意識していて。ドラムに関しても、今までは前面に押し出していなかった2ビートや4つ打ちを取り入れているんですよね。その結果、今まで聴いてくれていた人たちだけじゃなく、もっと多くの人たちにも聴いてもらえるものになったのかなと感じています。
鈴木:前から常にポップな曲を作っていこうとはしていたんですけど、どんどん慣れてきたというか。ポップな曲を作っても、コガさんに聴かせると「もっとポップな曲を」と言われるんです。そういうやりとりを繰り返すことで、どんどんポップになっていったのかなと思います。
●作り終えての充実感はある?
鈴木:前作よりはだいぶありますね。特にミックスに関しては前作よりも突き詰められたと思っていて。前作は音楽に興味がない人が聴いたら「音がちょっとこもっている」と感じられたかもしれないんですけど、今作に関してはクリアだと思ってもらえるようなミックスになっています。
藤原:前作よりも自由にできているし、よりポップになっていて。でもサウンド的には、より重くなっていたりもする。元々あった6曲に、新しくできた2曲を足すことによって全体のまとまりも出せているし、垢抜けたかなって思います。
たけむら:個人的には、前作のほうが軽く聴けるというか。今作はドカ盛りの醤油ラーメンみたいな、ガッツリしている感じがあって。量はいっぱいあるけど、何とか食べられる…という感じですね。
●それこそ闇鍋的な…。
たけむら:まさにそうですね(笑)。
Interview:IMAI