“海かと思って泳いだら 気づけばここは山だった 君かと思って抱きしめた そういやオレはひとりだった”。
そんな歌い出しから始まる「アンダーグラウンド」(M-4)のミュージックビデオをYouTube上で見かけたことが、Palboとの出会いだった。何とも言えない物悲しい歌詞をポツリとつぶやくように吐き出す声は、まるで少年のように透き通っていて耳の奥へスッと入り込んでくる。たった一度聴いただけなのに、翌日にはふと鼻歌のように口ずさんでいる自分に気付いて、思わず再びMVを観てしまった。
YouTubeでは、他に2本のMVがアップされていた。歌詞中にも出てくるMC5を思わせるような爆裂ガレージロックの「彼のライター」(M-2)と、ゆらゆら帝国を思わせるサイケデリックなゆらめきを漂わせた「少し変」(M-3)。先に観た「アンダーグラウンド」と並べてみても一見、その音楽性の芯がどこにあるのか定まらない。
「僕は音楽を突き詰めるタイプじゃなくて。ガレージロックもフォークもサイケデリックも好きですけど、突き詰めようとは思わない。ちょっと引っかかれば好きになるけど、それだけにはならないっていうか」(Vo./G.今江 章)
その正体に迫るべく実際に会った中心人物の今江は、簡単に言えば“好青年”という印象だった。上記の発言に見られる音楽的嗜好も言葉の表層だけを捉えれば、大学の音楽サークルあたりによくいる“ごく普通の音楽好き”にも思えるだろう。だが、それはどちらも表面的な印象に過ぎない。
「職場で何か面倒くさい仕事があっても、“僕がやっときますよ”っていう感じでやってしまうんです。でもそこで“今江くんは真面目だね”とか言われると、何か違和感を感じるんですよね。他人の目を気にしたり、顔色をうかがってしまう。“本当は違うのに…”っていう葛藤は、みんなも少しはあると思うんです」(今江)
普通の日常生活を送っている者ならば誰もが、人間関係の中でふとした想いのすれ違いは経験したことがあるはずだ。“素直な気持ちを話したら みんなが引いてる空気で 嘘かと思って笑ったら どうやら本気の涙さ”という「アンダーグラウンド」の歌詞を、自分の経験に重ねられる人も少なくないのではないか? 「友達が欲しい」(M-7)の中には“あー 恋人が欲しい あー 関係だけでもいい”なんて歌詞もある。
「実際に言っている人がいないだけで、絶対みんな思っていることなんですよ。僕は今江くんの歌詞にメチャクチャ共感できるし、本当に最高だと思いますね。良くも悪くも不純物なしで、ありのままを出している感じ」(Dr.ナカムラ リッケン)
普段の生活では隠している、本当の自分。Ba.ワサダ マサキが「普段ひた隠しにしている部分も、ライブではさらけ出して良いかなと思っているんです」と語るように、ライブでこそPalboというバンドはその本性を見せつける。実際にライブで観た今江の姿は狂気すら感じさせるもので、“好青年”などという印象からは程遠かった。
「ステージに上がると一変して、まさに狂人ですよね。まだメンバーになる前に今江くんの弾き語りライブを観に行ったんですけど、弾き語りなのに狂ったような動きをしたりして衝撃的でした」(リッケン)
こんな発言だけを聞けば、まるで今江がステージで狂気の本性をさらしているかのように思われるだろう。“いままでずっと嫌われないように生きてきたつもり でももうやめた やさしい嘘で騙してきたのに ホントの自分に出会ってしまった”という「分身」(M-1)の歌詞の通りかというと、今江本人の見解はそうではない。
「ステージでは、実は冷静だったりもします。自分以上のものをやろうとすると、僕の場合は大抵良くないんですよ。“今、自分が歌って、ギターを弾いている”っていうことをしっかり感じられるところから始まって、どんどん入り込んでいけると理想的な良いライブになりますね」(今江)
Palboの根底にあるものは、真性の狂気といったものではない。もし今江が真の狂人であったなら、そんな者が書く歌詞に共感できる人間などほんの一握りだろう。前述した通り、ごく普通の日常を生きている人ならば誰でも体験するようなすれ違いや葛藤、一度は抱く妄想を描いているからこそ、その歌詞は共感を誘うのだ。
「うだつが上がらない感じも好きなんですよね。それはそれで自分的にはリアルだから。映画みたいなストーリーを生きることに憧れたりもするんですけど、実際は地味な暮らしの中で色々なことを妄想をしたり現実に引き戻されたりしながら過ごしている。そういう揺れている感じを、歌詞にも出したいと思っているんです」(今江)
凡人でも天才でも狂人でもなく、“少し変”。「“これって自分だけなのかな?”と思っていた人に、“自分のための曲だ!”って感じてもらえる音楽が目標」(今江)というPalboの音楽性を評するなら、まさにそんなイメージだろう。ガレージやフォーク、サイケデリックなどの要素を昇華した彼ら独自のロックサウンドが、その魅力を増幅してリスナーに伝える。「ひねくれていたり、ダメなヤツだったり、変態だったり、そういうこともライブでカッコ良くやっちゃえば、“カッコ良い”ことになる」という今江の発言は核心を突いている。異端を一瞬でスタンダードに変えてしまうことこそ、ロックだけが持つマジックであり最大の魅力なのだ。そのことをささやかに体現する、Palboの音楽にまず一度触れてみて欲しい。そこには少し変な世界への入り口が、ゆらめきながら手招いている。
Text&Interview:IMAI
Assistant:HiGUMA