響く都、京都が生んだシーンを牽引し続ける2つのバンド、ROTTENGRAFFTYと10-FEETのギタリストKAZUOMIとTAKUMAによる対談がKAZUOMIたっての希望により実現。
ギタリストとしてだけでなく、ほぼ全ての楽曲を制作するソングライターとしての顔を持つ2人による対談は、4時間強にも及んだ。
奇しくもほぼ同時期にリリースされることとなったそれぞれの新曲に隠された誕生ストーリーや、2人にしか分かり得ない喜びや苦しみ、そして嫉妬。両者の持つアイデンティティまで、余すところ無く堪能していただきたい。永久保存版です。
「最終的な目標は、“もっと多くの人に聴いてもらえる音楽を、ROTTENGRAFFTYで”ってことで、それに向かっているだけなんです」KAZUOMI(ROTTENGRAFFTY)
「「金色グラフティー」は、7年前のROTTENGRAFFTYに聴かせてやりたい曲。「進化はしているけど、基本はブレてへんやろ!」って(笑)。」TAKUMA(10-FEET)
●KAZUOMI:今日はツアーの合間の忙しい時にありがとうございます!
TAKUMA:ツアー中に『GOLD』を聴かせてもらったけど、ごっつい良かった! 昔の曲は普段でも聴いてるんやけど、この対談が決まってから改めて聴き直してみたら、細かい音にも気付けたしめっちゃ興奮したな。"ここは手直しできるのに、そのままにしとるな"とか(笑)。「e for 20」が流れた瞬間は当時の思い出が甦ってきて、ほんまに泣きそうになった。演奏も気合い入ってるし最高やね。
●KAZUOMI:そういう聴き方をしてもらえるのがほんまに嬉しいです。確か「e for 20」が出来た時、"この曲めっちゃヤバいやん!"って言われて嬉しかったのを覚えています。
TAKUMA:『GOLD』の曲順的にも「e for 20」はめちゃくちゃいい仕事をしてると思うよ。雅な旋律から細かい符割まで、全てにおいて職人的な作業をしているなってことが聴いていて凄く伝わってくる。ROTTENGRAFFTYは尊敬しているバンドでしかも友達やから、今回改めて違った聴き方ができて俺も嬉しかったな。新曲の「金色グラフティー」も最高やね!
●KAZUOMI:10-FEETの『その向こうへ』を発売前に聴かせてもらって素直に感動して、すぐ"新曲よかったです!"ってメールを送りましたよね。
TAKUMA:きたきた(笑)。
●KAZUOMI:ちょうど「金色グラフティー」を作っていた最中で、実はめちゃくちゃ勇気をもらったんですよ。「その向こうへ」って、楽曲的に斬新なことをしている訳じゃないのに、突き刺さる度合いが今まで以上に深かったんです。13年間続けてきて、音楽的に斬新なものも作りたいんですけどそれ以上に、曲の持つパワーで突き刺さるような曲を作りたいと思っていたところだったので、「その向こうへ」の誕生秘話を訊いてみたくて。
TAKUMA:シングルになる曲を作ってたんやけど、凄くいい曲だけど"力の形"や"曲調"が今出したいシングルのイメージとは違うなと感じるようになって。結果的に2曲目に収録した「淋しさに火をくべ」という曲で、"ボディブロー"のように内部に響く曲なんだけど、その時に欲しかったのは誰が聴いても"ビンタ"のような曲だけど、実は"ボディブロー"のように後から効いてくるような曲。それまでのシングルはずっと"ビンタ"の連続やったからね。
●KAZUOMI:なるほど。
TAKUMA:"今の俺らはこうなんです"っていうものがなかなか出来なくて孤独で寂しくて何もうまくいかない時、スタジオでふと弾き語りし始めたのが「その向こうへ」のAメロで、それからはセッションしながら15分くらいで曲の骨組みが完成した。曲の属性は炎なんやけど、敢えて氷のように演奏する方がより伝わるような曲になったと思っていて、実はROTTENGRAFFTYで言うところの「マンダーラ」みたいな曲を意識していた。
●KAZUOMI:確かに「マンダーラ」ってすぐ出来た曲なんですよ。曲がスパっとできる感覚って、追いかけても辿り着けない感覚だからいつも待ってるんですけどね…。
TAKUMA:そうやねん! ただ待ってても"アイツ"は来てくれへんねん。追いかければどんどん逃げていくし、待っているだけやったら絶対に来てくれへん。でも「金色グラフティー」はほんまにカッコいい曲やし、どうやって出来た曲なのか気になる!
●KAZUOMI:「金色グラフティー」はTAKUMAくんが言うところの"ビンタ"力のある曲で、そんな曲をずっと追い求めていていた時に出来たのが前のシングル曲「銀色スターリー」だったんです。
TAKUMA:でも絶妙なタイミングじゃない? 最初から2曲用意されていたと思ったもん。
●KAZUOMI:ベストアルバム二部作のコンセプトとしては、それぞれに金閣銀閣を意識したシングルを入れた形にしようってことだけで、曲は全く出来ていなかったんです。偶然だけど、先に「銀色スターリー」が出来て、その後に「金色グラフティー」が出来てよかったと思いますね。
TAKUMA:金は銀より上っていうイメージがあるかもしれんけど、銀は金の代わりはできへんし、金も銀の代わりはできへんし、ほんまに絶妙やと思う。
●KAZUOMI:今回は"ROTTENGRAFFTYらしさ"と いうものに敢えて執着したんです。もちろん、うちのNOBUYAとN∀OKIが歌えばどんな曲調でもROTTEN GRAFFTYになっていくんですが、そういうことではなくて...。昔の曲は構成や演奏も今より未熟だったけど、一方では支持されていた部分もあっ て、ベストを作るというタイミングもあり過去の楽曲を聴き直していたんですよ。最近は、知識も増え、機材も増え、小手先や理論といったリスナーには気付かれないようなところに目が行きがちになるんですが、そこを無視してもっと純粋に音楽だけを観ていた頃の自分に 戻ろうとした感じですね。
TAKUMA:その想い、俺にはめっちゃ届いたよ。よく使う"原点回帰"って言葉があるけど、"当時の自分たちをサンプリングするように作り出す方法"と、"たまたま今欲しいものが当時の自分達がやってたことだった"っていう2つの意味があると思うねん。頭で作るんじゃなくてハートで作る感じやね。前者は恐ろしくつまらないものになってしまう可能性があるけど、「金色グラフティー」は明らかにハートで作られた曲やなって思ったし、7年前のROTTENGRAFFTYに聴かせてやりたい曲。「進化はしているけど、基本はブレてへんやろ! 」って(笑)。
●KAZUOMI:ほんまっすね。結成当初の爆発力ってなんやろ? って考えた結果、やっぱりライブにあるんじゃないかなってよく思う時がある。ライブでやりたいことを表現するってことが、今の楽曲制作の答えになっている部分は多いにありますね。
TAKUMA:それは凄くいいことやと思うよ。あれだけライブを続けていなかったら「金色グラフティー」は生まれてなかったと思うな。
TAKUMA:ライブというと、今年の"京都大作戦"でROTTENGRAFFTYはトップバッターを務めてくれたけど、他人事じゃなかったし、感慨深い最高のステージやったよね。
●KAZUOMI:途中TAKUMAくんが「ここで死ね!」って 書いたプラカードを持ってステージに入ってきたり(笑)。俺は、あれだけ大きな会場だし地に足が着いていない感もありましたが、ただただ楽しかった。ほんと良いフェスだなと毎年思わされます。
TAKUMA:心から楽しんでいるのがめっちゃ伝わったなぁ。京都のストリートで一緒にやってきた俺らが、おっさんになってもその延長で、しかも京都で一緒になってオーディエンスを盛り上げているっていうのは、ほんまに誇らしかった。
●KAZUOMI:俺らが一番知名度も低いだろうし、いっそのこと"悪役"になってやろうって。そんな事考えたりしてましたね。調子に乗れたおかげで気分も高揚できたし、結果凄く良いステージにできたと思います。
TAKUMA:期待されるより無茶できるしな(笑)。10-FEETも今年AIR JAMに出演したけど、緊張しただけでほとんど覚えてないんやけど、いい意味で無駄のないライブが出来たと信じてる。
●KAZUOMI:俺もAIR JAMを観に行ったんですけど、Hi-STANDARDがステージに立った瞬間"なんじゃこりゃ!"って魔法にかけられたみたいになりましたもん。
TAKUMA:何万という同じ想いがそこに集まってたもんな。スタジアムで自然にウェーブが起こることなんてまずありえへんし、今思い出しても鳥肌が立つ。とんでもない事が起こっているって記憶しか無いよね。
TAKUMA:親が聴いていた歌謡曲とかアニメソングが持つ"侘び寂び"や"切なさ"をもらいつつ、メタル・ハードロックの金属サウンドとの融合が俺の原点かな。10-FEETの音楽に取り入れている、泣きのメロディや切なさは洋楽からではなく日本の音楽からの影響が大きいよね。
●KAZUOMI:俺も同じことを思っていて、ハードロックやメタル に出会って惚れ込んでいた当時って、その音楽性よりもギターに惚れ込んでいたんだじゃないかと思う事がよくあります。
TAKUMA:80年代は特にバンドのボーカルよりもギターヒーローが目立ってたもんな。
●KAZUOMI:でも最近好んで聴くのは日本の懐メロだったり、家族で見ていたテレビ番組で流れていた音楽なんです。思春期の多感な時期は洋楽ばかり聴いていたのに、ROTTENGRAFFTYでは"日本の音楽"を演りたいって想いが強いですね。
TAKUMA:音楽を始めるきっかけになったのは洋楽で、そこにガキの頃から聴いてきた音楽への愛が反応してお互い今の形になったんじゃないかな。ROTTENGRAFFTYが持っている"和"のテイストは誰にも真似できへんものやし、ほんまにカッコいいと思うな。
●KAZUOMI:昔よりも洋楽が身近にある時代で、その真 似ごとを俺らがやっても面白く無いし、意地でも"和"のテイストを入れたものをやりいなと。昔は、最高の音楽を発信するにはどうしたらいいか? ってことをずっと探していたけど、音楽の聴き方も捉え方も変わってきて、音楽って作るものじゃなくてその人の生き様みたいなものが表れるものなんだって。そんな事をよく考えます。
TAKUMA:音楽って"人が死んで悲しいとき"や"豊作を願って"みんなで歌っていた訳やし、音楽のルーツって"人の想い"に行き着くと思うねん。
●KAZUOMI:音楽を伝えるために発達した技術やものが飽和していて、今は"人の想い"が込められた音楽に飢えている時代だと思うし、そういう部分でお客さんと"想い"を共有していきたいですね。
TAKUMA:今後のROTTENGRAFFTYの計画は?
●KAZUOMI:特に今これをしたいというのはなくて、ラ イブを繰り返して反応を確かめたり、新曲の答え合わせ をしたりしないといけないと思っていて。最終的な目標 は、"より多くの人に聴いてもらえる音楽を、 ROTTENGRAFFTYで"ってことで、それに向かっているだけなんですよ。曲の善し悪しもダイレクトで返ってくるライブはやっぱり面白いですね。
TAKUMA:アメリカツアーに行ったらいいんじゃない? どんなバンドでも得るものはあるけど、特にROTTENGRAFFTYは得るものが大きいと思うな。俺らが感じたのは"まだこんな気持ちになれたんや"ってことだけ。速攻で「1sec.」みたいな曲を作りまくったし、"CDを作らせろ!"ってくらいイメージが沸いてくる。影響を受けた音楽が生まれた土地って、もの凄いパワーをくれるんやなって教えてもらった。
●KAZUOMI:めっちゃ行ってみたいですね!
TAKUMA:音楽をやる理由が増えて、移動中も細胞が音をたてて変わっていくのが分かるねん。海外バンドと裸で勝負出来たのはいい経験になったし、ROTTENGRAFFTYは借金してでも絶対に行くべき! 音を通じて溢れ出てくる人間の"命力(いのちりょく)"だけで判断される世界やから、帰ってきたときのROTTENGRAFFTYを観てみたいし、できるなら俺らも一緒に行きたいくらい(笑)。
●KAZUOMI:実現できたら最高ですね!
TAKUMA:向こう5枚分のアルバムを作れるエネルギーをもらえると思うし、実現できたら面白いよね。
●KAZUOMI:こうして対談できて、同じ悩みを抱えているんだなと分かったし、なんかめっちゃ楽しい嬉しい時間でした。
TAKUMA:結局打ち上げで朝まで喋っているのと同じ内容やったけどな(笑)。
TEXT:上田雄一朗