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the pillows

胸の奥に秘め続ける過去が男を突き動かす。感情を揺さぶる真摯なラブソング

 結成23年目を迎えながらも常に“今”が最も輝いているという稀有なバンド、the pillows。彼らの2011年は、1月の17thアルバム『HORN AGAIN』リリースから始まった。

そのツアーを経て6月にシングル『Comic Sonic』リリース、9月には4度目のアメリカツアー、そして10月にはVo./G.山中さわおの2ndソロアルバム『退屈な男』とライブDVD『BORN AGAIN』を同時リリース。

活発すぎるほどに動き続けてきた彼らが、今年最後をニューシングル『エネルギヤ』で締め括る。来年1月にニューアルバムを控えた、今の心境にも迫る最新インタビュー。

Interview

「本当にあったことを書くのがリアリティではないし、歌っていると本当にあったことのように感情を揺さぶられる曲のほうがリアルだと思うんです」

●今年9月にはアメリカツアーへ行ったり、翌10月には2ndソロアルバム『退屈な男』をリリースしたりと活発な動きの中で、今回のニューシングル『エネルギヤ』はいつ頃に制作されたんですか?

山中:アメリカツアーへ行く前には、録っていたと思います。M-1「エネルギヤ」は、去年の今頃にはデモテープを作っていて。元々は今年6月に出したシングル『Comic Sonic』の、カップリング用に作った曲だったんです。

●元々はカップリング曲のつもりだった。

山中:ほとんど2コードだけで進んでいく曲なので、部屋で1人で作っている段階ではもっと地味な完成形を予想していて。シングル曲になるなんて、想像もしていなかったかな。

●その印象が変わったキッカケとは?

山中:まずイントロができた時点で、急に自分の中でのお気に入り度がグッと上がって。想像したよりも良くなりそうだと思っていたら、メンバーやスタッフからも「カップリングにするにはもったいない」という意見が出てきたんですよ。そこからどんどん好きになっていって、最初は脇役のつもりがいつの間にか主役になっていたというか。

●今までもそういう曲はあったんですか?

山中:シングルではないんですけど、8thアルバム『HAPPY BIVOUAC』に収録した「Funny Bunny」はthe pillowsファンの間ですごく人気があって。その曲も、元々はシングルのカップリング用に作ったんですよね。

●今や代表曲に数えられる「Funny Bunny」も、そうだったんですね。

山中:最初に作った印象ではサウンドアプローチに手柄があるものでもなく、良い曲だけど力作ではなかったというか。でも当時のディレクターが気に入って、「シングルよりもアルバムのほうが聴いてくれる人数も多いから、アルバムに入れよう」ということになって。そしたら今では、the pillowsの中で一番有名な曲の1つにまでなってしまったという…。

●予想外に人気が出たと。

山中:ELLEGARDENがカヴァーしてくれたり、マンガ『SKET DANCE』の中でも使われたりして色んな追い風が吹いた結果、みんなに浸透していきましたね。

●「Comic Sonic」も『SKET DANCE』のTVアニメ版のエンディングテーマだったわけで、何かと縁がありますね。

山中:「エネルギヤ」は当初そのカップリング用だったこともあって、すごく早めに制作も動いていたんですよ。僕はアレンジを考える上でデモを何度も聴き返すんですけど、その中でthe pillowsとしてアレンジした時に力を持つ曲だなと気付いていった感じですね。ツインギターが曲を派手にしたというか、サウンドメイクがすごく気に入ったんです。

●どんなイメージで作り始めた曲なんですか?

山中:去年の秋に僕が主催で"Born in The '60s"という、60年代生まれのミュージシャンが集まるイベントをやったんですよ。出演者は自分が大好きで憧れてきた人たちばかりだったのでそれぞれに色んな影響を受けつつも、「エネルギヤ」に関してはトモ君(TOMOVSKY)からの影響が強くて。本人からしたら"どこが!?"っていう感じかもしれないけど(笑)。歌詞でいうと淡々と箇条書きでフリがあって、最後にオチがある感じというか。

●曲調も意識している?

山中:そういう感じもちょっとはあるけど、別にTOMOVSKYの曲を研究してアレンジをなぞっているわけではないので。僕の想像の中で、トモ君が歌っているとしっくりくる曲っていうことかな。

●山中さんがイメージする、TOMOVSKYが歌っていそうな曲というか。

山中:たぶん、僕はそういう作り方が多いんだと思います。たとえばOASISが大好きだった頃はリアム(・ギャラガー)が歌っている声を想像しながらギターを弾いていると、そういうメロディを作れる気がしてきた。気持ち悪い言い方をすると、その人が自分に憑依している感じになるというか。"イタコ・ミュージック"みたいな(笑)。

●(笑)。この曲の歌詞は10代~20代の人が聴いても感情移入できるけど、もっと上の世代の人が聴いても昔を思い出して胸をかきむしられるような内容だと思いました。

山中:元々は「Comic Sonic」のカップリングのつもりだったので、歌詞の内容もそれに合わせて書いていたんですよ。「Comic Sonic」は高校生3人組を主人公にしたマンガのために書き下ろした青春ソングだから、自分自身も実家の2段ベッドでウダウダしていたあの頃を全力で思い出して作ったんです。

●自分の高校生時代を思い出して書いたんですね。

山中:「エネルギヤ」もそれと同じような感覚で、"若者が聴いてもしっくりくるラブソングにしたいな"と思っていたんです。でもやっぱり今の自分の感情が染み込んでしまうのか、割と大人っぽいものも織り込まれてしまって。その結果、若者が聴いても大人が聴いても感情移入できる曲になったんじゃないかな。元々は若者の気持ちで作ろうとしたんだけど、どうしても今の自分が歌って気持ちのいいものを作ってしまうんですよね。

●今の自分が気持よく歌えないものだと、リアルにはならないですからね。

山中:たとえば映画を観て感情移入できるのは、恋愛で心が動くのを知っているからなんですよね。上手い具合に取り繕って書いても、自分が何とも思わなければリアリティがないわけで。本当にあったことを書くのがリアリティではないし、歌っていると本当にあったことのように感情を揺さぶられる曲のほうがリアルだと思うんです。

●過去を回想している感じの歌詞ですけど、いくつの人が聴いても自分を重ねて感情移入できるというか。

山中:たとえば半年前の過去を歌っていると取ってもいいんですよ。半年前に終わってしまった恋愛に対して、それが"僕を動かすエネルギー"になっているっていう。自分の中にある強い思い出によって、何かを成し遂げたいと思っている男のストーリーですね。

●山中さん自身にもそういう経験がある?

山中:もちろんありますよ! 40歳を過ぎて、恋愛をしたことのない童貞だったら怖いじゃないですか(笑)。

●失礼しました(笑)。ちなみに「エネルギヤ」というタイトルの由来は?

山中:本当は「エネルギー」っていうタイトルにしたかったんですけど、実は同じタイトルの曲がインディーズ時代にあって…(※1stミニアルバム『パントマイム』収録)。でも"エネルギー"っていう意味の言葉をどうしても使いたくて他の言語で探してみたら、ロシア語の「エネルギヤ」を見つけたんです。

●ロシア語だったんですね!

山中:だからジャケットの文字も、ロシア語を使っているんです。ロシア語の形が好きなので、文字要素だけでもかわいくなるだろうなと思って。

●Tシャツのデザインにも使えそうだし…。

山中:まさにその通り! (笑)。昔は意味もなくロシア語のTシャツを作っていたことがあるくらいだから。

●ロシア語だとは気付かなかったので、てっきり造語かと思っていました。自分を突き動かす"エネルギー"にも"ギヤ"にもなると深読みして(笑)。

山中:そうだったら素晴らしかったんだけど、違うんですよ。でも、そっちの方がしっくりくるなぁ(笑)。

●(笑)。他の2曲も最初からシングルに入れるつもりで録っていたんですか?

山中:カップリングはM-2「BLOCKHEAD(in April)」だけで、最初は2曲入りのシングルにするつもりだったんです。M-3「ハイキング」はレコーディングの直前に作って、急に入れた曲ですね。作ってから5日後くらいには録っていたんじゃないかな。

●急に作ったものを収録する気になったのは、良い曲ができた実感があったから?

山中:シングルのカップリング曲ってどうしても冷遇されてしまうので、そこでは自分たちなりの楽しみを見つけるような感じなんです。レコーディングの手法としてやったことがないことを試した曲というか。

●具体的にはどんなことを?

山中:ドラムはビートルズみたいな音が録りたくて、スネアとタムに布をかぶせて叩いたんですよ。それをコンプでグイッとすくって、粒立ちの良い音にしたりとか。ベースはポップミュージックではあまり使われないファズっていうエフェクターを使ったりとかで、自分たちの楽しみを見つけていった感じですね。

●「BLOCKHEAD(in April)」は英詞ですが、日本語だと直接的すぎる表現を和らげるためにそうしたのかなと思いました。

山中:僕は曲を先に作るので、英語か日本語かはメロディが呼ぶほうに決まっていて。歌詞の内容を考えて、決めているわけではないんですよ。でも英語だと、日本語では歌わないことを歌えるという部分はあります。たとえば底の浅い幼稚な怒りを40代が日本語で歌うと気持ち悪いんですけど、英詞にするとまず音楽というフィルターを1枚通した上で歌詞カードを見た時に初めて内容がわかったりする。それは最初から日本語で歌うのと、全然違うんですよね。なので、英詞は暗いものや嫌みっぽいものが多くなっちゃうのかな。

●今年3月の東日本大震災について歌っている?

山中:僕は誰かの役に立つと思って音楽をやったことなんて一度もないし、たぶんこの先もないと思うんです。だから今回のことで、無力感なんて感じないというか。僕の音楽を好きな人たちから役に立ったという報告を受けることはとても嬉しいんですけど、それが目的意識になるというのは全く違う。僕はただ好きで音楽をやっているという感じだから、そうじゃない人がいることに驚いたし疑惑もあるというか。

●結果的に誰かの役に立つことはあっても、それが音楽をする目的ではない。

山中:たとえば"野球選手は野球が好きだからやるんじゃないの?"っていうか。元気を届けることが目的なら、野球じゃなくてもいいと僕は思うので。ただ今回のことでショックを受けていない人間は1人もいないだろうし、僕は僕なりの行動を取る。だけど、それはthe pillowsには関係のないことだし、誰にも言わないで自分1人でやることだと思っているんです。"役に立ちたいと思っている"みたいに誰かから思われるのも、違和感があったのかな。

●その違和感をこの曲では歌っている。

山中:違和感と疑惑、嫌悪感みたいな感じですね。誤解を生むのが怖い内容なのでコンパクトにまとめるのは難しいんですけど、とにかく全部を否定する気も肯定する気もないんです。"無償の愛情を持っている人間がこんなにたくさんいるのか"っていう感動もあったわけで、ただ"違和感があるものもあったよね"というだけで。

●そうやって日々考えていることが、次のニューアルバムにも出ていたりするんでしょうか?

山中:次のアルバムはシリアスだと思います。"年を取っても才能が枯れても、生きていく。都合の良い最終回は来ない。そこをどう生きていくか?"っていうのがテーマなので。去年くらいから徐々に、そういう感情にフェードインしていった感じなんですよ。経験値が増えすぎると、新鮮な驚きや出会いとか喜びがなかなかない世界で生きていくことになる。『退屈な男』というタイトルのソロアルバムを作ったのもそういうわけだし、それがここ最近の僕を取り巻いている感情なんだと思います。

Interview:IMAI
Assistant:森下恭子

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