このコラム連載も2年目を迎えることとなりました!今回から、より実践的な内容の新章に入りましょう。
実際にセルフRECを行うにあたり、あらゆるパターンや実例を踏まえ、細かな検証をしてみたいと思います。想定するバンドの詳細は以下の通り。
*都内在住、大学の軽音部で1年前に結成。平均年齢20歳。
*Vo.&G、リードG&時々Key、Ba.&Cho、Dr.&Choの4人組バンド。Ba.のみ女性。
*ジャンルはUK要素を取り入れた邦楽ギターロック。4人共通の好きなアーティストはアジカン、マルーン5、back number、MUSE、カサビアンなど。
*少し洋楽っぽいメロディー、コーラスワークを重視、16ビートメインのダンサブルな曲調が特徴。
*オリジナル曲は8曲。バンドのホームページはなく、動画サイトにライブ動画を数曲upしているのみ。
*月1~2回ペースでライブに出演、バンド同士のつながりも増えはじめ、対バン相手や観客から「音源が欲しい」と言われるようになってきたので、初の音源制作に動き出したところ。
音源制作に取り掛かり始めた彼らだが、何もかもが初めてで「何曲録るのか」「どこで録るのか」といったところからすでにまとまらず。とりあえず「ライブ会場限定で配布するCD-Rを作る、最低3曲出来れば6曲、出来が良ければCDプレスや配信、リード曲のPV制作も考える」という振り幅の広いプランですすめることになった。
「いきなりレコーディングスタジオで録るのは、全てに於いてハードルが高そう」ということで、まずはお金のかからない軽音部サークルの部室でセルフRECしてみることに。(ある程度の防音がしてある約20畳、天井高2.5m、部屋鳴りはデッドというよりはむしろライブ)
メンバー全員がスタンダードなDAWソフトを所有しており、オーディオインターフェースも2 IN 2 OUTのエントリーモデルがある。まずはサークルで所有する12chアナログミキサーをサブミキサーにして、ドラム録りにチャレンジ。同時に2トラックしか録音できない環境なので、この方法がベストだという結論になった。
先輩に教えてもらった知識とネット、教則本などを頼りに見よう見まねでセッティング。マイクはサークルで使っているエントリーモデルのダイナミックマイクを10本使用。
部室を連続して利用出来るのは3時間が限度。3時間でどこまでやれるのか。
あらかじめDAWに仮ベース、仮ギターを内蔵クリックに合わせて録音しておき、それらをガイド演奏にしてドラム録りに取り掛かる。
長年使いこまれたサークルのドラムセットであるため、チューニングで思ったような音が作れない。ドラム録りのための10本のマイクセッティングにも手間取り、あっという間に1時間が経過。特にキックとスネアの音作りに苦戦する。モニタースピーカーを通した音があまりにもチープで細く、いきなりプロクオリティの音は狙えないとわかってはいたもののテンションは下がる一方。軽く2~3テイク録音したがそれ以上は進まず、敗北感を抱えたままその日は終了。
機材マニアの先輩に相談したところ「サブミキサーに何チャンネル突っ込んで、EQで音作ったとしても、所詮インターフェイスのインプットが2chしかないのでは限界がある」と言われる。「EQのかけ録りは、楽器のナチュラルさが失われることが多い」ので部室ではなく、「リハスタの深夜パックを利用し、機材も上位ランクのものを用いて、同時に10トラック以上録れる環境を構築してみたら?」と提案される。
バンド内で反省を踏まえ話し合い、今度は「ドラムとベースを一緒に録った方がノリが出るのではないか?」という意見で一致。DAWには仮ギターと仮Vo.を内蔵クリックに合わせ録っておき、それらをガイドにしながらドラムとベースを録音しようということになった。
――――果たしてこのRECは成功するのでしょうか。続きは次号で。
【今月のちょいレア】
Radial TriPad (三脚マイクスタンド用アイソレーション・パッド)
録音時の床からの振動ノイズを軽減する、音響特性を計算して作られたスポンジ材質のユニークなアイテム。このようにマイクスタンドの足につけて使用します。リハスタなどでのセルフREC時に使用すると、音質が少しクリアになりますよ。
2016年にいろいろな動きを企てているCoo(クー)迫真のレコーディング風景
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【樫村 治延(かしむら はるのぶ)】
STUDIO CHAPTER H[aus](スタジオチャプターハウス)代表・レコーディングエンジニア・サウンドクリエーター。Whirlpool Records(ワールプールレコード)brittford(ブリットフォード)主宰。
専門学校非常勤講師、音楽雑誌ライターとしても活動。
全国流通レベルのレコーディング、ミックス、マスタリング、楽曲制作を年間平均250曲以上手掛ける。
スタジオについての詳細は http://www.chapter-trax.com/ をご覧ください。
当スタジオで一貫して制作されたアーティスト作品の一部をご紹介します。
エンジニアといたしましては、webや動画ではなく是非「CDで」音質をチェックしてほしい!!!
JUICE&LOVE「50/50」
ポール・ウエラー、エルヴィス・コステロ、ELO、ニルヴァーナ、ウィルコなどを彷彿とさせるPOPロックの決定盤。日本語で歌いながらも多大なる洋楽の匂いがすることろが素晴らしい。2015年12月全国発売。
tribe「それはそれでいい日だった。」
時代の先端を駆け抜ける、神奈川在住ダンスロックバンドのマキシシングル。コード進行と音色の使い方が巧みで、一度聴いたら頭から離れない。キャッチーなメロディー、声質、歌詞も実に良い。
aie「After Hours」
AORとハードコアがクロスオーバーした、オリジナリティーあふれる新感覚のロックテイスト。フェスなどにも出演、有名バンドとの対バンなど話題には事欠かない。
THE JAGUAR「CAN’T STOP!」
ファンキーで渋めのリアルなロック。Vo.しげるのどこか物悲しい歌声は聴き手をメランコリーな気分にさせる不思議な魅力がある。卓越した演奏力にも注目。
山下一樹カルテット「magic hour」
プロJAZZドラマー山下一樹率いるカルテットのフルアルバム。国内屈指のプレイヤーによる演奏が炸裂する。ドリーミーな曲調を、シックに料理出来る手腕は見事としか言いようがない。大人のジャズを率直に楽しんで欲しい。
【PV紹介】marigold/S.H.E