ケラ&ザ・シンセサイザーズの三浦俊一、FLOPPYの戸田宏武、筋肉少女帯の内田雄一郎、そして河塚篤史というキャリアと実力を兼ね備えたメンバーによるバンド、NESS。
ロックを基調としたリズムに電子音とノイズが絡み、作曲部分とインプロヴィゼーションがスリリングに交差するサウンドはジャンルを超越して鳴り響く。
結成から半年も経たない内に発表される1stアルバム『NESS』はプログレ、ポストロック、エレクトロニカ、ノイズなどマニアックな要素をベースにしながらも、美しくポップな音楽へと昇華。
彼らが持つ可能性と自由度を体現するデビュー作だ。
「何か企めるんですよね。到着する地点が見えているだけで、そこに精神的な縛りが一切ないからストレスフリーで楽しくやれているのかな」
●NESSは今年、結成したばかりなんですよね?
三浦:この4人になったのは、今年の6月ですね。一番最初は、僕と戸田の電子ノイズによるセッションみたいなところから始まっているんです。最初からバンドでやろうとは思っていたんですけど、その時はまだメンバーの調整もついていなくて。とりあえずイベントに出る機会があったので、まずは2人だけでやってみました。
●その時はサウンドも今とは違っていた?
三浦:その時は電子機器を使うことに主軸を置いた感じだったんですよ。僕もギターを弾いてはいましたけど、ピッキングはあまりせずにE-Bowという機械でずっとフィードバックさせていたりして。今作『NESS』の音よりも、もっとノイズやエレクトロニカ寄りの感じでしたね。
●そのイメージからすると、今作はずっと聴きやすくなっていますよね。
三浦:エレクトロな音はノイズ方面に特化させて、ギターを主体にした感じですね。最初はMerzbowみたいに"ゴーッ!"っていう音が続くハーシュノイズ的なものも考えていたんですけど、それだけをやるという覚悟が僕たちはちょっと弱かった(笑)。
内田:1時間続けてノイズをグワーっとやる勇気もなければ、自分でも飽きちゃうだろうなというところなんですよ。それでポピュラリティがなくなるよりも、もっと広がった方が面白いんじゃないかという考えは全員に共通していると思います。
●サウンドが変わったのは、この4人になってから?
三浦:やっぱりバンドになってから、聴かせたいところが変わったんですよね。レコーディングしたものを編集していく作り方だと、バンドっぽさが薄れちゃうので。別々にベースとドラムを録った曲もありますけど、基本的には"せーの"で一緒に録っています。
河塚:ドラムも曲の頭から最後まで通して録ったテイクの中から、良いものを選ぶ感じでした。
内田:バンド内での押し引きみたいな微妙な感覚が、ツアーをやったことで養われたんですよ。
●リリースする前にまずツアーをやったんですね。
三浦:ツアーをやることで、まずメンバー同士の人間関係を作りたいなと思って。行動を共にする中で、意外な接点も見えてきたりもしましたね。
●全員が元から知り合いというわけではなかった?
三浦:最初は僕と戸田の2人から始まって、戸田の提案で僕が内田を誘って。内田の繋がりで、河塚くんが加わったという流れです。僕は河塚くんとは、このバンドで初めて一緒にやりましたね。内田と一緒にやっているのを観て、凄いドラマーがいるなとは思っていましたけど。
内田:僕と河塚くんは10年来の付き合いなんです。
●4人で音を合わせるのは、そのツアーが初めてだったわけですね。
三浦:リハも2回くらいしかやらずに、ツアーに出ましたね。"ここからここまでは自由で、このフレーズが入ったら次の展開に行く"みたいな、ザックリとした決めごとしかなくて。曲自体は最初に戸田と2人でやった時点で、M-4「Desert」とM-6「Summer Folklore」はあったんですけど。
●その2曲は今と形が違っていた?
三浦:やっぱり、バンドっぽくなりましたね。「Desert」はリフが全部シンセだったので、今よりエレクトロっぽかったかな。ドラムとベースを録ったら良い感じだったので、そっちになじむように曲を作りかえちゃったという。最初は編集して作っていくつもりだったので、素材集めくらいの感覚で録り始めたんですけど。
●最初のツアーで、バンドとしての方向性が固まった感じでしょうか?
三浦:方向性というよりも、人間関係が固まった感じですね。それが実際の音にもちゃんと反映されました。M-2「R33」なんかは戸田が構築してもっと編集されたものになるのかなと思っていたんですけど、そうはならなくて。たぶん、メンバーとの繋がりの中で「演奏が良いじゃん!」という評価をしたんだと思っています(笑)。
戸田:その通りです(笑)。
●音楽的な方向性を話し合ったりはしていない?
河塚:こういうバンドにしようとか、こういう音楽を作ろうとかは話したことがないんです。イメージの擦り合わせは全くしていないですね。
三浦:最初に一例として「ROVOみたいな宇宙っぽいのが良くない?」とか、大雑把な感じで話はしていて。でもROVOに対しても、それぞれでイメージが違うわけですよ。ある人にとっては"バイオリンのいるバンド"だし、またある人にとっては"1曲が10分くらいあるバンド"だったり、色んな切り取り方がある。そういう部分が一致しないまま進んでいるところはあるかもしれない。
内田:なので、今日の取材でだんだん構築されていくわけですよ。全てが現在進行形ですから(笑)。
●6月に結成して、11月末にアルバムリリースというのもすごく早い感じがします。
三浦:やっぱり、付き合いが長いですから。僕はFLOPPYのサポートもしているので戸田とは一緒にいる時間が長いし、内田となんて四半世紀超えですからね(笑)。内田と河塚くんは10年来の付き合いだから、僕としては河塚くんと繋がれたら問題なくやれる。そして戸田は内田と河塚くんとの関係さえ構築できれば、それで済むわけで。
●しかも、キャリアのある人たちですからね。
三浦:4人ともそれなりにキャリアがあって、現場で鍛えられている人ばかりなんで、それほど不安はなかったというか。"集めてみて仲が悪かったらどうしよう?"っていう不安は、ほんのちょっとだけありましたけど(笑)。
●(笑)。人として合う合わないはありますからね。
三浦:でも意外なところで共通項があったりして。内田と戸田がプロレスの話をするとは思わなかったな(笑)。河塚くんが使っている"小出(こいで)"というシンバルに、僕が興味深々になったりとか。
河塚:ものすごく食いついてきましたよね(笑)。
●戸田さんと河塚さんは何か接点があるんですか?
戸田:前世からの因縁が…。
一同:(笑)。
戸田:色々とありますが、ソウルメイト的な部分も含めつつですね。
●それぞれやってきたジャンルは違うわけですが、音楽的な共通点はあった?
内田:僕と河塚くんはキャリアからしてヘヴィな方向を想像されると思うんですけど、実はそういうわけでもないんですよ。2人とも「ピコピコしたものがやりたい!」とここ20年くらいずっと思っていたのに、発表できる場所があまりになかったんです。だから、ここぞとばかりにNESSではピコピコいわしてやろうかと(笑)。
三浦:ちっともピコピコしてないじゃん! (笑)。
一同:(笑)。
河塚:メンバー全員が同期ものに対して、一切抵抗がないんです。そういう音もすごく自然に存在しているので、いざ形になってみるとそれがあまり強調されていないというのが面白いなと。
●内田さんと河塚さんによる共作曲のM-5「Ukee」はどうやって作ったんですか?
内田:リズム隊でNESSというバンドに"これだ!"というものを突きつける…という気負いもあまりなく(笑)、「2人で1曲やってみない?」という気軽な感じでリズム主体の曲を作ってみました。
●曲名には何か意味がある?
内田:意味は…徐々に作られていきます(笑)。
●(笑)。M-4「Sonar」や「Desert」は何となく、曲名のイメージで作ったのかなと思ったんですが。
戸田:曲を作った後にタイトルをつけたので、そういう感じではないですね。
三浦:M-1「Memories」は曲を作りながら、並行してタイトルも浮かんでいた気がします。「Summer Folklore」は"夏フォーク"っていうテーマがあったので、そのまま。この曲では戸田と僕が交互に歌っているんですけど、歌詞の内容も擦り合わせていなければ、お互いに何を歌っているかも知らないんですよ。
●歌詞についても、それぞれが自由に書いている。
戸田:なので歌詞は全然繋がっていないんです。
三浦:歌の使い方も楽器的なんですよね。だから歌詞カードもないんですけど、ブックレットが紙ペラ1枚だけだと寂しいのでデジパックにしたという(笑)。ジャケットは戸田のデザインで、バンドロゴの一部分を使ったシンプルな感じになっています。
●そもそもNESSというバンド名にした理由とは?
三浦:とりあえず"アルファベット4文字、カタカナ2文字"という制約を先に付けて候補を挙げた中から、戸田が選んだ感じですね。
内田:みんなにメールが送られて来て「バンド名はNESSになりました。というわけで、この件は終わり」とだけ書かれていて。僕らは何も言えなかった(笑)。
一同:(笑)。
戸田:三浦さんとはよく「意味がわからない名前が良いよね」っていう話をしていたので、「NESSって何かわからないですね」という感じで決まりました。
●感覚的な感じで決めた?
三浦:具体性がない方が良かったんですよ。何かに限定されない方が良かった。
内田:それは僕も思っていましたね。NESSって言われてもイメージはよくわからないけど、"NIKU"とか"SUJI"だったらやることが決まってきちゃうから(笑)。
三浦:そんなことを言いながら、この人は"肉"や"筋"が入った名前のバンドをやっているんですけど(笑)。
内田:そういえば、両方入ってたな(笑)。
●(笑)。リスナーも色んな想像ができるように、イメージを限定しない感じでしょうか?
三浦:限定してもらってもいいんだけど、例えば赤ちゃんの名前をつける時みたいな"こう育ってほしい"という気持ちは皆無というか。どこにでも行けるようにしておいた方がいいのかなと。
河塚:…育つかどうかもわからないし(笑)。
一同:(笑)。
●それは悲しい(笑)。
河塚:それならそれでNESSっぽいというか。限定しないところが素敵な名前だという印象が僕はありますね。
三浦:活動の場やスケジュールを、僕が先に作っちゃうんです。場があれば人は動くし、そこでちゃんと形にするメンバーだというのはわかっているから。クオリティもちゃんとしたものを出してくるとわかっているので、不安はなかったですね。
内田:本当に放任主義というか。言葉がない分、逆に"ちょっと何かやってみたいな"と思わせるバンドなんです。
●やっていて楽しいから、そう思うんでしょうね。
河塚:何か企めるんですよね。範囲が限定されていないのでやりたいことを自由にできるし、こういうことをやらないといけないという縛りもない。ただ、その中で良い形にしていこうという意識はそれぞれにあるはずだから、最終的には良いところでまとまる。到着する地点が見えているだけで、そこに精神的な縛りが一切ないからストレスフリーで楽しくやれているのかなと。
●次回作が今回と同じ方向性にあるとは限らない?
三浦:誰か1人がキッカケを出せば、そっちにガッと向く可能性もあると思うんですよ。たとえば内田が「俺、野口五郎を10曲歌いたい!」って言い出したら…。
●2枚目でいきなりのカバーアルバム? (笑)。
三浦:でもその時にそれを面白いと思えば、たぶんやっちゃうと思うんですよね。しかもみんな本気でやるから、素敵なクオリティで(笑)。
内田:そんなことすらできてしまうかもしれないという、可能性を秘めたバンドですね(笑)。それだけ自由度が高いということです。
河塚:何が起こったとしても、それをやれるバンドなので。"これはNESSでは無理かな"っていう括りがない。そういうフレキシブルなところも居心地が良いし、この感じで楽しく長く続くことを僕は夢見ています。
戸田:…そうしたら、ポエトリーリーディングがしたい…。
一同:(爆笑)。
Interview:IMAI
Assistant:HiGUMA