京都在住のシンガーソングライターにして巫女の職に就く、白波多カミン。
彼女の1stミニアルバム『ランドセルカバーのゆくえ』にはバンドサウンドを中心に、ピアノの弾き語りからギターとバイオリンのみによるものまで多彩な形態の楽曲が収録されている。
日常からふと感じたものを時に鋭く、時に優しく表現する彼女。
そんな独自の感性を持つ若き才能に迫るべく、GYUUNE CASSETTEオーナーの須原氏と共に話を訊いた。
●カミンさんは小学5年生の時にギターを始められたという事ですが、どういったきっかけで?
カミン:ふと楽器をやりたいと思ったんですけど、ピアノはみんな小さい頃からやってるじゃないですか。じゃあギターにしようかな、みたいな軽いノリです(笑)。
須原:でも、今はピアノも弾いてるよね。それはいつから始めたの?
カミン:大学生に入ってからなので、そろそろ4年目になります。独学でやっているので割と適当というか、右手はギターのコードを参考にしながら"このコードはこの音だから、ここを押さえたらいいかな"って感じで、左手はただルート音を弾いているだけですけどね。
●"だけ"というほど簡単な事でもないような…。
須原:ちなみに、最初にあえてギターを選んだ理由は?
カミン:その頃、私は19(ジューク)がすごく好きだったんですよ。他にもゆずやくるり、椎名林檎さんをよく聴いていました。
須原:曲からはあんまり影響を感じないけどなぁ(笑)。
●確かに。日常で感じた事を、"白波多カミン"というフィルターを通して表現しているような曲ですよね。歌詞もメロディも決して突拍子もない訳じゃないのに、なぜか人とは違うキャッチーさがあるというか。だからどうやって曲を作られているのか気になって。
カミン:作り方はいろいろですけど、基本的にメロディありきですね。"これが来たら次はこれ"って感じで自分なりにグッとくるコードの流れがあって、それを曲にしてるだけ。歌詞にメロディを付けるタイプではないし、歌い方も特に意識はしてないです。
須原:歌詞と言えば、彼女の言葉の感覚は本当に面白い。あえて同じコード進行で作ってる曲が多いんだけど、メロディーと歌詞で惹きつけられるから、飽きる事がないんだよね。
●そうですよね。特にM-1「コトバのうら」の歌詞は1サビの"強く殴りたい"、2サビの"強く守りたい"、大サビの"そっと守りたい"という言葉の変遷がすごく印象的で。
カミン:意識的にそういう使い方をしている訳ではなくて、自然と出てきました。"殴りたい"と思う気持ちと"守りたい"気持ちは表裏一体というか、ほとんど一緒だと思うんです。
須原:ほぼイコールだよね。あと"期待を捨てきれずに 君の事悪く悪く言ってしまう"っていう歌詞とかすごい。彼女は感情の切り取り方が上手いんですよ。そうやって出てきた言葉も、考えていないようですごく考えられている。
カミン:本人は全然意識してないですけどね(笑)。考えていてもすぐ忘れちゃうし。
●あはは(笑)。
須原:捉え方は人それぞれなんだけど、僕は彼女がオルタナティヴな音楽をする人だと捉えていて。ニュアンス的にはリズ・フェアとかメグ・ベアードに近いと思う。
●あ、何となく分かります。どちらもオルタナティヴな人たちですよね。そういう意味ではM-2「本当の温度」の歌詞にも、カミンさんの人間性が出ている気がします。
須原:曲によっては誰かが憑依しているかのような表現をする事もあるけど、「本当の温度」に関しては普段しゃべってる言葉やテンションそのもの。たぶん、この人の本質である"平等さ"が出てるからでしょうね。ちなみにレコーディングの時に「バイオリンの音が欲しい」って言うから、急いで弾ける人を探してきたんですよ。
カミン:バイオリンと2人でしたかったんです。
●M-4「頭脳戦」も大サビ部分のバイオリンアレンジがすごくいいなと思いました。
カミン:あのアレンジいいですよね。メロディ自体は私が考案したんですけど、レコーディングの時にバイオリンを弾いてくれた岡本さんと一緒に作り込みました。初めに指弾きしてもらったら、あまりにもかわいい感じの音になってボツにしたんですけど(笑)、弓で弾くとすごくカッコよくなりましたね。
●少しハネるようなリズムから、ビブラートのかかった繊細なトーンに変わるところがまたカッコいいですよね。M-6「size」はアルバムの中でも少し異質というか。全体的にカミンさんの曲は芯の強さを感じるフレーズが多い中、誰もが抱えているような"心の弱さ"が出ている気がして。
カミン:私の曲って、確かに自分が思っている事もあるんですけど、曲でそう言い切る事で自分を納得させる部分が多くて。「size」もそれが出ている曲だと思います。歌詞にする事によって自分を保とうとしている。
●言葉にして初めて、意識できたり明確に見えてくるものもありますしね。カミンさんの曲には"君"という言葉がよく出てきますけど、何となく特定の誰かを指しているような気がして。特にM-7「ランドセルカバー」とか。
カミン:その曲は昔一緒にユニットを組んでいた子に書いた曲なんです。私の小学校では、1年生は黄色いランドセルカバーを付けて登校しなきゃいけないという決まりがあったんですけど、2年生になると付けなくなるんです。そして、その使わなくなったランドセルカバーは押し入れにしまい込んで忘れられてしまう。ランドセルを背負っている君からは見えないけど、君を守っているもの。でもいずれいらなくなる。このタイトルを付けたのは、私が君にとってのランドセルカバーみたいな存在だっていう事なんですよ。自分で作詞作曲した初めての曲だと思いますね。
●全体を通して思った事なんですが、言葉のひとつひとつに感情がにじみ出ていて、カミンさんの背景が伺えるようなアルバムだなと。
須原:今回のアルバムでは、10代の白波多カミンを総括できた気がしますね。最近の曲もあるけど、だいたい10代の時に作った曲が多いんですよ。
カミン:オリジナル曲を作り始めた頃にやりたかった事が、全部入っているんじゃないでしょうか。自分の形成の過程というか。もちろん生きている限りずっと過程なんですけど、その始まりとも言える作品ですね。
Interview:森下恭子