昨年9月の活動休止から1年3ヶ月。UPLIFT SPICEのYOOKEYとCHIOが中心となり、THE MUSMUSの新しい創造的活動がスタートした。破壊を繰り返してきた末に彼らの手の中に残っていたものは、純粋かつ普遍的な音楽への想い。高いセンスで生み出される楽曲と確かな演奏、CHIOの唯一無二のエモーショナルなヴォーカル、ものを創り出すことへの真摯な姿勢が1つとなり、THE MUSMUSは我々に新しい景色を見せてくれるに違いない。
●UPLIFT SPICEからTHE MUSMUSというバンド名に生まれ変わったわけですが、“THE MUSMUS”という言葉にはどういう意味があるんですか? 調べたら蒸し料理専門店しか出てこなくて…。
YOOKEY:丸の内のね(笑)。
CHIO:一人称単数は“MUS”なんです。
●えっと、なんの話ですか(笑)。
CHIO:私が昔ハムスターを飼っていたんですよ。オスとメスで、それぞれ“ハム”と“スター”という名前を付けていて。
●センスあるネーミングですね。
CHIO:で、ハムとスターがガンガン子どもを産んで、16匹くらいになったんです。ハムとスターは見分けがつくんやけど、他は1匹ずつ名前を付けていたけどわからんようになったから、“ハムスター”の間を取って“ムス”、全部ひっくるめて「ムスムス」と呼んでいたんです。
●はあ。
CHIO:私はそのときはまだ小学生か中学生かくらいだったんですけど、100匹にしたかったんです。だけど寿命が短かったからその夢は叶わなかった…それをパッと思い出して、ハムスターが「ムギムギ〜ッ!」としてんのが、モッシュの感じに似ているなと。
●音楽は全然関係ないと思っていたら、そこに繋がるんですね。
CHIO:そう。ハムスターは生きるためだけにいるじゃないですか。それがすごく純粋な世界だなと思ったんです。狭い世界やけど純粋。だから100匹になるようにというか、それがいっぱいになるように“THE MUSMUS”と付けました。
●なるほど。昨年9月にUPLIFT SPICEが活動休止したわけですが、それからの流れはどういう感じだったんですか?
YOOKEY:活動休止した理由は、単純に4人の限界というか“これ以上は無理かな”というところがあって。でも俺がひとり「やりたい!」と言い出したんです。そもそもUPLIFT SPICEは俺が最初に言い出してやり始めたところもあったので、また復活させようっていう気持ちもありましたし、とりあえず置いておいたというか。
●解散じゃなくて、置いておいたと。
CHIO:女々しいですよね。たぶん別れた彼女のものとか捨てれへんタイプ(笑)。
●ハハハ(笑)。
CHIO:活動休止した後、他でも音楽ができるのか…YOOKEYはYOOKEYで音楽をやれる場所を探していたし、私は私で探してみたんです。“UPLIFT SPICEはこの4人だ”という想いが強かったから、私はもう壊すしかないと思っていたし。でもピンと来なかった。
YOOKEY:俺もサポートとかやってみようと思って、スタジオに入ったりもしたんですよ。でも“なんで人の考えたフレーズを弾かなあかんねん!”となって。
●YOOKEYは自分が作るものに150%くらい自信を持っているようなタイプですからね(笑)。
YOOKEY:“自分で作らなアカン!”ってなりました。
●なるほど。
CHIO:それでYOOKEYから「一緒にバンドやろう」と連絡が来て。でも「やろう」と言われて気持ちだけで「やろうぜ」という気分にもなれなかったから、条件として「私がときめく曲を3曲書いた上で、もしやるのであれば私はサウザーになりたい」と言ったんです。
●サウザー? 『北斗の拳』の?
YOOKEY:はい。言うなればピラミッドの頂点ですね。
CHIO:そう。だから「お前に決定権はないぞ」と。
●ハハハ(笑)。絶対的権力でバンドに君臨すると。
YOOKEY:しっかりしているバンドって、絶対的な権限を持つやつがいて、役割分担を振っていて。UPLIFT SPICEはそれがピラミッドじゃなくて台形みたいな状態だったんですよね。みんなで話し合いを繰り返して「くしゃくしゃ〜」となっていたので、そこの権限をCHIOが握る(笑)。
CHIO:音楽以外のところでもフラストレーションが影響することが多かったから、「私が指揮を執る。それでもいいか?」って。そしたら「どうぞどうぞ!」と。
●ハハハハハ(笑)。ちなみに3曲ってどれを聴いたんですか?
CHIO:M-2「バイナリ」とM-1「BAPTISMA」と、もうひとつは今作に入っていないやつです。その3曲を聴いてやりたいと思ったんです。やりたいというより、私しか歌えんと思った。“誰にも歌わせたくない”って(笑)。
●それで、サウザーが君臨したと。
CHIO:だから、やるにあたっては「やりたい」と言ってくれるメンバーを集めようということでSHINGOとKYOYAの2人が入ったんです。
●YOOKEYは、曲作りの感覚は以前と違ったんですか?
YOOKEY:違いますね。自分自身でも音楽をやっていく意味とか考えたんです。やっぱり“売れたい”っていうのはすごく思うし、今でも絶対に変わんないんですけど…。
●はい。
YOOKEY:“ロックって何なんだろう?”と思って。例えばアーティストサイドでも「最近洋楽とかでもいいのないよね」と言う人がいるんですよ。俺はそこで“なら自分で作ればいいじゃん”と思っちゃうんですよね。でも、いい音楽を見つけたら“こういう風にやろう”と思う人ばかりというか。
●うんうん。
YOOKEY:作る上で先駆者がいて、それを追ったり掘り下げる人が8〜9割だろうなと思っていて。“じゃあアーティストって何なんだろう?”と。“ものを作るってどういうことなんだろう?”ということを考え出しまして。
●なるほど。
YOOKEY:で、もっとリラックスして…今までだったら、いつまでに曲を作らなきゃいけないとか、活動していくには〆切があって、そういう部分に囚われていたところもあるし。自分たちはライブハウスでやっているから、ライブハウスの人に向けて“こうやったら盛り上がってくれるよね”っていうのを考えちゃって、それに縛られることがあったと思う。でも、そういう縛りがなくなったっていうか。
●純粋にいいものを。
YOOKEY:うん。ただ、自分が今まで味わってきたものを落とし込むっていう。そういうのが曲なんだろうなって。それは自分にしかできないことで、その評価はみなさんがする、という形がいいんだろうなと思って曲を書いたんです。曲作りに対しての考え方がフラットになったというか。
●そういう意味でフラットになったんですね。
YOOKEY:ただ、今まで味わってきたという部分ではやっぱりラウドな音楽からの影響とか刺激が強いんですよ。でも、それが流行っちゃったじゃないですか。だからみんなと一緒のことをやっても違うと思って、“ギターロックも好きだから混ぜよう”と。それが新しいものになればいいなって。
●現4人が揃ったのはいつぐらいの話なんですか?
YOOKEY:7月です。
●最近やん。
CHIO:レコーディングの1ヶ月前でしたね。
YOOKEY:7月に決まって「よし、録るぞ!」ってなって、地獄(笑)。メンバーを探しつつも、同時にずっと作っていたんです。
●UPLIFT SPICE当時からのYOOKEYとCHIOちゃんの良さは把握していたつもりなんですけど、今作はそれが更に洗練された感じがあって、完成度の高い曲ばかりですね。
CHIO:UPLIFT SPICEは私の中ではいろんなものをぶち壊したいという気持ちが強かったんですけど、今回YOOKEYのデモを聴いて“やりたい”と思ったとき、次にやるなら何かを壊すというよりも新しい世界を作りたいと思ったんです。
●お。
YOOKEY:めっちゃいいこと言った。“壊す”じゃなくて“生み出す”ね。向いている方向は一緒だけど、根本が違うから結果が変わるはずだっていう。
CHIO:要するにYOOKEYの曲が変わったと思ったんです。UPLIFT SPICEみたいな曲だとたぶんやってないし。もしかしたら聴く人は“あ、UPLIFE SPICEだ!”となるのかもしれないけど(笑)、デモ3曲は私の中では結構大きく違って聴こえた。
●イメージ的な話ですけど、今作はUPLIFT SPICEほどの悲しみがないというか。マイナスな感情を、UPLIFT SPICEほど感じない気がする。
CHIO:辞めたことによって、私とYOOKEYの何かが変わったのかもね。それに新しく入ったKYOYAとSHINGOも破壊的な人間ではないから。
●歌詞を作る上でも違うんですか?
CHIO:違う。
●今作の歌詞、そこまで暗くないですよね。エグい言葉は相変わらず使っていますけど(笑)。CHIOちゃんは昔から常に“死”を前提にして生きている人だという認識なんです。
CHIO:うん。
●UPLIFT SPICEの歌詞にはそういう色がすごく出ていて。今作もそういう前提はあるんだけど、例えばM-3「SILENT FINALE」を聴いて思ったのは、死ぬことに対して前向きに生きようとしているというか、前向きに死のうとしている歌詞というか。
CHIO:ほんとそうなの。私はソクラテスっていう哲学者が好きなんですけど、彼がいろいろあって処刑されるんですよ。そのときに誰かが「どうして悪くないのに処刑されないといけないんですか?」ってすごく悲しんで。
●ふむふむ。
CHIO:ソクラテスは常々「無知であることは恥だ」と言っていた人で、自分が知らないことを追求するのがすごく好きな人なんやけど、「じゃあ君は死の世界を知っているの?」と。「人は死んだことがないのに、みんな死を恐れている。僕は死ぬから“死”というものを知れるんだよ」と言って死んでいったんです。
●ほう。
CHIO:それが私の中では衝撃で。確かに私が死んだら、腐って養分になって周りの雑草とか花とかになって、形を変えてまた生きると思うんですよ。例えば地球が爆発しました、宇宙のチリになってまた新しい星ができます…そう考えたら、そんなに悲しいもんじゃないかなって。
●そういう感覚が、生きていく上で根本にあるということ?
CHIO:あるね。今まで壊していく作業をずっとしていて、自分たちも壊れて、何もなくなった状態になって。そこから何かを生み出そうとか、何かが生まれるっていうのはこういうことなのかな。
●ツアーは来春を予定しているとのことですが、今までライブは何回くらいしたんですか?
CHIO:まだしてないです。
●あ、ゼロなのか。
YOOKEY:12/17に渋谷O-Crestでワンマンがあるんですけど、それが初ライブです。
CHIO:おかげさまでチケットはソールドしました。UPLIFT SPICEが終わるとき、ツアーをしなかったんですよ。「終わることが決まったらツアーをやる意味がない」と私が言って。今回も、やるからにはワンマンじゃないと嫌だと言って(笑)。
●サウザーだ!
CHIO:「スタートワンマンはソールドやろ。これは決定事項や」みたいな。
YOOKEY:俺らも「はい!」って(笑)。ソールドアウトするかどうかなんて、そんなもん俺らもわかってないのに。
●楽しみですね(笑)。
YOOKEY:やっぱり今までたくさんライブをやってきたから、ライブっていうものに対する意識が常にあるというか、ライブハウスへの想い入れも強いし。今だったらネット中継もできるし、動画もいっぱい上がっていてライブを観た気になっているかもしれないけど、実際に足を運んで体感してほしいって思いますよね。
●うんうん。
YOOKEY:自分たちが生きてきたジャンル…今で言えばラウドシーンって、結構ライブでやることが決まっているじゃないですか。でも考えてみたら、表現することに対してダメなものなんて何もない。やっちゃダメなことなんてひとつもなくて、“音楽とは自由なんだ”っていうことなんだと思う。そういうことを表現していきたいと思います。
interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:森下恭子