根っからの“欲しがり”関西人にして、抜群の歌唱力とライブパフォーマンスを見せる“1人エンターテイナー”、大野賢治(以下オノケン)が1stミニアルバム『絶対大野』をリリースする。関西圏のストリートライブでは瞬く間に大勢の人を集めてしまうほどの支持を得てきた彼だが、昨年12月に上京。その半年後には渋谷duo MUSIC EXCHANGEでワンマンを敢行するなど、貪欲かつ精力的な活動を続けてきた中で満を持して初の全国流通盤リリースに至った。様々な想いのこもった、選りすぐりの楽曲満載の今作について、オノケンに訊く。
●去年の12月に上京してきて、その半年後にいきなり渋谷duo MUSIC EXCHANGEでワンマンをやったんですよね。あれはどういう狙いがあったんですか?
大野:その前に渋谷gee-ge.でワンマンをやったことがあって、その時は動員が60人くらいやったんですよ。せっかく東京に出てきたっていうのもあるし、「最近、ムチャしてなかったな」と思って。
●ムチャしてやろうという気持ちもあって、一気にキャパシティが10倍くらいの会場に挑んだ?
大野:ムチャすることに対して「アホちゃうか」って言う人もいっぱいいるんですけど、やれるタイミングがあるならムチャしてみるのも面白いと思っていて。“歓迎会”というサブタイトルを付けてお祭り的な要素も含めつつ、「上京して初ワンマンをduoでやりやがったで! 東京にオモロいヤツが来たな」っていうのをちゃんと認識してもらえるようにという意味もあったんです。実際に周りからもそういう反応があったので、やって良かったなと思います。
●まずその行動に対して興味を持ってもらえた。
大野:一発目やからというのもあって、「オノケンがどんなオモロいことをしてくれるんやろう?」っていう感じはありましたね。ファンの人以外にも面白がって観に来てくれる人たちがいたので、何とか形にはなりました。
●普段、オノケンさんのストリートライブにたくさん人が集まるのも、単に歌って演奏するというだけじゃなくて、そこで何か面白そうなことが起きているのを感じるからこそというか。
大野:音楽だけやったらCDを聴けば良いと思うし、ライブではそこにある熱量とか喋りの部分も大事にしたくて。元々お喋りが好きなので、MCも含めて1つの流れにしたいなと思っているんですよ。そういうところも含めての自分なので、そこもちゃんと見てもらえたらなと。
●YouTubeに上がっている動画を見ると、同じ曲でもライブごとに違ったりしますよね。
大野:全国色んな場所へ応援しに来てくれる人もいたりするので、そういう人に「前と一緒か」と思われたくないところがあって。お客さんのほうがそういうところに敏感やから。「あそこの歌いまわしが今日はちょっと違ったよね」とか、自分自身すらも気付いていないようなところに気付く人もいるんです。毎回来てくれる人にも「今日も来て良かった」と思ってもらえるように、自分の芯は残しつつ毎回変化を見せるというのは意識しています。
●そこは意識的にやっていると。
大野:あと、自分は基本的にイタズラっ子なんですよね。ライブ中に思い付いてしまって、「じゃあ、やってしまえ!」みたいなのが結構あるんです(笑)。
●そういう見せ方のライブに比べて、逆に今作『絶対大野』にはアレンジャーが参加していたりと、音源でしかできないことを意識して作ったのかなと。
大野:アレンジにはアシガルユースと、ラブハンドルズの溝下創さんに参加してもらって。今回参加してもらった人たちにも「ライブと作品は別物やで」と言ってもらったし、自分でもそこを意識したというか。今回のレコーディングをしたことで、そういうところにも気付けたんです。でもライブが自分にとって一番の魅力ではあると思うので、やっぱりライブミュージシャンなのかなって思いますけどね。
●収録曲はどれもライブでよくやっているもの?
大野:基本的に、ライブでやっている曲をパッケージしたという感じですね。
●M-2「カーニバル」はYouTube上にいくつも動画が上がっていますが、代表曲のような感じでしょうか?
大野:みんなが面白がってくれる曲という意味では、代表曲と言えるかもしれませんね。でも「カーニバル」はどちらかと言うと“起爆剤”みたいなイメージで、今回はリード曲のM-1「世界はいつも」が自分の中では一番聴いて欲しい曲なんです。歌いまわしとかも含めて、自分らしさをギュッと詰め込めたから。
●「世界はいつも」は、どういう想いを込めて作ったんですか?
大野:自分は元々“寂しがり”なんですけど、東京に来てから「極限まで寂しくなると、人はこうなるのか…」というものを感じて。1人になると色んな面でネガティブになってしまって、duoでのワンマンを迎える前とかは朝からお酒を呑んで落ち込んでしまっているような日もあったくらいなんですよね。そういう時に、自分の身の周りにある1つ1つの世界がすごくキラキラ輝いて見えてしまったんです。みんなが発している言葉に対して、本当は「良かった」と思ったことも「良かった」と言えなくなる自分がいて…。
●周りに対しても、ネガティブな見方をしてしまうようになっていた。
大野:誰かが言ったことに対して「それって、ただ儲けたいだけやろ?」とか思ってしまう“黒い自分”が出てきた時に、ふと「でも俺もそういうことを言ったりするよな」と思ったんですよ。そこで「みんな、そうなんやな」と思って、自分の心が晴れた瞬間だったというか。自分がなぜそういうことを言うのかと考えたら、それが自分自身の幸福のためにしていることだからなんですよね。「みんな結局は誰かをどうこうしてやろうというよりは、自分が幸せになりたいんやな」というところに辿り着いて。
●余計な考えを振り払えたというか。
大野:「30歳も過ぎてから、東京に出てきてどうすんねん?」と言われたりもするけど、「世界はいつも」はそういう自分の中での葛藤も全部詰め込めた曲になって。レコーディング中にも色んなことがあって、すごくヘコんでいる時もあったんですよ。この曲を録る時にそういう時のことを思い出して、レコーディングブースで泣いてしまったんです。そのテイクはボツになったんですけど(笑)、それくらい感情を詰め込めた1曲ですね。今回の作品全体という意味でも、そういう気持ちをぎゅっと詰め込めた音になっているなと思います。
●東京に出てきてからの葛藤や想いもこもっている。
大野:今まで音楽をしてきた自分の自信を崩されて、「周りなんて…」っていう卑屈なヤツになっていたんです(笑)。そこから立ち直れた曲ではありますね。
●これ以外にも上京してから作った曲はある?
大野:M-4「心に鍵をかけました」は東京に出てきてから作った曲ですね。「カーニバル」とM-5「紙一重の未来」は前からある曲で。M-3「微笑みの爆弾」も前からライブでやっていたのを、大好きすぎて今回は入れちゃったという。
●「微笑みの爆弾」(馬渡松子のカバー)は、アニメ『幽☆遊☆白書』のオープニングテーマとして有名な曲ですよね。
大野:原曲が大好きで、本当に色々と勇気をもらった曲なんです。ストリートライブでもよく歌っているんですけど、その動画がYouTubeにアップされているのをご本人が見たらしくて。大阪のライブハウスで本人とつながっている知り合いがいて、その紹介で馬渡さんと一緒にライブをやらせてもらえることになったんですよ。
●ご本人と共演されたこともあるんですね!
大野:馬渡さんは体調を崩されて長期間活動休止されていたんですけど、そこから復帰して2〜3回目くらいのライブでご一緒させて頂いて。その時の打ち上げでご本人とお話しさせて頂いたりもして、その次は自分のイベントに馬渡さんを呼ばせてもらったりもしたんですよ。そこから何度も共演させて頂いたり一緒に飲んだりしていく内に馬渡さんも僕のことを気に入って下さって、「もう1回歌えるようになったのはオノケンのおかげや」みたいなことまで言ってもらえたんです。本人にそう言ってもらえたのは、すごく嬉しかったですね。
●交流を深めていったと。
大野:今回も「カバーを入れさせて頂くことになりました」と報告したら、すごく喜んで下さって。できあがったものを聴いて「オノケン、最高だよ! CDをいっぱい売って、私の老後を支えて下さい」っていうおちゃめな返信も頂きました(笑)。それを見た瞬間にもう嬉しくて、めっちゃ泣いてしまったんです。本人とここまで想いが共有できていなかったから、今作には入れていなかったと思いますね。単に好きやからとかいうノリだけじゃなくて、ご本人から聴かせて頂いた色んなお話も踏まえた上で入れさせてもらったので本当に思い入れが強いです。…そう考えたら、今回は思い入れの強い曲ばかりですね。
●そんな作品に『絶対大野』というタイトルを付けた理由とは?
大野:“絶対”っていう言葉が好きなんです。言い切らないと、ステージの上では無力やと思っているから。僕の捉え方なんですけど、ステージに立つ人って導いていく立場やと思うんですよね。みんなの視線がその人に向かうわけで、そういう意味では“絶対的な存在でいなければいけない”という自分への戒めの意味もあって。
●ステージの上に立っている時は、絶対的存在でいたいと。
大野:自分はどこまでも“欲しがり”で厚かましいので、それやったらもうタイトルに“絶対”って付けても誰も文句言わへんやろうし、文句を言う人がいたらいたでもう仕方ないなって思うんです。言葉の流れとしても言いやすいし、そういうタイトルをつけている人は他におらんなと(笑)。
●いないでしょうね(笑)。
大野:「こいつ、自分好きやな〜!」っていう(笑)。ここまで来たら、それくらいのほうが面白いなと思って。CD店で見かけた人も「はぁっ!?」ってなるやろうけど、2度見してしまうと思うんですよ。あと、少なくとも全国の大野さんは手に取るやろうから(笑)。
●1つのフックにはなりますよね(笑)。リリース後は来年にワンマンも予定されているそうですが。
大野:2/19に心斎橋Music Club JANUSで、3/5に下北沢GARDENでワンマンをやります。それぞれのサブタイトルを“絶対大野”の“西宴”と“東宴”と掲げていて。映像を使ったりして色々と工夫をするつもりなので、西と東の両方に来てもらえたら両方で違う楽しみ方ができるんじゃないかなと。もちろん今作の収録曲もやるし、来てもらったら絶対に楽しいと思います!
Interview:IMAI