約6年ぶりにSTANCE PUNKSが完成させたアルバム『P.I.N.S』は、TSURUとテツシの共作、女性ゲストヴォーカル、キーボードやシンセなどの新しいアプローチが満載で、今後の大きな可能性を存分に感じさせる意欲作だ。更に、“破壊”や“衝動”を超えた精神性はより研ぎ澄まされ、今の時代に深く強く突き刺さっていく。いつまでも少年性を持ち続け、時代に抗い続けてきたSTANCE PUNKS、今回の彼らは“愛”を武器にして闘いを続ける。
●今回のアルバムを聴かせて頂いて、今後の可能性が広がる予感がしたんです。今までにないようなテイストだったりアプローチがある作品だと思うんですが、新しいことがやりたくなったんですか?
TSURU:うーん、俺は新しいことをやってないかな(笑)。でも新しいというか、凝ったよね、珍しく。
●バンド以外の音が入っていたり、女性のコーラスというか、デュエット的な曲があったりとか。作曲クレジットが2人の曲もあるし。
川崎:2人で作曲したのは、他にも何曲かあったんですよ。結果的にM-10「sunny」だけになったんですけど、3曲ぐらいあって。今回、試行錯誤した部分は多いかもしれないですね。
TSURU:でも10年ぐらい前から(2人での作曲は)やってたよね。
●あ、そうなんだ。前から試みてはいたと。
川崎:たまに気まぐれで、スタジオに入ってやってたりしたんです。
TSURU:でも上手い事いかなかったんだよね。合作って難しいっすね。
川崎:共有できる部分というか、円が2つあって交わるところって少ないじゃないですか。少ないけど、ドンピシャでイメージ共有して、更にそれが曲に反映されるっていうのがなかなか難しかったんですけど、それはやっていくうちにできるようになったというか。だからそれまでの経験が布石になって、今回はできたのかもしれないです。
●今までの積み重ねがあったからこそだと。
川崎:と言っても、そんな積み重ねてないですけどね(笑)
TSURU:4年に1回くらい気まぐれでやってたぐらい(笑)。
●「sunny」は、メロディの持っていき方とか、今までにないテイストを感じたんですよね。
川崎:歌詞の乗せ方とかもですよね。それは最後の最後まで決まんなかった。
TSURU:すげえ最後だったよね。CDに入っているバージョンの歌詞でちゃんと全部フルで歌ったのは、レコーディング当日っすよ。歌詞ができたのがレコーディングの2日前かな? だから1回も練習しないまま、いきなり本番みたいな。
●さっきおっしゃってましたけど、言葉の乗り方にちょっとだけ違和感があって。一行に収まってないというか。それがすごく気持ちいいし、新しい感じがしました。
TSURU:まあ世間的には多分何も新しくないと思うんすけど。
●STANCE PUNKS的には新鮮です。
TSURU:STANCE PUNKSはずっとオールドスクールなバンドですからね。「sunny」もオールドスクールだと思うんですけど、自分はやった事ないことをやってみたいなっていうのがすごくあって。
●アルバムとして“こういうものにしたい”というイメージはあったんですか?
TSURU:うーん。“俺らはどこに行くんだろう?”っていうのは、今までよりも考えて作ったような。
●“俺らはどこに行くんだろう?”というのは?
TSURU:期間が空いたっていうのもあるし、毎回次のアルバムを作ろうとなったときにテツシと話して、方向性会議的なものがあるんですよ。それが今まででいちばん長かったというか。今まで通りの形よりも、多少変えてみようという話になったんです。全体的に聴いたら、全部が全部変わってる訳じゃないしですけど、そういう気持ちは今回大きかったね。
川崎:うん。
●改めて考えてみたと。
川崎:6thアルバム『ザ・ワールド・イズ・マイン』(2010年2月)でちょっと行き過ぎたんで(笑)。ああなってくるともうハードコアというか、そういうスタイルとはやっぱちょっと違うんで。やっぱり持ってるメロディとか、ポップなものとかっていうのは大事にしたいなと。より歌が聴けるパンクロックがやりたいというか。
●まるっきり新しいことをしたというよりは、今までSTANCE PUNKSが持っていた要素のバランスをちょっと変えてみたということなのかもしれないですね。2人で方向性会議をした中で、やりたい事がいろいろ増えてきて、結果的に時間がかかったと。
川崎:とは言っても、やりたいことというのはそんなに多くなくて。人にはできる範囲っていうのがあるし、スキルとかもあるので。でも挑戦の幅をちょっと広げることはできたのかなとは思います。
●精神性は今までと変わってない。
川崎:あ、でも、よりそういう部分は強くなったんじゃないかな。
●基本的に「stay young」(2011年11月リリースのシングル曲)で歌ってることの延長線上に今作の歌詞はあると思うんですけど、それがより強くなったし、純粋なところはより純粋になっているような印象があるんですよね。
TSURU:そうですね、今回は“愛”がテーマなんで。
●あのSTANCE PUNKSが、“愛”?
TSURU:うん。STANCE PUNKSはずーっと愛のバンドですよ(笑)。
●愛のバンドでしたっけ(笑)。「愛がテーマ」という明確な自覚があるんですか?
TSURU:うん、今回はありますね。
●あ、でも「sunny」を聴いたときに明確にそれは伝わってきました。だから歌詞の部分でも「sunny」は新しいと思ったんです。なぜ“愛”をテーマにしたんですか?
TSURU:俺らはベストは出してるけど、震災後にアルバムを出していないから、あのとき受けたものがずっと残ってたっていうのはある気がしますね。
●震災のときにTSURUくんは「吐きそうになった」とおっしゃってましたよね。
川崎:今は構築していかなきゃいけないんじゃないかな。破壊されちゃったんで。世の中的にもどんどんそういう方向に向かっていて。日本に住んでいるので、もちろんそういうことも影響してくるじゃないですか。だから「日本が今こうだからアルバムのコンセプトはこうしようぜ」と決めたんじゃなくて、本能的に感じとって、いちばん純粋に作品に出るのが“愛”だったというか。それが足りないんじゃないですかね、今の日本。うちらが感じたってことは、そういうことだと思っているんですけど。
TSURU:パンクロックっていつも何かと闘ってなきゃならないと思うから、闘うときに、自分が何を持って闘うかということなんです。例えば拳のときもあるのかもしれないし、荒んだ言葉のときもあるのかもしれない。だけど今の日本もそうだし、世界中で全部が全部平和な場所なんて絶対ないですよね。だから闘うために、俺たちが持つ武器は今作は“愛”なんだな、っていう。だから闘いは常に続いてます。“愛”を今回は武器として闘おうという。
●なるほど、“愛”を武器に闘うアルバムだと。「sunny」の歌詞はまさに“愛”を伝えていて、今までの破壊だけじゃない、その一歩先に行くような内容ですよね。
TSURU:この歌詞には本当に苦労して、何回も書き直したんです。単純に言葉の乗せ方が難しいっていうのもありましたけど、“どうやって自分の中の愛を歌えばいいんだろうな”と思って。露骨な愛の歌って、歌ったことがなかったので。どっちかというと“ぶっとばせ”とか“ぶっ壊せ”とかそういう方が多かったじゃないですか。文句を言うだけじゃなくて、その一歩先にある愛に到達しなきゃいけないなと思った作品ではありますね。
●新しいアプローチや今後の可能性を感じた曲について…例えばミュージックビデオになっているM-1「大人になんてなるもんか」はすごくスケール感があって、U2のようなスケールの大きなロックを想起したんですよね。
川崎:フェスでやりたいので。フェスに呼んでください。
●僕に言わないでください(笑)。これはどういうきっかけでできた曲なんですか?
TSURU:テツシといろんな海外のバンドを聴いて研究してたんです。だからあながち間違ってなくて「スケール感の大きいのを作ろう」って。STANCE PUNKSがスタジアムでやったらどうなるだろうなっていう。
●なるほど、鳴ったときのビジョンがあったんですね。
TSURU:うん。だから頭の中になんとなくの想像のライブがありながら作った曲ですね。
●あとM-7「イギーとポップ」というポップなアッパーチューンがありますが、これは女性のコーラスが入っていますよね。
TSURU:デモを作ってスタジオでみんなで合わせて練習していて、歌っているときに女の子の声が聴こえてきたから、じゃあそのままその案を活かして入れてみようかなと。友達に頼んで歌ってもらったんです。
川崎:paranoid voidのMEGURIちゃんに歌ってもらいました。
●このポップさもSTANCE PUNKSの延長線なんですけど、ここまでポップに聴こえるものはあまりなかったですよね。テツシくんが作ったのはM-6「Oh!ディスティニー」とM-8「ロケットを飛ばして」ですよね。やっぱりテツシくんらしいというか、音楽的なリスペクトも感じつつどっちもノリがよくて。
川崎:曲ができるときって、いろんなものがシンクロしてくるっていうか。さっきの共作の話もそうなんですけど、例えばメロディを歌ったらそれが違う何かに似ていることって絶対にあるじゃないですか。でもそれってパクリとか盗作じゃなくて、それを超えた潜在意識で繋がっているものがあると思うんです。例えば懐かしいメロディとか。
●聴いたときの感覚が近いという。
川崎:そうなんです。それが実際に、結構いろんな音楽を聴いてくるとパズルみたいにはまってくるんですよ。そうやってできた曲って自分の中では大体いい曲だから。そういうのを出したいと思っているんですけど、この2曲はそういうので作った曲なんです。
●なるほど。それとM-4「あいあむにっぽん」はすごくライブで映えるというか、みんなと一緒に歌えるような曲ですね。
TSURU:もうライブでも何回もやっていて。これは俺が作った震災復興ソングなんです。
●歌詞の中で“あいあむにっぽん”という言葉が出てきますけど、歌詞の内容に直接リンクしているわけではないですよね。
TSURU:俺はほとんどそうなんですけど、タイトルからできた曲です。“あいあむにっぽん”という言葉は抽象的なだけに、受け取り方によってはかなりヤバい感じに取られる可能性は十分にあるんです(笑)。要は“みんな日本じゃん”っていう。日本は一億何千万人という人が集まってできていて、当然ひとりひとりが違う人間で。でもやっぱり日本っていうものを応援するために、ひとりひとりが“あいあむにっぽん”じゃないだろうかっていう。そこから始まった歌ですね。
●使命感と言うと語弊があるかもしれないけど、震災のときに感じたものが、曲として落とし込まれているということなんでしょうね。
TSURU:うん。今回実際使命感めいたものはちょっとありましたね。「あいあむにっぽん」に関しては特に、これを出すまでに10thシングルで「原発ソング」を出したし、11thシングルで「戦争を知らない子供たち」のカヴァーもして。自分が今思っていることで“これは違うだろう”いうことをガツン! と歌ってきたんですけど、今回はガツン! じゃなくて、がんばろうっていう。若い頃って、「みんながんばろうぜ!」と言うのはかっこわるいという感覚が絶対あるんですよね。
●うんうん。
TSURU:でも基本的にはそういうことが嫌いなわけじゃなくて。オリンピックとか応援するし。でも、自分が歌う音楽としてのアプローチで“みんなでがんばっていこうよ”って言うのが、基本的には俺は嫌いなんですよ。今でも“ライブに来たい奴だけ来ればいい”としか思わないですけど、そう思わなかったのが震災だったんですよね。だから素直に歌えた。
●本心としてそういう気持ちが出てきた。
TSURU:いつもあった気持ちではあるんですけどね。それを出せるような変化があったんじゃないですかね。だからといって、アルバムの曲全部がそういうわけじゃないんですけど。
●そうですね。でも“愛”がテーマになっているから、根底では繋がっている。
TSURU:ここはみんなで団結してやんなきゃっていうことが、すごく今の…原発のこともそうだし安保のこともそうだし…ひとりひとりで言ってるだけじゃダメだぞっていう。そういう風に思った事柄が、俺らがアルバムを出していなかった数年感にいろいろとあった。
●確かに、この5〜6年は日本にとって激動の期間でしたもんね。
TSURU:やっぱり俺も、そういう気持ちになって作った曲もあるということですね。
●よりパンクロックを体現するようになったのかもしれない。
川崎:今の時代をちゃんと見とかないと。この先、教科書にも捏造されたものが載るわけじゃないですか。でもちゃんと自分の目で見て行動していかないと。この10年はやっぱり変わると思うんです。
●その時代に生きるバンドとして、しっかりと形にしようという。
川崎:あ、でも、ロマンチックではいたい。
●ロマンチックな部分も相変わらず今作にめっちゃ入ってます(笑)。というか、あなたたちは充分ロマンチックじゃないかと。
川崎:ロマンチックおじさんですからね(笑)。
●おじさんと言うのも憚られる少年性もあるし。言葉も音楽もそうですけど、今作はなんかキラキラしてて。
TSURU:ロマンチック洗練おじさん(笑)。
●ロマンチック中二病おじさん(笑)。
川崎:それを世間では「メンヘラ」って言うらしいですけど、うちらはメンタルヘラヘラおじさんという意味で「メンヘラ」ですよ。
一同:アハハハハ!
interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:森下恭子