いよいよ来年には結成20周年を迎えるパーティーテクノユニット、HONDALADYが1年半ぶりの新作をリリースする。彼らの代名詞とも言えるヴィンテージアナログシンセ“TB-303”と、90年代テクノの元凶ことAKAIのサンプラーをメインで使用して作られたという今作『SAMPLING MADNESS』は、原点回帰を思わせる混沌とした雰囲気に溢れ返っている。一部で話題沸騰のサブカルマッシュアップデザインのMOUNTAIN GRAPHICSが担当したジャケット同様に、最高にマッドでジャンクな怪作がここに誕生した。
●前回のインタビューでは「世の中の9割はダジャレ」とおっしゃっていましたが、今回のM-6「赤い狼」の歌詞でも“やる気だけはまんまんビル・ワイマン」と…。
マル:やっぱりダジャレですね。
Die:ダジャレというよりは…オヤジギャグですよ。遂に俺たちが一番蔑んでいたところに…(笑)。
●オヤジギャグを蔑んでいたんだ(笑)。
マル:何のてらいもなく、それが出てくるようになっちゃったからね…。
Die:この歌詞を見た時はギョッとしましたよ。「何だ、これ? …またダジャレ!?」っていう(笑)。
●そういう意味では、前作『LOOPER LOOPER』からの延長線上にあるのかなと(笑)。
マル:ダジャレの部分で!?
Die:地続きになっている(笑)。
●中年の悲哀を歌った歌詞というところでは、つながっていますよね?
マル:そこはあんまり変わったことはできないんですよね。よくよく考えてみたら、酒を飲みながらうだつの上がらない話をしている…という内容ばかりで(笑)。もう妬み嫉みが…。
●M-2「らったった」はそれがわかりやすく出ている。
マル:「らったった」なんて最たるものですね。僕はもう世の中に憤っていますから! これは現代のSNS社会に対する憤りをぶつけたメッセージソングなんですよ。
●SNS上で“見なくてもいいものを いちいち目にして腹立てて 言わなくてもいいことを わざわざ世間に問いただす”ようなことをやっている人への皮肉?
マル:皮肉です。あと、“自分もそうだった”っていうオチですね。そういう戒めも含めています。本当に世の中みんな、懐がどんどん小さくなっているなと。「許せない!」と言う人がどんどん多くなっている気がして。「ほっとけよ!」って思うんですけど、それがみんなできなくなっているんですよね。
●みんなが“下品な正義を振りかざす”というか。
マル:無粋ですよね。
●そうじゃなくて、HONDALADYは粋なものをやってやろうと。
マル:粋でありたいとは思いますよ。
Die:粋でありたいんだ(笑)。
●粋でありたいと言いつつ前作では「寝ずの番」というストーキングソングで歪んだ性癖を垣間見せたマルさんですが(笑)、今回のM-8「SM:)E」ではもっとヤバい方向に…。
マル:どんどんイケナイ方向に行っています。(この曲の歌詞は)もはや犯罪者ですからね(笑)。
●今までは遠くで見ているだけだったのが、今回はトランクの中に入れちゃっていますからね…。
マル:しまい込んじゃいました(笑)。もちろん多少の創作感はありますけどね。
●多少なんだ(笑)。
Die:闇は深いです…。
マル:いやいや、これは自分の抱いている愛情に相手が必ずしも応えてくれるわけではないというお話ですよ。「これだけ俺が頑張っているのに、なんで君は泣いているの!?」みたいな。
●そこだけ聞くとラブソングっぽいですけど、歌詞をちゃんと読むと…。
Die:猟奇的ですよね(笑)。
●狂気すら感じさせるというか(笑)。今作はタイトルにも狂気(MADNESS)が入っていますが、タイトル曲のM-1「SAMPLING MADNESS」はどういうイメージから?
Die:今回のジャケット制作を依頼したMOUNTAIN GRAPHICSさんは、色んなロゴの一部を使って“ロゴマッシュアップ”というのを作品としてやっている人なんですよ。今回のアルバムタイトルを送って「好きにやって下さい」と言ったら、上がってきたのが今回のロゴで。そのイメージから僕が曲を作ったという感じですね。
●ロゴに刺激されて作ったんですね。
Die:できてきたロゴがすごかったから、じゃあ1曲作ってみるかとなったんです。あと、昔のアルバムって1曲目にそういうコラージュ的なトラックやイントロみたいなものが入っていて、そういうものをいつか作りたいと思っていたんですよ。今回は禊のアルバムだから、自分たちが作りたかったものを色々と形にしようと。
●M-3「見得ScrAmble」に出てくる“QJ未だにバイブル”みたいなワードも、自分たちが影響を受けてきたものを晒しているのかなと。
Die:実際、『Quick Japan』は僕らのバイブルだったんですよ。そのあたりは僕ら世代の内面から出てくる単語を散りばめている感じですね。
●M-7「SINGHA」は、シンハービールが好きだからとか…?
マル:ビールを飲みたいからですね(笑)。「SINGHA」はDieちゃんがトラックをほぼ作ってきて、「こういう曲だから、サビに一発ドンと歌が入っていると良いんじゃないか?」みたいな話になって。そこからメロディと歌詞を考えたんですけど、曲を聴いてイメージをふくらませていった感じで。フェスとかに遊びに行く若者たちの青春の1ページを切り取ったようなイメージで、そこにビールがありましたっていう話かな。
●ちなみにM-9「93AD091」のタイトルって何か意味があるんですか? ネットで検索しても全く一致するものが出てこなくて…。
Die:これは僕の大学時代の学籍番号ですね。
マル:そんなの、ネットで検索しても絶対にヒットするわけないよ(笑)。
●なぜそんなタイトルに…?
Die:これは初期のAphex Twin周辺をイメージして作ったんです。Aphex Twinが当時出した曲のタイトルが数字の羅列だったりしたので、そういうイメージでたまたま覚えていた自分の学籍番号を使ってみたという…。
●そこにも影響を受けたものが出ているわけですね。そして今後「93AD091」をネット検索すると、Dieさんの学籍番号だとわかってしまうと(笑)。
マル:それで学籍番号が“93AD092”の子から連絡が来たりしてね(笑)。
●ハハハ(笑)。「93AD091」もそうですが、イメージを膨らませれば色んな方向に深読みできるような仕掛けが数多くありますよね。
マル:余計な深読みがたくさんできるアルバムになったんじゃないかなと思いますね。すごく混沌としているというか。なるべく洗練された感じを出すのはやめようということは最初から話していたんですよ。ジャンクなものというか、ゴチャゴチャとしていて、計算できない感じが良いのかなと思って。ジャケットもそういうノリだし、何かそういうモードだったんですよね。
●でもM-5「U2U2」では“もうちょっときちんとしないとね 大人なんだからしっかりしないとね”と歌っているわけですが…。
マル:きちんとしていないんですよ…。だからサビでは“不安だ、不安だ、不安だ”とずっと歌っているんですけど、そういうシンガロングって今までになかったと思うんですよね。
●あっ、この部分はライブでお客さんもシンガロングしなきゃいけないんですね。
マル:しなきゃいけないんですよ。演奏をいったん止めて、みんなで歌うイメージが僕の中ではあります(笑)。
●これも中年男性には、身につまされる歌詞というか。
マル:人生の半ばを過ぎると、迫ってくるものが色々と出てきますからね。“もうちょっと真面目にやらなきゃいけないのかな?”とか、そういうことを毎日考えていて。そこからにじみ出たのが、この曲です。
●日々、不安を感じている?
マル:不安しかないですね。経済面や老いとか健康に対しては、みんな不安があると思うんですよ。僕はもっとパッパラパーな感じなので、そこまで悩んでいたりはしないんですけど、ちょっとは悩んでいるわけで。世の中の人たちを俯瞰したつもりになって見てみると、その不安から逃れるために頑張っていたり、自分にエクスキューズを作っている人が多いなと思って。…僕はまずジムに通っている人が嫌いなんですよ!
●…ほう?
マル:ジムって本来は、目的のための手段のはずなんですよ。でもジムそのものが目的になってしまっているというのが僕には理解できないし、納得できないんです。そういうものも健康面の不安から逃げるための策なわけで。…とか言いながら、ジムに行ったら行ったで楽しかったりするんだろうなって。
●そこでも迷いが出る。
マル:そういうことに対して「ケッ!」と思う自分も嫌だし、だからといってバカみたいに「やっちゃおう〜!」みたいな感じになるのも「ちょっとな…」っていう、そのどっちつかずな心情ですね。悶々としています…。
●そういう歌詞が多い中で、逆にM-4「Phoenix」は迷いを振り切っている感じがします。
マル:これは1つのアンチテーゼというか、ファイティングポーズというか。HONDALADYは来年で結成20年になるんですけど、「惰性でやっているんじゃないの?」みたいに思われるのが嫌で、「そうじゃないんだぞ!」っていうのを言いたかったんです。
●そういう気合も入っていたと。今回は世紀末ジャパニーズアンダーグラウンドテクノシーンのレジェンドたちもミキシングに参加しているそうですが。
Die:「Phoenix」をPARTS OF CONSOLE(Frogman)にお願いして、「SINGHA」はJaermulk Manhattan(とれまからリリースしたEfectaheadのメンバー)にやってもらいました。Jaermulk Manhattanは僕が別でやっているアシッド田宮三四郎というアシッドテクノユニットのメンバーでもあって、同世代の人たちなんですよ。
マル:“その頃”のムードがわかる人に渡してみようという感じでしたね。
●90年代テクノの空気感を知る人たちなわけですね。今回はHONDALADYの代名詞と言えるTB-303とAKAIのサンプラーを使っているのも、そういうところから?
Die:原点回帰みたいな感じですね。
マル:AKAIのサンプラーなんて今や中古楽器屋に行けば、千円くらいで買えますからね。昔は30万円くらいしたのに…、この資産価値のなさ!
Die:今はパソコンで全部できちゃうからね(笑)。
●でも今回はあえて当時の機材を使ったと(笑)。
Die:今回は結成当時の90年代的な空気を出したいということや、原点回帰で「やりたいことをやろう!」みたいなところに主眼を置いていた気がします。
マル:その一環としてそういう機材を使ったり、昔の作り方を今に落としこんだりしたつもりですね。
●先ほどおっしゃった“混沌としている”というのも、初期衝動感につながるかなと。
マル:グッチャグチャなんですよ。何も考えがまとまっていないし、勢いだけで作っていたものばかりだったから。その得体の知れない感じを今回は出したいなって。
Die:そういうものしか僕はできないから。マルは器用なので色んなことができるんですけど、僕は好きなものを作るくらいしかできないんですよね。だから、そういうものが自然と出ているのかなっていう気はします。
●そういえば聞き忘れていたんですが、「赤い狼」のタイトルはどこから来ているんですか?
マル:これの原曲をAKAIのRhythm Wolfという機材で作ったんですよ。だから、AKAI(赤い)のWolf(狼)だなって…。
●なるほど…っていうか、これってもしや…?
Die:ダジャレです!
マル:やっぱり最終的にはダジャレなんですよ(笑)。
一同:ハハハハハ(笑)。
Interview:IMAI