胸を締め付けるような感情を呼び起こすVo.絵夢と“平成の押尾コータロー”とも言うべき技巧で楽曲に彩りを加えるG.貫名によるアコースティックユニット、minor syndrome。曖昧で複雑な感情を綴った楽曲でリスナーを魅了する2人組が、8月にニューシングルを発売することが決定した。約1年2ヶ月振りとなる新譜『声』は、前作『ドワーフプラネット』のリリースツアーから得たものを昇華し、普段思っていても口に出せないことや、今の時代だからこそ生まれてきた言葉たちが赤裸々に歌われている。心の内から聴こえてくる“声”に、どうか耳を傾けてほしい。
●minor syndromeさんのプロフィールを見ると“2012年の8月に初ライブ”とありますが、そのタイミングで結成されたんですか?
貫名:結成自体はほぼ同じ時期ですね。ただ元々彼女がソロで活動していたとき、僕はサポートでギターを弾いていたんですよ。その期間を経て2人でやることになって。
●初めから知っている間柄だったんですね。そもそも音楽活動自体はいつ頃から?
絵夢:私は音楽系の専門学校に入った頃なので、18才頃です。
●ということは、その頃からアーティストとしてやっていきたいという気持ちがあった?
絵夢:そうですね。誰かに習うということはなかったんですけど、中学の頃から少しだけギターの練習をしていました。
貫名:僕がギターを始めたのは高校生の頃です。同級生でゆずの弾き語りをしている奴らがいたんですけど、顔は全然イケてないのに周りに人が集まっていて。あまりコミュ力があるタイプではないし、勉強も運動も苦手だったから“ギター1本であんなにチヤホヤされるんや!”っていう安易な考えで。
●ギタリストあるあるですね(笑)。
貫名:しかも僕は双子なんですけど、片割れは中学の卒業式で第二ボタンどころかブレザーもポロシャツも全部ボタンがなくなるくらいモテるんですよ。だから“同じ顔やのにそんなに違う!?”みたいな気持ちがずっとあったわけです。それもあってモテたくてギターを始めたんですけど、そもそも人前に出るのが苦手やから、弾けるという事実を知っている奴がほとんどいないまま卒業するという。
絵夢:残念すぎる(笑)。
●そう考えると音楽歴はすごく長いですね。初ライブ時からオリジナル曲はすぐに作り始めたんですか?
貫名:初ライブの時点で、1曲だけふたりで作ったものもありました。それ以外はまだ絵夢がひとりで活動していたときの曲をふたりVer.にアレンジしていましたね。
●作詞作曲は、基本的に絵夢さんが?
絵夢:歌詞は全て私で、曲は一緒に作っています。
貫名:初めのうちはいろいろな作り方をしていましたが、今はコード進行から作ることが多いですね。彼女は書きたい歌詞がたくさんあるから、「こういう曲が作りたい」と言われたときにそれに沿ったものを出すようにしています。
●なるほど、やりたいことのストックがいっぱいあるんですね。今作『声』は3曲入りシングルということですが、どのような作品なんでしょうか?
貫名:前作のミニアルバム『ドワーフプラネット』を作ったときに、“自分たちはこういう曲を作りたい”という大まかなビジョンが見えてきたので、今作はその成果を存分に昇華できた音源になったかと思います。
絵夢:“もっと直接的で歌詞でもいいのかな”とか“今の時代のことも書きたいな”という想いが生まれてきたんですよね。
●M-1「新月の願い事」は片思いの曲ですが、今おっしゃった通り他の人なら濁すような言葉もストレートに表現されているのが印象的です。
絵夢:相手には好きな人がいて、でもその人の事がずっと好きで…という曲ですね。ただこの歌詞はあくまで想像で、最初のAメロの“雨に打たれた窓ガラス”というところから出てきた言葉を書いて広げていきました。
●そこからストーリーができていったんですね。実体験で歌詞を書くことは少ない?
絵夢:読書や映画が好きなので、最近はそこからインスピレーションを受けて作ることが多いですね。ジャンルとしては恋愛ものが好きですけど、その中でも割とドロドロした話の方が好みです。キラキラしたものも好きなんですけど、どうしても綺麗事に聴こえてしまうときがあるじゃないですか。だから自分から曲を出すときには“みんな思ってはいるけど、実際は言わへん言葉”とか“友達にも言えへんこと”を形にしています。
●2曲目の歌詞はまさに“普段思っていても言えないこと”だと思います。“明日が来なければいい もうこのまま目が覚めなきゃいい”とか“死ぬ勇気はないけど 今のボクには生きる勇気もないから”というのは、人には言えないけど身に覚えがある方も多いんじゃないでしょうか。
絵夢:これはリアルに自分も思ったことがあって、人に言えへん分歌で吐き出したんです。
●普段言えないからこそ、誰かが言葉にしてくれるとすごくスッキリするんですよね。M-3「銃の声」は、戦争のことについて歌われている?
絵夢:確かに最初は、戦争の曲が作りたいと思って書いていました。でも戦争だけじゃなくて、今の世の中…例えば自殺やニュースで流れているような事件も全部含め“人の死”について想いを詰め込んでいます。その場で体験しなくても考えることはできるし、理解しようとすることはできる。だからそれを少しでも知ってほしいと思って。これを聴いて何か考えるキッカケになってほしい。
貫名:自分たちが行動に起こすのはすごくエネルギーがいるけど、みんながふとしたときに“自分は人の死に対してどう考えているんやろう”と考えるようになれば、ちょっとずつ変わっていくと思うんですよ。今まで作った中でもかなり刺激の強い曲なので、歌詞が重い分曲は明るいメジャーコード進行で作りました。歌詞とメロディのギャップを聴いてもらえたら、見える景色も違ってくるんじゃないかな。
●重いテーマかつメッセージ性の強い曲ですが、それを押し付けるのではなく“あなたならどう思いますか?”という投げかけをしているように感じました。作品タイトルはこの曲から取られているんですか?
貫名:この曲がシングルのメインという意識もありますが、このタイトルを付けたいちばんの理由は、全曲を通じてのキーワードになっているからです。内容は違えど、それぞれ「声」というテーマが共通していて。
●3曲とも切実な感情が込められた“心の声”なんですね。
Interview:森下恭子