通算4作目となるフルアルバム『blueprint』を完成させた、cinema staff。彼らが22歳の時にリリースしたミニアルバム『Blue,under the imagination』から5年が経った今、両作品に共通する「blue」という言葉の意味は異なっているという。かつては「若さ」や「原点」としての意味合いが込められていた言葉だが、今作における「blue」とはもっと具体的でリアルな「辿り着いた未来」の色なのだとBa.三島は記している。JUNGLE☆LIFEで初めて彼らをインタビューしたのは、2ndミニアルバム『Symmetoronica』をリリースした2009年のこと。当時は少年のようだった4人も様々な経験を積み、大人の佇まいを身にまとった。だが、その核にある音楽への探究心と愛情は今も変わらないどころか、増し続けているようだ。それはcinema staffにしか生み出し得ないオリジナリティと、普遍性すら感じさせるポピュラリティを併せ持った今回の最新作が証明している。思い描いていた青写真の通りに、全てが進むとは限らない。それでも4人は立ち止まることなく、目の前にある道を信じて堂々と歩んできた。これまでに発表した代表的な作品について振り返りながら、辿り着いた現在点と未来の確かさを映し出すトータル2万字超のスペシャル・ロングインタビュー。
■1st Mini Album 『document』
残響record 2008/11/19 Release
[収録曲]
1. AMK HOLLIC
2. ローリング
3. サイクル
4. 優しくしないで
5. 部室にて
6. KARAKURI in the skywalkers
●JUNGLE☆LIFEでは久々のインタビューということで今回はインディー時代からの主要な作品を順番に振り返っていきたいのですが、まずは2008年発売の1stミニアルバム『document』から。
三島:これを出した時は21歳で、まだ学生でしたね。レコーディングが8月だったので、夏休みに上京して録ったんです。
●まだ地元にいる時期だったと。今改めて聴き返したりもする?
久野:『document』が一番、聴き返さないですね。
飯田:作り終えた直後に、東京から岐阜に帰る車内の様子をすごく鮮明に覚えていて…。録ったばかりの音源を車内で流しながら帰ったんですけど、自分たち的には納得いっていない感じだったんです。初めてのちゃんとしたレコーディングだったので全然上手くいかなくて、何もわかっていない状態で進んじゃったなと。だから今よりも、当時のほうがもっと聴けなかったですね。
●後悔はありつつも、その時その瞬間にしかない自分たちを捉えた作品にはなっているのでは?
三島:本当にただの“ドキュメント(記録)”です。
飯田:『document』というタイトルにしたら、この作品が救われるんじゃないかっていう…。ちょっと言い訳っぽいんだよね(笑)。
●そのくらい納得いっていなかった。
三島:制作費も結構かけてもらったし、社長(kono ※残響record社長/te')にプロデュースしてもらえるという状況なのに、わりとフワッとしたまま僕らはレコーディングに入ってしまって。それですごく苦労したんですよね。「こんなんじゃダメだ」という気持ちにもすごくなったし、後悔のほうが色濃く残ったというか…。何もわからなかったというのもあって、konoさんが「こうしたほうが良いんじゃない?」というものに従うばかりで、自主性があまりなかったんです。
●言われるがままにやっていた。
三島:それもあって、自分たちで作ったという感じがあまりしないんです。本当に「しんどかったな」という記憶しかない。
飯田:歌録りに関しても絶望している時期で…。1日8時間くらい歌っていたりしましたね。
久野:ネガティブな言葉しか出てこない(笑)。
●ハハハ(笑)。やはり初めてのレコーディングだったというところが大きいんでしょうね。
久野:僕らにとっては全てが初めてのことだったから。そもそも自分たちで音作りもできなかったので、録ったものを聴いて「あれ? こんな音なの?」となったりして。クリックに合わせて演奏することもできなかったし、完全に一発録りでその場でライブみたいに演奏したものを使っているんですよ。
三島:意図なくノークリックです(笑)。何が良いか悪いかというのも、こっちからもっと主張するべきだったなと。何から何まで勉強でしたね。
●収録した曲自体への思い入れは強いのでは?
三島:それは強いですね。もちろん当時は、どれも自信を持ってやっている6曲だったから。
飯田:曲は好きなんですけど、だからこそ「もったいないな」と感じていたのかもしれないですね。せっかくの良い曲なのに、良いオケや良い歌で録れていないということに後悔が残ったのかもしれない。
久野:それもあって、メジャーデビューE.P.(『into the green』)で今作の曲を録り直したんですよ。あのまま残っているというのが僕らの中で引っかかっていたところもあって、いつか録り直したいなと思っていたんです。
●それぞれに思い入れの強い曲は?
辻:「AMK HOLLIC」は大学のサークルのことを歌っているので、色んなことを思い出す曲ですね。
久野:僕は「優しくしないで」ですね。「これは僕らしかやっていないんじゃないか?」みたいな感覚があって。
三島:この曲ができた時は、すごく手応えがあった気がします。ちょっとだけ自分のオリジナル感が見えた瞬間でしたね。完全に「オリジナルだな!」と思えるようになったのはもう少し後なんですけど、その欠片をつかんだ感じはありました。
●自分の楽曲でオリジナリティを確立するキッカケになったと。
三島:それがこの曲と、次作の「第12感」ですね。
●「KARAKURI in the skywalkers」は初期によくライブの最後にやっていましたよね?
飯田:当時はずっと最後にやっていたし、今でもライブでやっている曲ですね。
三島:この曲の歌詞は意図せず、普遍的なことが言えている感じがします。あまり深く考えて作った記憶はないんですけど、そこは若さがちょうど良く出た感じなんでしょうね。
●初期は抽象的な歌詞が多かった気がします。
三島:そうなんですよね。だからどうやって歌詞を書いたかはあまり覚えていないんですけど、サビはキラーフレーズが書けている感じがします。
●今でもライブでやれるということは、曲としてのクオリティは高いものが既に書けていたというか。
三島:そういう気はしますね。まだまだ甘いなと思う部分はあるけれど、愛せるものになっています。
■2nd Mini Album 『Symmetoronica』
残響record 2009/6/10 Release
[収録曲]
1. チェンジアップ
2. Boys Will Be Scrap
3. 妄想回路
4. シンメトリズム
5. 第12感
●2枚目の作品ということで、前作から進化した部分もあったのでは?
久野:レコーディングに関しては前回で反省した部分も踏まえて、音や演奏のクオリティには手応えを感じていた気がします。今聴くとまだ未熟なところも多いんですけど、当時は「前よりも成長しているな」と思っていましたね。
飯田:自分としては1枚目の反省を活かして準備したつもりが、まだまだ全然足りなかったんだなと感じた作品ですね。
●それは歌の部分で?
飯田:この頃はまだ楽器も含めて、スタジオで鳴らした音と録音したものを聴いた時の感覚に違いがあって、そこが一致していない時期でしたね。「俺はもっとこんな感じで歌っているつもりなんだけどな…」っていう、モヤモヤした気持ちでずっとやっていました。
辻:僕も1stとあまり変わっていない感じはありましたね。自分の出したい音がまだ定まっていなくて、どこに向かえば良いのかわからいままでモヤモヤしていました。
●まだ試行錯誤の時期だったと。
三島:すごく試行錯誤していて…痩せましたね。この時は僕が地獄だったんです…。
●それはどういうところで?
三島:曲を選定する時点で、konoさんが厳しかったんですよ。10曲くらい挙げた候補曲の半分以上にダメ出しされたのが、自分的にはつらくて…。レコーディングの日は決まっているのに書き直しさせられたり、当初は入れるつもりじゃなかった「妄想回路」について「これをやれば良いじゃん」と言われてやることになったり、全部をコントロールされている感覚があったんです。1stは悔いが残る結果になったので2ndではもうちょっと自分でコントロールする領域を広げたいと思っていたのに、「俺は何をやっているんだ?」みたいな…。当時は本当にそれがストレスでした。
●自分の意志とは違うものをやらされていることへのストレスがあった。
三島:“やらされている”という感覚がすごくあって、イライラしていましたね。自分に力がないからだとわかってはいたんですけど、その時は「このままでは続けられない」というくらい(精神的に)ヤラれていました…。
飯田:歌録りの時もすごくイライラしていましたね。イライラしながら歌録りしていたことで、結果的にすごく時間がかかってしまって。
●レコーディングは長時間に及んだんですか?
飯田:時間の制限がなかったので、朝までやっちゃったりもして。でも根を詰めすぎたらちゃんと思考もできなくなってくるし、ボーっとしながら歌ったりもしていましたね。
久野:ちょうど当時、残響スタジオができたんですよ。それまでは外部のスタジオを借りきって使わせてもらっていたから、時間の制約というプレッシャーもあったんです。でも残響スタジオを使えるようになったことで、ゆっくり研究しながらできるようにもなって。エンジニアも前作と同じ人だったのもあって、このレコーディングで学んだことがこの後にもつながっている気がしますね。
三島:学びはとても多かったですね。
●収録曲は新たに作ったものだった?
久野:「チェンジアップ」「妄想回路」「第12感」は、前作の時点からありました。その当時からフルアルバムを出せるくらいの曲数はあったんですけど、ミニアルバム2枚に分けて出そうという方針になって。「AMK HOLLIC」と「チェンジアップ」はどちらもリード曲向きなので、それぞれを2作に割り振った感じでしたね。
●「第12感」もオリジナリティを固めるキッカケになった曲とのことですが。
三島:「優しくしないで」と同じタイミングくらいにできたんですよね。色気のある歌がちゃんと前に出ていて、そこと激しい演奏との「これくらいが今は一番良いかな」というバランスが見つかった感じでした。ライブでやっていても面白いし、歌もちゃんとメロディアスなものになっているなと思います。
●今作も曲自体は気に入っている?
三島:曲はやっぱり良いんですよ。特に「Boys Will Be Scrap」はすごく好きですね。地味なんですけど、当時の僕がやりたかった感じの究極形というか。一番ハードコアっぽくて、今でも好きな曲です。
●当時の心境も曲調に表れているというか…。
三島:その時期は本当にイライラしていたんですよ。「好きにやらせてくれよ〜」っていう感じでしたね…(苦笑)。
■3rd Mini Album 『Blue,under the imagination』
残響record 2010/7/7 Release
[収録曲]
1. 想像力
2. 君になりたい
3. Truth under the imagination
4. 制裁は僕に下る
5. ニトロ
6. バイタルサイン
●この作品がバンドにとって、最初の転機になった作品じゃないかと思っていて。
三島:転機ですね。ここからセルフプロデュースになったんですよ。でもエンジニアは変わらずに、その人と二人三脚で作ったというイメージのある作品で。
飯田:自分たちだけでこんなにレコーディングを進められるのかと、すごく自信にもなりました。
久野:事前にかなり準備もしましたね。後悔したくないから、レコーディングに入る前からかなり話し合って。音作りも自分がどうしたいか考えてきたりしたんです。
●セルフプロデュースにしたことで、良い方向に進んだ?
飯田:自分たちからそうしたいと言ったんです。言ったからには「ちゃんと良いものを作らないなとな」というところで、かなり緊張感を持ってやっていましたね。
三島:やる気はすごくありましたね。「やるぞ!」という気持ちがそのまま出ている感じがします。
●レコーディングもスムーズだったんでしょうか?
久野:前作に比べたら、すごくスムーズでした。
三島:レコーディングの進め方もわかってきたし、ここから僕がある程度のディレクションをやるようになったことでも良い方向に向かったとは思いますね。ジャッジに関しても俺らとエンジニアとで「よし!」となるものを選んで、気持ち良く進んでいく感じはありました。今聴くと不思議な音のミニアルバムなんですけど、それはそれで個性的だと思えるんですよね。
飯田:レコーディングが楽しいと思えるようになったのは、ここからかもしれない。それ以前の2枚では本当に苦しかったので…。でもその2枚を録り終えた自信があって、ここにつながったという感じですね。すごく大事な作品です。
●歌録りも今までより上手くいった?
飯田:歌に関しても三島とエンジニアとの二人三脚でやり始めたのが、この時期ですね。まだまだだったとは思いますけど、ストレスを感じながら録っていた前2作よりは歌えていたかな。
三島:ディレクションが完全に僕になって、今のやり方の基礎みたいなものができた時期ですね。
●過去2作が修行期間みたいなもので、ここで花開いたというか。
三島:そういう感じはありますね。
久野:ちょうどこの頃まで学生だったというのもあるし、ここで第一期が完結した感じがします。
辻:あと、過去2枚はほぼ全てが残響に入る前からあった曲なんですけど、『Blue,under the imagination』は新しく書いた曲がほとんどだったんです。「ニトロ」以外は全部そうだったんじゃないかな。そこも新鮮で良かったんだと思います。
●今作で特に思い入れのある曲は?
三島:この作品はどの曲にも思い入れがありますね。今でもライブでやる曲が多いから。もしかしたら次の1stフルアルバムよりも、こっちのほうがライブでやっている曲は多いかもしれない(笑)。
飯田:「想像力」は、同じレーベルのPeople In The Boxと一緒にライブをやった時に受けた刺激を色々と吸収した上でできた曲だなと感じていましたね。
●レーベルメイトに刺激を受けていた。
三島:その時期はmudy on the 昨晩とPeople In The Boxにすごく刺激を受けていて。そこに対して「俺らもやれるぜ! 負けてねぇ」みたいな気持ちをぶつけて曲を作っていた時期でした。
久野:この頃までが一番、ライブで曲を育ててからレコーディングしていた時期だったのかな。だから今でもライブでやる曲が多いんだと思います。ライブで気持ちを込めやすい曲が多いですね。「想像力」はライブでもすごくやっていたし、特に思い入れが強いです。
●「制裁は僕に下る」はタイトルも含めて、独特な曲かなと。
辻:ここまで静かな曲を作ったのは初めてだったので、すごく思い入れがありますね。
飯田:この曲では初めてアコギを使ったんですよ。ここまで静かな感じで、しかも歌の力で押していく曲というのはこれが一番だと思います。今でもライブでよくやっているし、好きな曲ですね。「こういう曲をやっているバンドは他にいないだろうな」と思いながら、当時やっていましたね。
三島:暗すぎますからね。何にも救いがない(笑)。この頃は、直下型の歌詞みたいなのが多いですね。
●歌詞も変わってきている?
三島:歌詞に関しては、完全に「君になりたい」が転機ですね。この曲ができた時に「今のベストはこれかもしれない」と思えたんです。何となくカッコ良い言葉を並べるのが一番カッコ良いと思っていた時期から、ここでまず1つ変わった感じで。「想像力」もそうなんですけど、フィクションに自分の意志を混ぜていくという書き方の基礎になっているというか。ファンタジックな世界観に凝っていた時期でもあったのでフィクショナルな言葉が入っていて、ちょっと不思議な世界観になっているんですよ。それが次の1stフルアルバムで結実する感じですね。
■Double A-side Single 『水平線は夜動く』
残響record 2011/1/12 Release
[収録曲]
1. 水平線は夜動く
2. daybreak syndrome
3. GATE
4. Poltergeist
●1stフルアルバムをリリースする前に、両A面シングル 『水平線は夜動く』を挟んでいるわけですが。
三島:これは「列伝TOUR」(「スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2011」)のタイミングで出そうということで録ったんですけど、結果的にすごく良い作品になりましたね。
久野:「daybreak syndrome」と「GATE」は初期からあったものなんですけど、それまでのレコーディングではシックリきていなかったので出していなかったんですよ。シングルを出すという話になった時に「今なら良い感じで録れるんじゃないか」という気持ちがあって、ここで形にしてみました。
●成長してきたからこそ形にできた曲だった。
飯田:前作のリリース後に行ったツアー「Blue,under the imagination Release Tour 〜想像上の辻〜」でTHE NOVEMBERSと一緒に合計27ヶ所をまわって。THE NOVEMBERSからは、音作りだったり本当に色んなことを学ばせてもらったんです。「daybreak syndrome」のイントロがああいう音色になったのもそういうところからだし、経験してきたものを集約できたかなと思えるシングルですね。
●対バンから学んだことも音に反映されている。
三島:あとはこのタイミングから、エンジニアが上條雄次氏に変わって。偶然でもあるんですけど、このシングルはすごい音が鳴っているんですよ。アホみたいにドラムの音がデカいんですけど、神がかったバランス感みたいなものがあって、すごく興奮した記憶があります。
●偶然が生んだ奇跡というか。
飯田:「daybreak syndrome」のドラムがみんな好きだと当時から言っていましたね。
久野:今聴いてもすごいと思う。この次の1stフルアルバムも同じスタジオで同じエンジニアと同じ機材で録ったんですけど、これとは違うんですよ。このシングルだけの音がしているというか、普通ではないんですけど独特な音がしていて好きですね。
●「GATE」もキーになる曲じゃないですか?
三島:「GATE」もキーですね。元々は音源として出すイメージが固まっていたわけではないけれど、偶発的に録ることになった時がベストなタイミングだったという感じでしたね。
辻:当時、上京して泊まっていた部屋で飯田くんと2人でギターフレーズを考えていた思い出がすごくありますね。「daybreak syndrome」もそうなんですけど、ここでギターをどういうふうに弾けば良いかを確立したという感覚はあるかもしれない。それまでで一番、ギターフレーズを細かく考えた作品ですね。そういう意味でも大きかったです。
●これも1つの転機になった作品かなと。
三島:そうですね。自信が生まれたんですよ。サウンド面では「これはオリジナルな音でしょ!」という感覚があって、「この勢いでアルバムも行けそうだ」という気持ちになった記憶があります。曲自体は古いものなので思い入れは元々すごくあるんですけど、そういうところよりもタイミングが上手く合って“ホップ”になった感じがしますね。
●ホップ・ステップ・ジャンプの第一段階になったと。
三島:そういう感じですね。
■1st Full Album 『cinema staff』
残響record 2011/6/1 Release
[収録曲]
1. 白い砂漠のマーチ
2. 火傷
3. skeleton
4. 明晰夢
5. You Equal Me
6. super throw
7. cockpit
8. 実験室
9. 錆のテーマ
10. どうやら
11. 海について
●そして遂に2011年、初のフルアルバム『cinema staff』をリリースしたんですよね。
三島:自分たちの中で、ものすごく大きな作品ですね。偶然とかその時の雰囲気も含めて、すごい作品だと未だに思えるんですよ。でも自分たちがそう思っているほどには、認知されなかった作品というか(笑)。
●自己評価と世の中の認知度が噛み合っていない。
三島:このアルバムはすごくオリジナルだなと思っていて。「これはcinema staffにしかできないでしょ!」と未だに思います。
●自分たちのオリジナリティを確立できたという感覚があった。
三島:そうですね。その時の方法論としては、完全に1つ確立できたという感じがしました。
●そういう意味でもセルフタイトルにふさわしい作品というか。
三島:「これでしょ!」と思って付けた感じですね。僕の中では完全にこの作品が、色んなものの基準になっています。「これに比べるとどうか?」っていう。良い悪いというよりは「これよりも複雑だな」とか、そういう基準になるものというか。
飯田:自分の中では、このアルバムが一番複雑に感じているかもしれない。演奏的にもかなり凝っている曲が多いので、今思うと「これはライブだとノリづらいよな」と感じたりするものもあって。すごく好きな作品ではあるんですけど…。
久野:「何であまり認知されなかったのか?」と考えた時に、今思えばちょっと自分たちの研究に寄り過ぎていたのかなと。お客さんがどう思うかとかは気にせずに、自分たちが好きなことや今やりたいことを研究した結果できたアルバムだと思うんですよ。そっちに寄り過ぎていたんだろうなと思います。
●自分たちのやりたいことを追求した作品だった。
久野:このアルバムのリリースツアーの時に、僕は違和感があったんですよ。自分たちの思っているところでお客さんが盛り上がらなかったりして、客席と演奏している側とのギャップを一番感じたのがこのアルバムでした。その時にちょっと気持ちが変わったんですよね。そこのギャップを擦り合わせたいというか、ライブで自分たちが思ったような反応が起きないのは良くないなと。
飯田:久野はそう思っていたかもしれないけど、僕はその頃は別にそれでも良いなと思っていて。「俺らはこういう感じでやっているから、それを見ていて下さい」という感じでライブをしていましたね。
●当時は、お客さんに擦り合わせようとは思っていなかった。
飯田:そんなことは思っていなかったですね。このアルバムは「この演奏にこの歌が乗っちゃうのか!」という面白さがすごく出ている曲が多いと思うんですよ。
●それはバンドとして目指す1つの方向性ではあるんじゃないですか?
飯田:そうですね。だから、その当時はメチャクチャ良いものができたと思っていて。
三島:当時は良いメロディと思って書いているんですけど、自分としては「もっと行けたな」と思う部分は多いかもしれない…。
久野:メロディの良し悪しというよりは、オケをそういう完成度で作った上で、歌も立つアレンジにしなきゃいけないんだなと気付かされたというか。このクオリティで演奏を作って、歌も光らせるというのはさらに高いレベルの話だなと思いました。
●より高いレベルを目指すからこそというか。
辻:僕としてはかなり満足のいく作品だったので、「この次はどうすれば良いんだろう?」と思った記憶はありますね。やりきった感はありました。
三島:ここで1つの手応えはあったというか、バンドとして「よし!」という気持ちにはなりましたね。
●今作で特に思い入れのある曲というと?
辻:最後の「海について」ですね。
久野:一番、バンドで作った感覚がありますね。後半の展開は、みんなでプリプロしながら作ったりもして。
三島:久野のアイデアがふんだんに入っています。
●全員で作っていった感じ?
久野:この曲自体、最初は収録候補にも挙がっていなかったんです。昔スタジオで録ったデモの中にイントロだけあって、そこから広げていった感じですね。ここまで重要な曲になるとは思わずにプリプロしていたら、壮大な感じに広がっていって…。みんなの色んな意見が入っているし、本当に全員で作った曲という感覚があります。
●ある意味、化けた曲というか。
久野:すごく化けたと思います。最後のサビとかが付いた時に、こうなるとは想定していない形になったけど、すごく良いなと思って。
三島:本当に想定していない形になりましたね。逆に「白い砂漠のマーチ」は自分1人の力で作った部分が大きいので、この曲とは対極にある感じなんですよ。「海について」は歌詞に関しても、バンドの力に引き出されて書いている感じがします。自分の力以外のところでほぼ全てができている感じがするので、すごく思い入れが強いですね。
●ここまでバンドとして成長してきた成果が結実した曲というか。
三島:結実した感覚がすごくありましたね。
■1st E.P. 『into the green』
PONY CANYON 2012/6/20 Release
[収録曲]
1.into the green
2.棺とカーテン
3.チェンジアップ(Re-Recording)
4.優しくしないで(Re-Recording)
5.KARAKURI in the skywalkers(Re-Recording)
6.AMK HOLLIC(Re-Recording)
●この作品でメジャーデビューを果たしたわけですが、メジャーということで何か意識した部分もあった?
飯田:「into the green」は三島が弾き語りで持ってきたものを膨らませた感じだったので、歌が前面に押し出されていて。「メジャーデビューのタイミングでここまでわかりやすいものを出すのはどうかな?」と思った記憶はあります。
久野:「into the green」で誤解を生むかもしれないという気持ちがあって、再録を入れたいという話になった気がします。今までの僕らの総括みたいなものを入れて、新曲と一緒に聴いてもらえば誤解を生まないんじゃないかと思ってのことでしたね。
●三島くん自身はどう思っていたんですか?
三島:メジャーということも多少は考えたりしましたけど、この時期は最も精神的に病んでいたのでそれどころじゃなかったんです。「とりあえず曲を作らないとダメだ!」みたいな感じで、一気にたくさん曲を書いた中の1つというか。自分に対して勝手な強迫観念があって、「それ以外、俺に価値はないんだから!」みたいな感じですごい勢いで曲を書いていましたね(笑)。
●そんな状況だったんですね…。
三島:特に「into the green」や(次作収録の)「奇跡」は、そうやって自分を追い込んで書いた曲です。当時はすごく悩んでいることが多くて…。上京してきたばかりでお金もないし、色んなことが重なったタイミングでつらい時期でしたね。
久野:その頃は、僕らメンバーも三島のカバーで大変でした(笑)。でも曲はどんどん出てくるから、「落ち込み過ぎないようにさせるにはどうするべきか?」みたいな感じで。2ndフルアルバム『望郷』までは、そういう状況で僕らも必死にやっていく中でどんどん曲が貯まっていくという感じでしたね。
●曲自体はたくさんあったんですか?
久野:実はこの『into the green』と次の『SALVAGE YOU』は同時に録っていて、フルアルバムを録るくらいの感じで再録も含めて13曲を一気に録っていて。それを2枚に分けて出したんですよね。
飯田:納得のいっていなかった1stミニアルバムの曲をここで再録していて。メジャーデビューというところで名刺代わりの作品として「これを聴けばcinema staffがどんなものかわかります」というものを作りたかったから、再録を入れたというのもありますね。
●再録したことで、当時の納得いかなかった気持ちを救えた部分もあるのでは?
飯田:でも今考えると、そんなに気持ち良くなかったというか。意外とやってみたら「過去は過去として、それで良かったのかも」と思っちゃうような感じで…。
久野:それはやってみてわかったことでしたね。
●レコーディングは順調だったんですか?
三島:このレコーディングの時に僕がインフルエンザにかかって、何日か飛ばしちゃったんですよね。精神的にも体調的にも、すごい状態で作っていました(笑)。
久野:自分たちも必死でしたね。メジャーデビューしてから色んな部分で環境が変わっていくから、とりあえずしがみつくのに必死だったという感じで…当時のことはあまり覚えていないんです。
●メジャーデビューということで、明るい気持ちだったわけでもない?
久野:逆にcinema staffの歴史の中で、一番暗かった時期ですね。
三島:俺のせいも多分にあるけど、この時期は本当に「どう進めていったら良いんだろうね…?」みたいな雰囲気だったんですよ。本当に、明るい感じでは全くなかったです。
●そういう中でも進化した部分はあったのでは…?
辻:歌のことをよく考えるようになったというのはあります。基本的にそれまでは、歌を一番最後に乗せていたんですよ。歌ができてからギターフレーズを考えるというふうになったのは、この頃からでした。そういう部分での変化はあったと思いますね。
■4th Mini Album 『SALVAGE YOU』
PONY CANYON 2012/9/5 Release
[収録曲]
1. 奇跡
2. WARP
3. さよなら、メルツ
4. her method
5. warszawa
6. 小説家
7. salvage me
●同時期に録っていたということで、前作の『into the green』とマインド的には近い?
三島:近いですね。その雰囲気が次の『望郷』にも結構、影響してきます。
●『into the green』が名刺代わりの作品だとすると、この『SALVAGE YOU』はどういう位置付けに当たるんですか?
三島:本当に同じ時期に書いた曲なので、2枚でセットなんですよね。ただ、このあたりの作品については本当に記憶が欠落していて…。
●そのくらい精神的に病んでいた?
三島:それもありますし、インフルエンザのせいでスケジュール的にも追い込まれていたのでバタバタと録った感じがあって…。
飯田:三島が悩んでいた時期にこの曲たちができたというのもあって、まさに“救い上げる”というタイトル通りの作品だと思います。
●苦しい時期を送っていた三島くん自身を救い上げるような作品になっている。
三島:「それ(音楽)しか自分にはやれることがない」ということを良くも悪くも毎日のように考えていて。そういうところから付けたタイトルですね。あと、自分の中でそれまでOKじゃなかったことがOKになり始めている感覚はありました。たとえばコード感的な部分で「WARP」では、それまで使わなかったようなメジャーセブンスとかを使っているんですよ。
●自分への制限を外したというか。
三島:そうですね。苦しんでいたり、色々なプレッシャーもあった中で、徐々に外れてきた感じがします。その序章が『SALVAGE YOU』という感じですね。自分に大丈夫だと言い聞かせている感じもあって。
久野:個人的には『SALVAGE YOU』を作っている時は、cinema staffをわかりやすく噛み砕いたものを意識したように思います。メジャーデビューというところで自分たちの良さはなくさないようにしつつ、1stフルアルバムの時に思った「歌をもっと立たせたものにしたい」というところを研究し始めた感じですね。
●「奇跡」はリード曲でもありますし、この作品を象徴するものでもあるのかなと。
久野:そうですね。僕は「奇跡」でメジャーデビューしたいと思っていたくらいなんですよ。メジャーデビューするからにはなるべく多くの人に聴いてもらいたいという気持ちがあったので、そういうところにも一番対応している曲というか。…でもこの頃のことは自分も本当に覚えていなくて。スタジオに入っても、全く何も生まれない日もあったりした時期で…。
三島:俺が全然ダメだった時期です。
●バンド全体としても苦しんでいた時期だった。
久野:週5〜6回もスタジオに入って昼から夜まで何も演奏せずに帰る日もあったりしました。それくらい煮詰まっていた気がします。
飯田:そこで改めて「みんなで同じ音楽を聴いてみよう」とか話し合ったりもしていましたね。
■2nd Full Album 『望郷』
PONY CANYON 2013/5/22 Release
[収録曲]
1. 望郷
2. 世紀の発見
3. 西南西の虹(album version)
4. 時計台
5. 日記
6. 待合室
7. いたちごっこ
8. あのスポットライトを私達だけのものにして
9. 夏の終わりとカクテル光線
10. 蜘蛛の巣
11. 革命の翌日
12. 小さな食卓(album version)
13. 溶けない氷
●『望郷』を作る頃には、煮詰まっている状況からも脱していた?
三島:脱しつつはありましたけど、まだピリピリしていましたね。ちょっとずつ状況も改善されていく中で「次はフルアルバムだよね」という話になった時に、「次はマスターピースを作らなきゃいけない」という欲求に駆られたんですよ。その時に「望郷」という曲ができて、とりあえず故郷についての想いをここで1回出し切りたいなという発想になったので、とにかく長いものを作りたいと(笑)。このアルバムに関しては自分の中にイメージがあったから、「一度、俺の言うとおりに作らせてくれ」みたいな感じで作っていったんです。
●三島くんの中にイメージがはっきりあった。
三島:はっきりありました。「望郷」という曲ができて、そのイメージから出てきたというか。当時はちょっと神経質になっていましたね。(メンバーの出す音に対して)「俺が思っているものとは何か違うな…」と感じたりもして。そう思っている時点でメンバーに過大な要求をしているんだなと気付く瞬間はあったんですけど、「とりあえず俺の言うとおりにやってくれ」みたいな良くないストイックさがあったんです。
●メンバーはどう感じていた?
久野:僕は自分が「こうするべきじゃないか」「こうやりたいな」と思うものと一番かけ離れている感じがして、つらかったですね。冷静に状況を見て「今、cinema staffはこういうものを出したほうが良いんじゃないか?」と思っていたこととはだいぶ違う方向に行こうとしていたので…。ただ、良くない曲が上がってくるわけではなかったから、自分の中ではギャップがあって大変でした。自分とはモードが違うから、アレンジが思い付かなかったりもして大変だった気がします。
●他の2人は?
辻:僕としては、三島のイメージがどんなものかというのを自分なりに解釈してやっていた時期ですね。
飯田:三島の曲作りのペースがかなり速かったのは覚えています。三島の中に「俺はこれが作りたいんだ!」というイメージがはっきりあったから、自分はそれについていくという感じでした。
●不満があったわけではない?
飯田:自分としては好きな曲ばかりだったから。このアルバムって、色んな人に聴いてもらえる作品というよりも、「この先もずっと聴けるんだろうな」と思える作品だと感じているんですよ。ちょっと大人びた歌詞というか、今だけを歌っているわけじゃない感じがすごく好きで。
●曲作りのペースも速かったりと、三島くん自身はクリエイティブな状態にあったんでしょうか?
三島:『SALVAGE YOU』からの延長線上の時期だったので、ずっとランナーズ・ハイみたいな感覚があって。「それ(音楽)こそが自分の人生」みたいな感じでしたね。「俺なんてクズみたいなヤツにはこれしかできないし…」みたいな(笑)、そんな変な考えでずっとやっていたというか。これを作らないと、きっと自分の中でスッキリしなかったんですよ。
●作り終えたことで実際にスッキリした?
三島:スッキリしましたけど、その後で色々な部分を見つめ直すことにはなりましたね。途中からは「本当はこういうやり方じゃないほうがバンドは健康的なんだろうな」と思いながらやっていたんですよ。今考えると、「こんなんだったらバンドじゃなくても良い」と思われる可能性すらあるなと感じる瞬間もあって。だから俺は、メンバーとスタッフにこの作品を作らせてもらったという感じがしますね。
●でも作り上げたことで、自分の中で決着した部分があったのでは?
三島:決着しました。だから、その後で作風が変わるんです。
■3rd Full Album 『Drums,Bass,2(to) Guitars』
PONY CANYON 2014/4/2 Release
[収録曲]
1. theme of us
2. dawnrider
3. tokyo surf
4. borka
5. shiranai hito
6. sea said
7. sitar of bizarre
8. unsung
9. fiery
10. great escape(alternate ver.)
●『Drums,Bass,2(to) Guitars』(以下『DB2G』)では、前作からの作風の変化が顕著に表れている?
三島:そうですね。『望郷』ができたところで一度、僕は完全に抜け殻になったんですよ。「何にも思い浮かびません。さあ、どうしよう?」みたいな状態で(笑)。だから逆に『DB2G』は、自分以外の3人が作ったアルバムという感じがしているんです。
辻:僕も『望郷』を作った後で「三島は次にどうするつもりなんだろうな?」とちょっと心配していたんです。でもそこでアニメのタイアップの話をもらって、曲を作れたことが大きかったと思うんですよ。「great escape」ができたことでみんなの気持ちも盛り上がったし、そのテンションのままでアルバムも作れたという感じはありますね。
●「great escape」がTVアニメ「進撃の巨人」のエンディングテーマに起用されたことがバンドにとって飛躍のキッカケになったと思うんですが、自分たちにとっても大きい曲だった?
飯田:「それがなかったらどうなっていたんだろう?」と思うくらいで。そのおかげで、次のアルバムまで地続きでつながった感じがします。
久野:『望郷』を作っていた時期は僕らも必死だったから「やっとできた!」みたいな感じで、「次にどうするか考える前にとりあえず休みたい…」と思っていたんです。そんな時期に「great escape」の話が来て、初めて外部から与えられた目標に向かって4人で作るという経験をさせてもらって。曲を作る動機が自分たちの外にあることによって、今までにない作り方ができたんです。抜け殻感があったところで、それが良い具合にテンションを上げてくれたんですよね。その勢いのまま、(アルバムまで)作った感じでしたね。
●「great escape」の制作が自分たちを次へと向かわせてくれた。
久野:「お前ら、ちゃんと前を向けよ」というタイミングで、本当に前を向かせてくれた感じがあって。
三島:『望郷』までの流れを1回リセットするというか、気持ちを切り替えられたところはありました。この曲があったおかげで何とかできたと本当に感じていますね。タイミングも曲も歌詞も色んなことを含めて、正直、「great escape」は完璧だと思っているんです。
●そのくらい自信があるものを作れたわけですね。
久野:アルバムを作るとなった時も「great escape」が入るということだけは決まっていたので、つまり基準がそこになるわけじゃないですか。「great escape」以下の曲ばかりだと思われるのは絶対に嫌だし、そういう気持ちがみんなの中でどこかにあったと思います。そこに負けないテンションの曲を作っていった結果が、こういうアルバムになったという感じですね。
辻:だから、個性的な曲がたくさん入ったアルバムになったんだと思います。
●『Drums,Bass,2(to) Guitars』というタイトルは、バンドのことを表しているわけですよね?
三島:まさにそうですね。
飯田:「sitar of bizarre」は、辻がだいたいのオケを作って持ってきた曲なんですよ。歌詞とメロディを付けたのは三島なんですけど、辻の曲という感じで。「unsung」は俺がメロディも歌詞も作った曲だったりして、それぞれの力を持ち寄って作ったアルバムということでこのタイトルにしたんです。4人で音を鳴らして、改めて「バンドって楽しいね」と思えた時に作ったアルバムですね。
久野:それこそ2枚目のセルフタイトル作だと僕は思っていて。「僕らが作ったアルバムです」というものでしかないので、そういう意味ですごく合っているタイトルだなと思います。テーマがどうこうというよりも、僕らが持っているものを隠さずに出すというモードでしたね。
三島:それしかできなかったという感じですね。でもそれが良かったんだと思います。
■4th Full Album 『blueprint』
PONY CANYON 2015/4/22 Release
[収録曲]
1. 陸にある海
2. drama
3. シャドウ
4. 竹下通りクラウドサーフ
5. 地下室の花
6. compass
7. exp
8. 特別な朝
9. ハトガヤ・ゲットー
10. the ghost
11. 孤独のルール
12. 青写真
●ここまでの流れを経ての最新作『blueprint』となるわけですが、最初から何らかのビジョンはあったんですか?
三島:前作『DB2G』の時は、「とりあえずできたものを出す」という感じしかなくて。SHIBUYA-AXでワンマンをやったり、『DB2G』のレコ発ツアーファイナルでZepp DiverCity TOKYOでやったりする中で、ライブが少しずつ変わってきている感覚があったんですよね。巻き込み型というか、外に向いている感じになってきた。そのツアーファイナルで達成感があったんですよ。『DB2G』ではみんなで作ったものがちゃんと形になって、ツアーファイナルで「ここまで来た」という気持ちに1回なったところで「次はもう少しメッセージ性を出そう」という気持ちになったんです。
●メッセージ性?
三島:平たく言えば、元気を出してもらいたいというか。こちらから何かを提示して、リスナーに考えてもらえるようなものにしたいという気持ちがあって。そういう中で最初にできたのが「青写真」だったんです。
●メッセージ性という部分では、今回の歌詞は全体に通じるテーマがあるのかなと思ったんですが。
三島:ありますね。「竹下通りクラウドサーフ」とかはさすがに違いますけど(笑)、「drama」や「シャドウ」の帰結するところは同じという感じがします。
●一貫したものを書こうと考えていた?
三島:最初は意識していなかったんですけど、やっぱりそういうモードなんでしょうね。「シャドウ」の歌詞が書けた時に「これだ!」という感覚があって、あとは全部そういう感じになったなと。「drama」はもう少し前に書いた歌詞なんですけど、言っていることは近いんですよ。自分は「頑張れ」とは言えないタイプなので色んな言葉に置き換えたりして、「よし、明日頑張ろう」と思えるものにしたいっていう。等身大というか、あんまり無理をしていない言い方で背中を押したい気持ちが今はあって。
●ちゃんと自分らしい言葉で書けている。
三島:大言壮語はできないですけど、やっぱり勇気が出るものであって欲しいんですよね。そういう感じで背中を押せるものにはできたんじゃないかな。
●リスナーに対してというのもありますけど、自分に向けている部分もあるのでは?
三島:それはメチャクチャあります。そういう曲は今までも結構あったんですよ。でも今回はかなり色濃いですね。自分も奮い立たせて、リスナーにも一緒に奮い立ってもらいたいというモードになっているというか。
●今回の歌詞はすごく開けた感じがします。
三島:やっぱり「青写真」は大きかったですね。別れの曲なんですけど、すごくポジティブに別れるっていうイメージがあったのを完璧に表現できたと思っているんですよ。最後の4行とかは特にそうで、「それぞれにちゃんと目的がある中で別々の道を歩むというのは寂しいことではなく、とても尊いことなんだ」というのを言えたら良いなという気持ちがすごくあって。自分の中で1つ結実したというか。『DB2G』後に「これだ!」というものができて、それが「シャドウ」や「drama」につながっているんですよね。
●「青写真」がアルバム全体のキーになっている。
三島:この曲はそもそもの作り方が今までとは全然違うんですよ。僕がDTMをやり始めたのもあって、最初は全編をピアノで打ち込んで作ったんです。それをみんなに渡すというやり方で作っていったんですけど、自分の中では新しい曲作りのやり方に成功したという感覚があって。ツアーが終わって気分の良いところに、さらに新しい曲作りのやり方にも成功できたというところで、「これはこのメッセージ感で行きたいな」という想いが固まりました。
●曲作りは『DB2G』のレコ発ツアーの後で?
飯田:そうですね。去年の夏頃からでした。
三島:前からある曲も少しだけありますけど、核となる曲は去年の夏から冬にかけて作りましたね。
●核となる曲というのは?
三島:「陸にある海」「drama」「シャドウ」「青写真」ですね。
飯田:「シャドウ」を作る前に、メンバーで話し合ったんです。「自分たちの良さはドラマティックなものだったり、感動できるエモいものだよね」という話をしたところからできたのが「シャドウ」だった。オケができた時点で、歌詞が乗る前から「これは絶対にイケるな」という感覚があって。さらに今の自分たちの気持ちを歌う歌詞が乗った楽曲になったから、本当に「来たな!」という感じでしたね。
●今作を聴いた時にちゃんとcinema staffらしさがある上で、今まで以上に伝わりやすいものになっているなというのをすごく感じて。
飯田:ありがとうございます。
久野:そういうものにしたかったんです。「青写真」ができた時、僕の中では「また『望郷』の頃に戻っちゃうんじゃないか」という感覚もあったんですよ。自分としては、『望郷』と『DB2G』の両方の良さを持ったものを次は作らなくてはいけないと思っていて。世界観もちゃんとありつつ、僕らにしかできないこともやっているような…。難しいことだけれど、そういうものを作らないと次に進めない感じがしたから。そこを目指そうとみんなで話して、ちゃんと辿り着けたという達成感が今はすごくありますね。
●過去2枚のアルバムの方法論を共に取り入れた上で、より良いものを作れた。
久野:それがやりたかったことなので、すごく達成感がありますね。
●最初からそういう作品にしたいというイメージがあった?
三島:制作しながら、そういう気持ちになっていきましたね。「青写真」ができた頃、僕はDTMがやりたいという気持ちばかりで(笑)。手応えはあったんですけど、やっぱりメンバーがどう考えているかは気になっていたんです。そこを擦り合わせてやっていくほうがバンドとして絶対に健康的だなと思ったし、そうやって『DB2G』ができたというのもあるから都度話し合いながらやっていくべきだなと思っていました。
辻:バランスの良い感じにはなったなと思っていて。ピアノの打ち込みから作り始めた曲もあるので、今までの手クセとは違うアプローチも出せているんです。それが良い具合にミックスされた感じはありますね。
●核になる曲はしっかりありつつ、「竹下通りクラウドサーフ」や「ハトガヤ・ゲットー」のような遊び心を感じさせる曲が入っているのも良いなと思いました。
飯田:そういう遊び心をすごくわかってくれるエンジニアさんに今回はお願いしたんですよ。そもそも今回のアルバムでは歌を前に出したいという気持ちがあったので、井上雨迩さんという方にやって頂くことにして。音像的にもカッコ良いサウンドの中で歌がちゃんとリアルに息遣いまで聞こえるようなものにしたいなと思っていたら、「シャドウ」とかは思っていたとおりにすごく良くなったんです。「竹下通りクラウドサーフ」や「ハトガヤ・ゲットー」みたいな曲でも自分たちの想像以上に振り切ってやってくれるので、バッチリだったなと思います。
●この2曲も振り切ってはいるけど、ちゃんとポップになっているというか。
三島:ポップですね。
久野:そこが今回の基準かもしれない。聴く人を選ぶようなものにはしたくなくて。普段J-POPしか聴かない人が聴いても「良い」と思えるし、楽器やバンドをやっている人が聴いても「良い」と思えるような、その両方に届けたいという欲張りなアルバムですね(笑)。
●今日はこれまでを振り返ってきたので余計に感じられるんですが、ちゃんと今までに築き上げてきた土台の上にcinema staffらしいオリジナリティとポピュラリティを兼ね備えた作品を作れているというか。
三島:そう言ってもらえると嬉しいですね。
飯田:自分たちはJ-POPのど真ん中でも戦いたいという気持ちがあるので、そう思って頂けて良かったです。
久野:今日、一から振り返って話してきて思ったんですけど、ちゃんと全部が布石になっているんだなと。そういう経験がなかったら、このアルバムはできなかっただろうなと思います。
●積み重ねてきたものがちゃんと今作でも実を結んでいる。
三島:やっぱりAXでワンマンをやって、『DB2G』のツアーが終わったというのが一番大きいですね。ちょっと自立できている感じがしたんですよ。かと言って、思ったよりも自分たちは売れているわけでもないし、飛び級してきた感じでもない。これまでの活動が地続きになっていて、やってきたことがちゃんと結実している感じがすごくミュージシャンとして誇りに思えるなと。去年そう思えたところから、「じゃあ、今度は自分たちが背中を押すようなことをやっても良いかな」っていう着想に至ったというか。
●それがメッセージ性を持った作品作りにつながった。
三島:『DB2G』はもうちょっとメッセージがむき出しだったので、今回はそこにもう少しフィクションも絡めたテンションでやれたら良いなと思っていたんです。それがちゃんとできたというのは、すごく自信になりましたね。「間違っていなかった」と思えたというか。
●そういう感覚はメンバーにもある?
飯田:あります。『DB2G』のリリースツアーの1本目を千葉LOOKでやった時にも言ったんですけど、「こういうライブがしたかったんだ」と本当にその時思えたというか。『cinema staff』を出した時は自分たちの中だけで完結していたものが、「great escape」をキッカケに色んな人に聴いてもらえる楽しさも知って、やっぱりレスポンスが欲しいんだなと活動をしていく中で思ったんですよ。自分が「こう来て欲しい」と思っているところにお客さんが想像通りに来てくれる楽しさもわかったし、それをもう感じちゃったので「この流れで行きたい」という想いが強くなって。その『DB2G』からの延長線上で、このアルバムにもつながったんだなと思います。気持ちは同じですね。
●より多くの人を巻き込めるものになっている。
飯田:やっぱりこの歳にもなると、誰かのためにやりたいんですよね。自分たちだけのためにやりたくないというか、そこに意味があると感じられることをやりたいから。今回はそういう作品になっているので、すごく嬉しいですね。
久野:メジャーデビューして音楽で生活しているからにはもう趣味ではなくなったわけで、「自分が良ければ良い」というものを作るところにはモチベーションを感じていないんです。もちろん自分が良いと思えるものを作りつつ、なるべく多くの人に届くものが作りたいっていうふうにどんどん変わってきているから。今作もそういう方向にちゃんと進めているものになったという自覚はあるので、手応えは感じています。
●自分たちが描いていた青写真というか、目指していたところに来られているという感覚もあるんでしょうか?
久野:もちろん「もっともっと」という気持ちはあって。満足しているわけではないですけど、「こんなはずじゃなかったのにな」ということはないですね。
三島:満足しているということはないけど、納得しているという感じですね。もちろん何かをあきらめているということでは全然なくて、まだまだやりたいことはあるし、楽しいんですよ。「今がある」ということをプライドを持って話せるというか、そういう気持ちにはなっています。
●ちゃんと過去を踏まえた上で、今も誇りを持って前に進めている。
久野:自分たちが目指しているところにつながっている階段をちゃんと昇れているなという感覚はあります。ここまで話してわかったことでもありますけど、昔は未熟だった僕らも今ようやくミュージシャンとしての最低ラインまでは昇ってこられたのかなっていう感じですね。ちゃんと自分のやったことが自分に返ってきているというか。
●ライブに関しても経験を積み重ねてきた中で今は多くの人を巻き込める感覚が強くなっているから、今回のツアーでもそういう画が浮かびますよね。
飯田:お客さんも「こういう盛り上がり方をしても良いんだ」ということを前回のツアーで感じてくれたと思うんですよね。だから今回も「盛り上がるぞ!」という気持ちで観に来てくれるんじゃないかなと思います。こっちから提示したものにちゃんと応えてくれる楽しさがわかっちゃったぶん、今回もすごく盛り上がっていけたらなと思っています。
久野:やってみないとわからない部分もありますけど、何でもありというか。こっちがさらけ出せば向こうも応えてくれるという関係ができてきていると思うので、やってみて一番楽しい結果が出れば良いなと思います。
●自分たちでもツアーがすごく楽しみなのでは?
三島:セットリストを考えるのがすごく楽しいんですよね。ライブにどう帰結させるかというのを考え甲斐のある作品になったというか。メッセージ的にもそうだし、自分たちがお客さんとどうやってコミュニケーションが取れるようなものにできるかというところがあって。こんなに楽しみなのは初めてなので、これはもう「楽しみにしておいて下さい」の一言だけです!
辻:今のところ「シャドウ」しかライブではやっていないので、このアルバムの曲たちがライブで化けていくのが非常に楽しみなんです。それを僕らと一緒に観てくれたら嬉しいですね。
Interview:IMAI
http://cinemastaff.ponycanyon.co.jp/
特設サイト100人コメント掲載
■cinema staff特設サイトデザイン MIRROR 大楠孝太朗
http://mirror-site.org/
今回の特設サイトはアルバムタイトルが『blueprint』ということで、Webデザインにおける「青焼き」的なイメージをデザインや動きの面で表現しました。その他、随時追加公開されていく100人コメント・インタビューに関しては一覧での見やすさ・読みやすさを重視しています。
ただやはり、このWebサイトのイメージを決定的に良くしたのはバックで流れているインスト曲「陸にある海」では無いかなと思いました。
ツイキャスで新曲の初解禁
■TwitCasting(ツイキャス) 西村顕一
http://twitcasting.tv/
『blueprint』、私も購入し毎日聴かせていただいています。楽曲の先行解禁、というツイキャスとしてもこれまで前例のない初めてのことを、それも「シャドウ」という楽曲でやっていただき、本当に光栄でした。今後のcinema staff公式ツイキャス『酔いどれシネマ』を楽しみにしております!
Antennaで新曲MVの初解禁
■Anttena(アンテナ) 清河祐子
https://antenna.jp/
今回、Antennaとしても初の試みでしたが、通常よりもPVやシェアも高く注目度の高さを感じました。cinema staffのファンのみならず、まだcinema staffを知らないAntennaユーザーのみなさんにも魅力的な音楽に触れる新たな機会を提供できたと思っています。Antennaは、まだ出会っていない音楽との出会いの場を今後も提供できたらと思います。ありがとうございました!
360°パノラマライブMV制作!
■idoga(イドウガ) 梶原清明
http://www.idoga.jp/
今回初めてcinema staffを知りました。聞かせる声と歌詞、迫力のあるパフォーマンスは、アラフォーの私が見ても格好良かったです! 今回360°パノラマ撮影(idoga)を行い、メンバーがステージを縦横無尽に動きまわる姿や、倒れ込みながらも、しっかり演奏しているシーンもバッチリ撮れていました(笑)。観てもらえれば、特等席で見ている感覚になれると思います。ずっと応援していきます。頑張ってください!