2012年の結成以来、爆発的な勢いでラウドシーンを駆け上がり、メジャーデビューを掴みとったヒステリックパニック(以下ヒスパニ)。自らを「ラウド界の“スキマ産業”」と称し、その音楽性はあくまで「J-POP」だと格言する彼ら。メロディアスかつテクニカルなフレーズ、遊び心溢れる発想を武器に、ブッ飛んだ楽曲を放ちまくる。そして今回、メジャーデビューシングル『うそつき。』をエイプリルフールにリリース。過去には般若心経を歌ってみたり、猫への愛を叫んでみたり…はたまたラジオ体操でMV一本作り上げたり、自由だなヒスパニ。その斜め上を行く発想に中毒者続出中のバンド。そんなホープに、JUNGLE LIFEが初インタビューで迫る。
●まず、ツッコミたいのはこのアーティスト写真(以下アー写)についてなんですけど。なんでまたこの写真にしたんですか?
とも:メジャーデビューなので「何かメジャーっぽいもの」って考えたら、こんな写真になりました。なんかこう、ラグジュアリーな感じで「お姉ちゃん抱いて、お酒持って」みたいな。前回が和風のアー写だったので、「今回は洋風でやろう」って。YO!! ともかかっているんですけどね。
●なるほど(笑)。これ、どうしても水着のお姉ちゃんに目が行っちゃいますが。
とも:よく「お姉ちゃんがメンバーに入ったの?」って聞かれますね。ちょっとふざけたいというか、一捻りしたくて。いくつか候補があった上で、面白い、目の引くものにしたいと思ったんですよね。
●前はプリクラをアー写にしていたりしましたよね?
とも:ありましたね。あれは各方面に「アー写が使いにくい!」って怒られました(笑)。アー写が¥400で撮れるっていうことで「経費削減で良いな」と思って使ったんですけど。
●そんな発想!? ある意味賢い。
全員:ハハハ(笑)。
$EIGO:「賢い」って初めて言われましたよ(笑)。
●「モニコ」(前作シングル『Last Issue』収録曲)のMVも発想が面白いですよね。メンバーのラジオ体操の風景をひたすら流すっていう。
$EIGO:実はあれ、タダなんです。
とも:ヒスパニのカメラスタッフに撮ってもらったんですよ。
●基本的に活動は「ローバジェットでやっていこう! 」 みたいなところがある?
とも:ははは(笑)。そんなことはないんですけど、「アイデア勝負」っていうところであのMVができたんですよね。
●今回のシングル『うそつき。』でメジャーデビューをしますが、今ヒスパニはすごい勢いで規模が大きくなっている印象があります。その辺りは実感としてありますか?
Tack朗:上手いこと進めているなっていう実感はありますね。他のバンドと話していると、「苦しい時期を耐えてチャンスを掴む」っていう話を良く聞くんですけど。逆に俺らはそういうことがなかったので、「勢いがちょっとでも落ちたら、それが大きな失敗に捉えられないか」っていう“恐れ”みたいなものもあります。
●逆にプレッシャーに感じる部分もあると。
Tack朗:そういう部分はありますね。でも、今後の活動で決まっていることもバンドにとって追い風になりそうなので、今はとりあえず楽しんで、自分たちが表現したいことをやるだけかなって。そういう風に感じていますね。
●活動歴自体はまだ浅いですよね、ヒスパニ結成前はそれぞれバンド活動をやっていたんですか?
Tack朗:メンバー各々で何かしら活動をしていて、僕を中心に集まって今の形になったんですよ。
$EIGO:実はメンバーのだいたいが社会人だったんですよね。それが仕事を辞めて、ヒスパニ1本でやっていくことにして。
●それはすごい決断ですね。
$EIGO:バンドの業務的なことを自分が担当しているんですけど、仕事量がだんだん個人の力量で捌けなくなって、仕事とバンドの両立が難しくなったんです。「仕事とバンド、どっちが大事か?」って言ったら仕事なのかもしれないですけど、その時期から「いや、音楽を仕事にしてみるのもアリな選択だな」って考えるようになったんですよ。「じゃあ、(バンドで)遊ぼうかな」と思って。バンドが右肩上がりになっていく中で、みんなも仕事との両立が難しくなってきた。それで、気付いたら仕事を辞めていましたね。
おかっち:あ〜、それはありますね。「俺、メジャーデビューするんで辞めます」って言って会社を辞めましたからね。
●お! それ格好良いな。
おかっち:その頃、メジャーデビューが決まっていたわけじゃなかったんですけどね(笑)。
●ははは(笑)。でも、それが実現したわけですもんね。
Tack朗:そういう予感はあったんですよ。去年の夏に1stアルバム『センチメンタル・サーカス』をリリースしたんですけど、「この次はメジャーから作品をリリースするんだろうな」って。それくらいの謎の自信があったんです。
●『センチメンタル・サーカス』で手応えを感じたと。ヒスパニの活動には遊び心がありますよね。こういう活動は昔からやっていたんですか?
とも:ヒスパニの前にもバンドをやっていましたけど、僕のスタンスはその頃から変わっていないですね。当時も歌詞を書いていて、バカなアイデアを出す係だったんです。Tack朗はもっと正統派な、格好良いラウドのバンドをやっていたんですけど。
Tack朗:そうなんです。昔はもっと痩せていて、全身黒い服を着てシュッとした感じだったんですよ。
とも:その頃は英詞でバリバリ格好良いことを歌っていたんですけど。
●そうなんですね…いつからこんな感じに?
Tack朗:いつからでしょうね? 一種の悟りを開いて、一杯食べて、一杯大きくなっていってーー。
とも:当時のTack朗は「ヒスパニみたいなバンドは聴く分には良いけど、やるのはちょっと…」って感じだったんですよね。俺は当時からそういうことをやっていて、Tack朗を毒していったら、それに染まって見た目もこんな感じになった(笑)。
●ははは(笑)。でも、それが上手い具合にハマっている気がします。
とも:よく自分たちのことを“スキマ産業”って言っているんです。「同じ畑の他のバンドはできなくて、ヒスパニにできることはたくさんある」。そういう確信は昔からあったんですよね。
●確かにこのバンドでしかできないことをやって、それが成功していますよね。楽曲はどれも複雑でテクニカルな印象ですけど、どうやって曲を作るんですか?
Tack朗:メロディは9割方僕が作っているんですけど、最近はギターを弾きながら音楽を作っていないですね。ボ〜っとしている時に、自分の頭の中で音楽を作ることが多くて。僕は音楽理論がよく分からないんですよね。だから$EIGOに「こういう曲ができてさ〜」って口ずさんで。
$EIGO:それを俺が具現化するというか、音にする。
Tack朗:$EIGOに頭の中にあったイメージをポンと投げたら、すぐに音にして返してくれるんです。そうやって最近は順調に曲が作れていますね。
●そこで曲の原型ができると。
$EIGO:あとはメンバーに各々「よろしく!」って投げます。結構個人プレイみたいな部分が強いんですよね。なので完成するまで着地点は完全には見えていないというか。僕らは全員、音楽性が違うんですよ。「全く違う音楽を聴いてきた5人が集まったら、ああいう音楽ができた」みたいな。
Tack朗:ヒスパニはもともと“音楽性の違い”で結成したバンドですからね。
●よく活動が止まる理由にされがちなアレですか。
Tack朗:そう。「前向きな解散です!」みたいな(笑)。
やっち:僕らの場合は、そのおかげで成り立っているというか。
●じゃあ「〇〇みたいなフレーズ」って参考に挙げても「そのバンドが分からない」みたいなことがあるんじゃないですか?
$EIGO:全然ありますよ。セイオシンとか知らないでしょ?
とも:名前しか知らん。
Tack朗:俺、分かるよ。
$EIGO:こんな感じで。おかっちはニコニコ動画でも活動しているんですけど、そこで有名な楽曲を言われても俺は全然分からないですからね。
おかっち:そもそも僕のルーツはジャミロクワイだったりするから、それがバンドに活かされているのかは分からないです(笑)。自分の中ではヒスパニはだいぶ重い部類の音楽だと思っているので。僕はそれを中和するためにポップなことをやっていたりとか。
とも:見た目的にも一番中和しているので。
●ライブハウス店員と間違えられるくらいですもんね(※1)。
一同:ハハハハハ(爆笑)。
●歌詞についても聞きたいんですが、M-1「うそつき。」はものすごくハイテンションな曲ですけど、歌詞の内容的には失恋を思わせる部分もありますよね。
とも:これは実体験半分、人から聞いた話半分で書いているんです。失恋もありつつ、人から裏切られた話とか、最近そういう相談を聞くことも多かったので、それを織り交ぜて書きましたね。言葉にするとシリアスですけど、歌詞を見たら「何やこれ?」ですからね。
●でも、“「もういいかい?」「もういいいよ。」 ”からの下りとか、シリアスな印象がありますが。
とも:そこはあえてやっている部分もあって、ある意味歌の部分でのオチというか。“起承転結”でいうところの“結”の手前みたいなところで。そういう歌詞はスッと歌っても良いかなって。僕らの音楽はJ-POPだとも思っているので。
●なるほど。確かに3曲目で「うそつき。」のカラオケバージョンが入っている辺り“J-POP”って感じですよね。
とも:やっぱり「みんなに歌ってほしいな」と思って。カラオケ用のトラックは今回絶対入れたいと思っていたんです。
$EIGO:「みんなで楽しく歌ってください」っていうことで、ちゃんと歌いだしの部分にダサいクリックの音が入っていますから(笑)。
とも:これは今後もやっていきたいです。
●最後に、これから“4月は君と嘘つきTOUR 〜春の東名阪横断 花粉SHOW〜”が始まりますね。それについて一言いただけますか。
$EIGO:メジャーになったので、今までとはまた違ったよりみんながバカになれるようなライブメイクを考えていきたいですね。
Tack朗:フィールドは変わったんですけど、インデーズの頃とやる場所はそんなに大きく変わっていないので、楽曲の良さをフルに活かしたライブができればと思います。
やっち:これからライブがもっと楽しくなっていくと思うんですけど、楽しくなった分ハメも外しちゃうと思いますけど。怪我のないようにしてくれたらと良い思います。
●ハメを外して前歯を折らないようにと(※2)。
やっち:ははは(笑)。そうですね。
とも:もう前歯はTack朗のトレードマークになっていますからね。
おかっち:とりあえずヒスパニの曲を沢山聴いて、ライブに来てくれれば100%楽しめると思います。楽しんでいただけたら僕らも全力で楽しむので、是非ライブに来てください!
とも:今回の 『うそつき。』がどういう反響になるのかすごく楽しみなんですけど。普段こういうジャンルを聴かない子に、「こういうジャンルのライブも楽しいんだよ」って、どれだけアプローチできるかっていうところが結構大きかったりするので。今までライブハウスに来たことがない人をどんどん巻き込んで行けると良いなと思っています。
Interview:馬渡司
(※1)おかっちは服装がカジュアル過ぎて、観客にライブハウス店員と間違えられ「クローク何処ですか?」と聞かれたことがある。
(※2)Tack朗は飲みすぎた時に走って柵を飛び越えようとして失敗。前歯を折ったことがある。