2015年2月6日、大森靖子のブログにて突如発表された“大森靖子&THEピンクトカレフ解散のおしらせ”。翌月にはバンド名義でメジャー盤を初リリースすることも決まっていただけに、まさに衝撃のニュースとなった。昨年末には“COUNTDOWN JAPAN 14/15”にも出演を果たし、初のアルバムを経て“これから”という時期に彼女はなぜ決断を下したのか? JUNGLE☆LIFEでは2ヶ月連続大特集の第2弾として、大森靖子へのロングインタビューを敢行。本人の口から、その真意を語ってもらった。最初で最後のアルバム『トカレフ』についてだけでなく、同発の映画DVD『ワンダフルワールドエンド』についても語ってもらう中で感じたのは、遥か先を見据えた彼女のヴィジョンの明確さだ。1つの終わりを迎えた先には、未来へと突き抜けるための風穴がもう開けられている。
●今回が“大森靖子&THEピンクトカレフ”名義では初の全国流通作品なんですよね。これまではあえてリリースしてこなかった感じなんでしょうか?
大森:いや、自分のことで忙しかったから…(笑)。
●単にご自身の活動が忙しかったからだと(笑)。
大森:はい。あとはバンドがそこまで上手くもなかったので、音源にした時に“ちゃんと聴けるものになるのかな?”っていう不安があって(笑)。元々が“人間的に面白い人たちを寄せ集めて、自分の近くに置いておいたらどうなるんだろう?”みたいなところを楽しんでいたバンドなので、音源を作るっていう発想がそもそもなかったんですよね。
●音源を作るためにバンドを結成したわけではなくて、当初は単純に自分が“面白い”と思う人を集めたところからだったんですね。
大森:1つのことに熱くなりすぎて盲目的になってしまうような人って、ちょっと動きが面白かったりして。演奏するにしても、何か別のものが出ちゃっていたりするじゃないですか(笑)。そういうイビツな感じが目を引く人たちで、あとは…自分に対して絶対的に優しい人間を集めたんです。
●自分に対して優しいというのも重要だった(笑)。
大森:元々、最初に誘われてバンドに入った時に「もうバンドは一生やらない!」と思ったんです。だからバンドをやるにあたってはすごく慎重だったし、“何があっても自分に優しい人を集めよう”と思って(笑)。上手いか下手かはどうでも良くて、まずはそこからだった。
●バンドに対する嫌なイメージがあったにもかかわらず、ピンクトカレフを結成した理由とは?
大森:元々は弾き語りで活動していたというのがあって。今では色んなイベントに呼んでもらえるようになったんですけど、当時はバンドの人が弾き語りバージョンでやるようなイベントにしか呼んでもらえなかったんです。
●バンドがメインのイベントにはあまり呼ばれなかった。
大森:(他の出演者の)みんなはバンドでやった時に100%になるような曲作りをしているから「弾き語りバージョンです」みたいな感じでやるんですけど、私は弾き語りが100%で作っているから(そういうことを言われるのが)“嫌だな”と思って。かといってバンドのイベントにはあんまり呼んでもらえないから、「じゃあ、バンドを組むか」となったんですよ。
●バンドが出ているようなイベントに呼ばれるため、という必要性に迫られて結成したと。
大森:そうです。それが始まりですね。
●だから、当初は演奏技術的な部分もメンバーにそこまで求めていなかった?
大森:全く求めていなかったですね。でもライブをやる度に「弾き語りのほうが良いね」と言われるので、それも悔しいから「頑張ろう!」という感じにみんながなっていったんです。“弾き語りの大森靖子”と戦っているような感覚は、メンバーにはずっとあったと思います。
●人間的な面白さがあるぶん、プロフェッショナルなミュージシャンには出せないような音になっていたところもあるのでは?
大森:でも自分を核とした表現をちゃんとするにあたっては、そういう(プロフェッショナルな)ミュージシャンが必要なんですよね。というか、これからすごく必要になるかなって。でも、その時やりたいことではなかったから。上手い人たちとはいつか一緒にやれるだろうし、今できることはそれじゃないなというのは3年くらい前に(ピンクトカレフを)組んだ時には思っていました。
●その時にやりたかったことを具現化したのが、ピンクトカレフだったと。
大森:私は人と人を組み合わせるのがすごく好きで、“この人とこの人を組み合わせたら絶対に面白いものが作れるのに”とか思いついちゃうんです。だから(ピンクトカレフも)“この4人が一緒にやったら、どうなるんだろう?”というのがまずあって。
●組み合わせた時にどんなことが起きるのか想像できない面白さがある。そのピンクトカレフを解散することを2/6に発表したわけですが、当初から今作『トカレフ』を最後に解散すると決めていたわけではない?
大森:違います。今作を作るためにやってきたことの成果が、ライブで見えちゃったからですね。私が『洗脳』のプロモーションをしている間、メンバーは1ヶ月くらい合宿みたいな感じでずっとスタジオに入っていて。そこから再び合流したタイミングでやったライブが、私が去年やった中で一番大きな規模のものだったんですよ。
●“COUNTDOWN JAPAN 14/15”ですよね。
大森:自分が1人で名前を売るために奇々怪々な行動を繰り返しやってきたことの成果がやっと出たというタイミングで、ピンクトカレフを連れて一緒にやったライブで“ここまでは盛り上がります”っていう線がキレイに見えちゃって…。7,000人キャパの会場がいっぱいになっている中でライブをやったんですけど、“この音で届くのはこの範囲”っていうのが本当にピーッてキレイに見えたんです。それが見えちゃったから、“こりゃダメだ”と思って(笑)。
●ちなみに“線”が見えるというのは?
大森:ライブの時って、いつも線が見えるんですよ。客席に降りている時でも“ここを走って、こう抜ければ良い”とかが見えるし、“この人がこういう顔をしているから、次に出すべき音はこれだ”みたいな感覚もあって。そういう線が自分の中では見えているから、それに合わせて演奏しているだけなんです。
●“COUNTDOWN JAPAN 14/15”では、それが限界を示す線として見えてしまったと。
大森:普通のライブハウスだったらメチャメチャ盛り上がれるし、絶対に楽しいことができるんです。でも自分が大きくなっていこうとしている今のタイミングで、このバンドの成長を待ってはいられないなと。だから、とりあえず(ピンクトカレフの)活動を止めようと思って。
●前回のメールインタビューでは“ピンクトカレフを仕上げて終わらせる必要があった”という回答がありましたが、そういう意味で今作はバンドとして1つの集大成とも言えるんでしょうか?
大森:だと思います。これが最大限ですね。
●収録曲は、これまでにライブでやってきたレパートリーが中心?
大森:ピンクトカレフのライブでよく演奏していた曲が多いですね。ライブで常にやる曲をとりあえず全部挙げたんですけど、歌詞(の内容)的にできないものも結構あって…(笑)。そういうのは除けて、あとは新曲やあまりやっていない曲を引っ張ってきた感じです。
●ライブであまりやっていないものも入っている。
大森:何回か演奏したけど今はもうやっていなくて、“今回発表しないと二度とやらないんじゃないか?”みたいな曲も入っています。あと、自分にギターを教えてくれた人で、もう亡くなった先輩の曲を入れたりもして。
●M-12「これで終わりにしたい」は、2011年に急逝したフォークシンガー加地等さんの楽曲をカバーしているんですよね。
大森:ライブを観たりする前から、知り合いだったんですよね。よく一緒に呑みに行ったりもしていて、最初は“ちょっと売れてるミュージシャンの悪口をずっと言ってるオッサン”っていう印象で(笑)。でも人当たりも良くて、自分と同世代の女の子たちからも“かわいい”とか言われて慕われていたんですよ。
●現在も使用されているギターは、加地さんがキッカケで買われたそうですが。
大森:私のライブを初めて観に来てくれた時に、「高いギターを今すぐ買え」って言われたんですよね。私はその時まだ弾き語りを始めて半年とか1年くらいだったから、そういうものはまだ早いと思っていて。でも加地さんにそう言われたので“買ったほうが良いんだ”と思って、今使っているギターを買ったんです。それが一番大きいですね。
●というのは?
大森:最近はそうじゃない曲もあるけど、やっぱりギターで曲を作ったり、ギターでライブをするわけだから。もうほぼ、そのギターが私の音楽みたいなものじゃないですか。だから“あのギターで良かったな”って思います。
●加地さんはちゃんとそこまでわかっていて、言ってくれたんでしょうね。
大森:たぶん、そうだと思います。私には「高いのを買え」と言ったのに、別の人には「8,000円のを買え」とか言っているんですよ(笑)。色々見えているんだと思いますね。“この音がこの人の音楽には合っている”とかが見えていたんじゃないかな。
●ちゃんと大森さんの音楽を聴いた上でのアドバイスというか。
大森:基本的にはボロクソに言われていましたけど、まあそうじゃないですかね。「安い音で弾いたら、安い音楽になるから!」とか言っていて。
●加地さんの楽曲の中で「これで終わりにしたい」を選んだ理由とは?
大森:これはライブの登場曲として流していたんですよ。あと、単純に今回は『トカレフ』というタイトルのアルバムなので、その“トカレフ”という単語が(歌詞に)入った曲というところで選びました。
●うっすらとバックに入っているのは何の音?
大森:スタジオの近くに、“東京にこんなところがあるのか!?”と思うくらいしみったれた公園があって(笑)。“ここだろう!”と思って、そこで録音したんですよ。その音ですね。
●外で録ったので、周囲の環境音が入っていると。
大森:毎回そういうことはよくやるんですよ。iPhoneで録音したものをそのままアルバムに入れたりとか。弾き語りって、キレイに録ると不自然なんですよね。やっぱり、(他の)音がある状況が普通だから。バンドサウンドだと他の楽器の音がデカいから高圧的な感じがあって、その世界観にみんなが従ってノッていくというか。でも自分のライブはそうじゃなくて。外的要因に刺激されまくって、それに対して音を出すみたいなことをやっているから、キレイに録音するとそのレベルにならないんです。変わっちゃうというか…だから録音は難しいですね。
●その瞬間にしかない音を記録するのはすごく難しいですよね。
大森:下手なりのグルーヴというか、ズレているなりのグルーヴというか…。でも奇跡的に意味わかんないタイミングで“何か良い!”みたいなのがやっぱりあるから、なるべくそれを活かせる環境で録ろうっていうふうにみんなで頑張った感じです。
●“ズレ”を上手く活かしている。
大森:たとえば“このタイミングだから、こことちょっとズラせば面白い”とか、そういう遊びはやっているかな。あまりにもズレすぎているので、その間を埋めるようにアコギを弾いたりとか、(普通は)そんな作業をしないじゃないですか(笑)。ブレブレのトラックを、最後にボーカルとアコギでどうやって1つにまとめるかみたいな作業はすごく楽しかったです。
●そこも、このメンバーならではの予測不能な感じを楽しめている。
大森:そうですね。最近は“なんでこんな歌詞になるんだろう?”とか“なんでこんなメロディなんだろう?”とか“なんでこんな音なんだろう?”って驚くことが全然ないから。特に言葉に関しては、“なんでみんな、こんなつまらないことをわざわざ歌うんだろう?”みたいなことは誰の歌詞を見ても思います。
●大森さん自身もメジャーデビュー以降、歌詞の表現で変わった部分もあったりするんでしょうか?
大森:変わったというよりも、今まではすごくフルイにかけていたんです。でも自分の中で“思いついたけど、わざわざ言うほどのことじゃないな”と思っていたものも、最近は全部言うことにしたんですよ。意外に、それくらいのことでも面白いみたいなんですよね。“こんなことで世間って驚くんだ!”っていうことがいっぱいあって。
●自分が考えていたほど、一般的な“面白さ”のハードルは高くないというか。
大森:“こういうことも言って良かったんだ”という感じですね。(インディーズの頃は)やっぱり耳の肥えた人しかライブなんて観に来ないから、結構なことを言わないと“おおっ!?”となってくれない状況があったんですよ。でもそれが(今は)広がっているから、“これくらいで良くなった“みたいなところがあって。
●全部が必殺の言葉じゃなくても良くなった。
大森:今は後ろのトラックでもずっと面白いことをやっていてくれるから、全部が必殺の言葉である意味がそんなになくなったんですよ。ちょっと面白いくらいのことでも遊べるようになって、(使える言葉が)増えたという感じですね。
●メジャーに行ったからといって窮屈になっているわけではなく、すごく自由にやれている。
大森:そういうところはありますね。逆に、(無理に)やらされていることは何もなくて。
●ちなみに今回のアーティスト写真は今までと雰囲気が変わりましたが、これはどういうイメージで?
大森:私はGLAYの「誘惑」のMVが特に好きなんですけど、それを全部ピンクにしたようなMVを撮りたいと5年前くらいからずっと言っていたんです(※「誘惑」のMVはバックが青を基調に撮影されている)。でもやっぱり、インディーズ時代は「お金がないから撮れない」という話になってしまうんですよ。それが今回は実現できたっていう。
●今まで頭の中にあって、やりたかったこともメジャーという環境だからこそ実現できている。
大森:できています。何でも言ってみたら、誰かがどうにかしてくれるんです(笑)。「あの人に会いたい、この人が好き」とか言ったら、誰かが会わせてくれたりして。
●ある意味、色んな夢が叶っている。
大森:本当にそうですね。
●そして今作と同時に映画『ワンダフルワールドエンド』のDVDも発売されますが、これは大森さん自身のエピソードを元に制作されたそうですね。
大森:監督(※松居大悟)に色々と訊かれて答えていたら、それをそのままトレースしたものが脚本で上がってきて。“この人は何なんだ!? エゴとかないのか?”と思ってビックリしたけど(笑)、面白かったですね。
●本当にリアルな大森さんのエピソードが盛り込まれている。
大森:大学生の頃くらいのことをいっぱい話したんですけど、本当にどうしようもなかったので…(笑)。でもそのどうしようもないところを、(主演の)橋本愛ちゃんが演じてくれるというのも良いなって。やっぱり顔立ちもはっきりしているし、芯もしっかりしている人だから、そういう役がいっぱいまわってくるわけじゃないですか。“(普通では)こんなどうしようもない役はまわってこないぞ”というところで、これまではあんまり見られなかった愛ちゃんが見られたのも良かったですね。
●橋本愛さんの他では見られない演技が見られるのも映画の見どころだと。
大森:あと、(ダブル主演の)蒼波純ちゃんという、当時小学6年生の女の子にもすごく惚れ込んでいて。その子にも(映画に)出てもらえて、あの時にしかない“あの感じ”をそのまま撮れたことがうれしかった…という作品ですね(笑)。
●インターネットのニュースで見たんですが、大森さんが「純ちゃんは何歳で神さまになるのですか」と訊いたら、蒼波さんは「100歳」と答えたそうですね。
大森:(それを聞いて)「ぬおおお」って本当に言いましたからね(笑)。まずそういう質問にスッと答えられることがすごいじゃないですか。普通は「はっ…!?」ってなると思うから。でも私がそう思ったのは自然なことだったし、それをわかって答えてくれたんですよね。「なんで?」って思わないでくれたというか。“「なんで?」って思う”ということを本当にしない子なんですよ。
●そもそも大森さんが「何歳で神さまになるのですか」と訊いた理由も知りたいんですが…(笑)。
大森:本当にこの人は神さまになるんじゃないかと思って。そもそもがこの世界から浮かんでいるような、唯一無二なものだったんです。人って普通は大人になるものなんですけど、“この人は大人にならない”と思ったんですよ。
●“大人にならない”というのは?
大森:何回か会っていく内にどんどん背が高くなっていくし、オーラもすごくなっていくんですけど、それが大人の色気とかとは違っていて。今まで見たことのある色んな成長とは全然違うものだったから、“神さまになるのかな”と思ったんですよ。というか、神さまじゃないとしたら、この人が何なのかもうわからないっていう(笑)。“神さまだとしたら納得できる”と思ったから。
●実際に映画を観ている時もそういうことを感じた?
大森:(劇中の)音楽を付けている時に映像を何回も観ているんですけど、“なんだこりゃ!?”っていう感じですね。“見たことないもの”という感じがすごくあったんですよ。
●逆に音楽では最近感じていないような驚きがある。
大森:音楽よりも、女の子を見ているほうがそういうことも多いんですよ。“なんでこんなこと言っちゃうの!?”とか“なんでそうした!?”みたいな(笑)。でも実はちゃんと理由があったりもして…、やっぱり面白いですね。
●色んな音楽を聴いていると自分の中でのハードルが上がっていったりもしますが、女の子に対してはそういうふうにならない?
大森:女の子はずっと見ていても、そうならないんです。1人として同じ子はいないですからね。…と言ったら音楽も一緒で、同じものはないはずなんですけど、何なんですかね?
●何なんでしょうね(笑)。
大森:面白いところって、だんだん薄まっていくんですよ。薄まらないと、生きていけないから。そこを薄まらなくても生きていけるような世の中にしたいという想いが私は強くて。特に女の子のそういうところって、ちゃんと歌われていないことが多すぎると思うんです。
●女の子が持つ特異性みたいなものをちゃんと切り取った歌が少ない。
大森:自分が中学生くらいの時って、やっぱりそういう年頃だから青春をテーマにした映画を観たりマンガを読んだり、青春的なことを歌っているバンドとかもいっぱい聴いたんですよ。でも自分と同じような人が全然いないなと思って。“男の子はこんなにもあらゆる人種が網羅されているのに、女の子はそうでもないぞ”ということに気付いて、寂しかったんです。
●共感できるものがあまりなかった。
大森:“そうそうそう!”っていう気分になることがなかったから。まだ形になっていないものとかがありすぎると思っていて。でも大学に行ってみたら、「もう(あらゆることが)やりつくされました。だから、その技術を学ぶべきなんです」みたいな授業ばかりなんですよ。それもすごくわかるんですけど、特に日本で女の子に関しては“まだやられていないことがメチャメチャいっぱいあるぞ”と。そこはすごく実感していたし、やっていたとしても広がっていないのを感じるから、そういうことをやっていきたいなと思っています。
●それがこの先やりたいことにつながってくるんでしょうか?
大森:プロデュースがしたいんです。単純に女の子が歌っているものって大体、男の人がプロデュースしているじゃないですか。あんまり女の人がプロデュースしていないこと自体が、不自然だなと思っていて。女の人が(プロデューサーとして)全然台頭してこないのは“なんでだろう?”って思うし、それをやりたいなって思います。
Interview:IMAI