YouTubeなどの動画投稿サイトでの活動がきっかけで人気に火が付き、一躍ブレイク。2012年に『nanoir』でメジャーデビューを 果たし、その後も快進撃を続けるナノの勢いは止まらない。2013年に行われたライブ“Remember your color.”では初のステージにも関わらず、新木場STUDIO COASTを大観衆で埋める。その後もMY FIRST STORYとのコラボレーション楽曲『SAVIOR OF SONG』の発表、日比谷野外音楽堂での共演など、シームレスに活動の幅を広げ、独自の進化を続けている。そんなナノが、待望の新作『Rock on.』をリリース。今までの音楽性を更に広げるような、奥行きのある作品に仕上がっている。未だに正体が明かされない新進気鋭のバイリンガ ルシンガー。その新星に改めて問う。
●ナノさんの活動を遡って行くと、動画サイトでの日本語の楽曲の英訳版を歌ったことが始まりだったかと思うんですが、元々音楽はやっていたんですか?
ナノ:小さい頃から音楽が大好きで、ミュージシャンを目指していたんですよ。何かのきっかけで動画サイトに投稿をしてみたんですけど、そうやって自分から始めたことが今の活動に繋がっていったんですよね。(投稿に対して)驚くほど反応があったので、最初は戸惑いました。それを続けていくうちにどんどん真剣になっていって。元々真面目な性格なので「英訳! 英訳! 英訳!」って、仕事のようにやり始めたんです。
●ナノさんのTwitterの「お気に入り」に、ツアーに参加した仲間のツイートだったりが多く見受けられますよね。その辺りに真面目な人柄が出ているような気がします。
ナノ:ははは(笑)。そうですか? 「お気に入り」に入れたのは「自分1人で音楽をやっているんじゃないな」って気付いた時に、心に残ったものなんです。今までは家で録音や投稿をすることは自分1人の作業だったので、人と協力してやるっていうことを味わったことがなかったんですよね。初めてライブをやってみて、CDを出してみて、「人との関わりが大事なんだ」っていうことをすごく実感したんですよね。「音楽は1人でできるものじゃない」っていうことに感動したんだと思います。
●そういう意味では、2013年の新木場STUDIO COASTでの初ライブで、直接観客の温度が伝わって来た時は感動したんじゃないですか?
ナノ:幕がバッと上がった瞬間に、目の前に2000〜3000人のお客さんがいて、「ここにいるみんなは、今日このために来てくれたんだ!」と思って感動しましたね。その後に、それが一瞬でパワーに変わったんですよ。あっという間の2時間でした。
●逆に大舞台に立つプレッシャーはなかった?
ナノ:出演前は緊張する余裕もなかったです。「緊張や不安は妨げにしかならない。そんな余裕があるんだったら、もっと最高のライブをするためにそのエネルギーを使いたい」と思ったんですよ。こっちが一生懸命やっていれば、絶対お客さんも満足してくれると思うんです。それがライブで確かめ合えるというか、お客さんとリアルタイムで直接繋がれるっていうのはライブでしか味わえないですよね。音源を作るのも楽しいけど、ライブの時の独特の空気感が癖になるというか。
●“World of stars.”ではオーディエンスがサイリウムを組み合わせて、星の形にアレンジして振っていたりしましたよね。あの一体感は印象的でした。
ナノ:Twitterのハッシュタグを使って、知らない人同士がみんなでライブの日に「この色のサイリウムでこの形を作って、この曲のこの瞬間に振ろう!」って団結して作ってくれたんです。それを後になってファンの子から聞いた時は感動しましたね。みんな「どれだけナノを喜ばせられるか」っていう気持ちでやってくれていて、本当に愛を感じます。
●去年6月にはMY FIRST STORYとの共演も果たしましたが、その頃ライブはまだ数えるほどしかやっていなかったそうですね。
ナノ:最初はプレッシャーがすごかったです。活動期間は変わらないんですけど、彼らはとにかくライブを一年中やっているので。でも、そこはただ「自分は精一杯やるしかない!」と思って挑んだんです。実際にやってみて、自分が納得できなかった部分はすごくありました。でも、それを課題にしたことで、直後に始まった“World of stars.”ツアーにすごく良い影響を与えてくれたんですよ。なので、もっといろんなバンドとやってみたいです。
●次にやるべきことが見えてきたと。
ナノ:今まで自分に満足したことがあまりなくて。「もっと上に行きたい。もっと! もっと!」っていつも貪欲なんです。「これをやったから、もう満足だ!」ではなくて「次はもっと達成しないとダメだ!」って、常に一歩先を見ちゃうんですよね。
●歌い方もそういう風に思ったりします?
ナノ:常に進化させたいです。実は元々、自分の声が好きで歌っていたわけではないんですよ。自分の声はむしろ大嫌いだったけど、歌うことが好きだったんです。それなら「とにかく歌が上手くならないと」って必死だったんですよね。毎日歌って、自分の声を聴き返して。「どこをどうしたら自分の中で許せるか」っていうのを追求して、今の自分の声があるんです。でも、まだ全然納得していないので、これからもどんどん進化していきたいですね。
●個人的な感想なんですけど、ナノさんの歌声を聴いて何故かマイケル・ジャクソンを感じたんですよね。
ナノ:え!? そうですか? 初めて言われましたよ(笑)。
●コーラスの歯切れの良さとか、中性的な声の印象から感じました。
ナノ:あぁ〜。でも初めて言われたわりにはすごくしっくりきました。今までマイケル・ジャクソンの歌を意識して聴いてきたわけではないですけど、確かに歌いやすいっていうのはありましたね。リズムが立っているものは歌いやすいんですよ。逆にゆったりした歌い方は苦手なんですよね。
●でも今作『Rock on.』はゆったり聴かせる曲も多いですよね。
ナノ:そうなんです。不得意だから避けるっていうのは自分のためにもならないと思うし、引き出しを増やしたいんですよね。
●修行をする感覚というか。
ナノ:音楽は修行ですね(笑)。最高の修行です。
●ははは(笑)。ストイックに突き詰めたいと。アスリート的な感覚があるんですね。
ナノ:今までもテニスやサッカーをやっていた時があったんですけど、もう本当に負けず嫌いで(笑)。もし音楽をやっていなかったら、スポーツをやっていたのかなと、自分でも思います。一番は自分に負けたくないっていう。「自分を越えたい」っていう気持ちがあります。
●『Rock on.』は、そういうアグレッシブな曲と、壮大でゆったりした曲が見事にパッケージングされていますよね。この中で一番印象に残っている曲はどれですか?
ナノ:リード曲のM-12「Rock on.」ですね。自分の中で一番伝えたいことがぎっしり詰まった曲で、グッと感情が出てくる。リスナーに向けた曲だけど、自分に向けた曲でもあるんです。あとは、自分が作詞作曲したM-7「Be the one」。この曲はゆったりした曲なんですけど、これも“ナノ”なんです。内面の自分というか、闘争心の裏側には戦うことが嫌いな自分もいるっていう。
●以前Twitterで「まさかの love song?」と仰っていましたよね。それは「Be the one」のこと?
ナノ:そうです。ただ、ラブソングと言っても「I Love You!」みたいな恋人同士のものだけではなくて。家族や友人も含めて、その人に対して無条件に愛を捧げられるって素敵なことだと思うので、それをテーマにしたかったんですよね。自分にとっての“たった1人の誰か”に伝える曲なので、自分の中ではそれがラブソングなんです。
●それで、ああいうピースフルな曲調になっているんですね。
ナノ:本当に愛を感じる人に対しては、そういう平和な気持ちになるんだなって思います。自分は「本当は平和好きなんだな」って感じましたね。
●そんな今作は、M-1「identity crisis」で始まりますよね。このタイトルはどういう意味合いで付けたんですか?
ナノ:「identity crisis」は英語だと一般的に使われる言葉で、“自分の存在喪失”という意味。自分が誰なのか、分からなくなったりすることはよくあると思うんですけど、それがテーマの曲なんです。まず、そういう疑問から入るアルバムっていうのが面白いんじゃないかな思って。
●「identity crisis」で始まって、最後が表題曲の「Rock on.」じゃないですか。「今までのものを壊してから、また新しいものを作っていきたい」みたいなところがあるのかなと思ったんですけど。
ナノ:そうですね。今回はやったことがないことをいろいろやりたかったんですよ。アルバムを通して「人生を一回生きてみた」っていう感覚で聴いてもらうというか。「identity crisis」で「自分は誰なのか?」って問いかける。そこからいろんな経験をして、壁にぶち当たったり、愛を経験してみたりして。でも「最終的にはRock on.でしょ!」みたいな(笑)。
●ははは(笑)。一周回って元に戻ると。
ナノ:最終的には「格好良く生きることが一番でしょ!」っていうことですね。今作の曲順は全部自分で決めたんですけど、今までで一番しっくりきました。
●3/21から規模がグッと凝縮されたライブハウスツアーが始まりますね。どういうライブにしたいですか?
ナノ:一番意識したいのはお客さんとの距離ですね。ステージは今まで通り全身全霊でやればいいと思うんですけど、せっかくこの規模でやるわけだから、お客さんに「近くになって良かった」って思ってもらいたいです。今まで来てくれた人にも最高のライブを味わってもらいたいし、初めて来る人にも「本当に行って良かった」って思ってもらいたい。その空間で、もっと1人1人と繋がれたらいいなと思います。
●距離感を大切にしたいと。
ナノ:ライブもCDも、全てのことは次に繋がるきっかけでもあると思うんです。今回のツアーが次のきっかけになってくれたらと思うので、終わったら「ああ良かった、満足!」じゃなくて。「次も行きたい!」って思ってくれるようなライブにしたいです。
Interview:馬渡司