前作『B.C.Eのコンポジション』でタワレコメンに選ばれ、今年1月に行われた渋谷WWWワンマン公演は見事ソールドアウト。今のロックシーンの流行とは趣の違う、ヒラオコジョー・ザ・グループサウンズのノスタルジックで普遍的なサウンドが今、人々の心を掴み始めている。バンド名の由来にもなっている“平尾孤城”という歴史研究家/作詞家を祖父に持ち、作詞作曲を一手に担うVo./G.ヒラオコジョー。彼の紡ぎ出す歌は、日本語の美しさが活きた、深みのある作品ばかりだ。そんな彼らが12/3にニューアルバム『OU-TOTSU』をリリースする。常に最新作を“最高傑作”と呼ぶ、この潔い男たちの実像に迫った。
●ヒラオコジョー・ザ・グループサウンズ(以下ヒラオコ)の由来はヒラオコジョーさんのお祖父さんなんですよね。
ヒラオ:祖父は自分が通った学校の校歌を作詞していて、歴史の研究もしていた人なんです。その校歌を歌って幼少の頃を過ごしていたので、単純に憧れていたんですよね。近所の人に祖父の話を聞くと「良い人だったよ」みたいなことを言ってくれて、自分もそんな風に言われる人間になりたいと小さい頃から思っていました。
●純粋に憧れていたと。
ヒラオ:祖父は、母が中学生の時にはすでに亡くなっていて写真でしか見たことがないんですけど、その名前を借りようかなと。元々ヒラオコジョーという名前でソロをやっていたので、その延長線上でバンド名としても使っています。
●今作『OU-TOTSU』ですが、聴いた印象として、すごく丁寧に作り込まれている印象がありました。
ヒラオ:メンバーは凝り性なんですよ。みんな繊細な性格しているし、僕が一番ガサツなくらいなので。
タナカ:君が一番繊細やん!
コウチ:まずヒラオが新曲のデモを持ってくるんですけど、その時点で作り込まれていて。このまま世に出してもいいくらいのものを渡されるんですよね。
●ヒラオさんは自分で作り上げたい人なんですね
ヒラオ:そうですね。よくシンガーソングライターが「僕の仕事は0から1を作る。それをみんなで10にしよう」みたいなことを言うんですけど。僕は全然違って、0から10を作りたいんですよ。そうやって作り上げた10を、みんなで12とか13にしたいという考えが根本にあるんです。
ハラ:ヒラオくんは元々ドラマーというのもあって、全部のパートが弾けるんですよ。それを他のメンバーがよりレベルアップさせるみたいな印象ですね。
コウチ:逆にデモの段階でできあがっているので「それ以上のものを出さないといけない」っていうプレッシャーがけっこうあります。
●じゃあメンバーとしてはそれを完コピするっていう感覚よりも、更に自分のアイデアをぶつけようって考えなんですね。
コウチ:一度自分の中で飲み込んで、完コピした上でどういう風にやるかを考えます。
タナカ:ただ、その提示されたデモを超えられなければ、ヒラオの作ったフレーズの方が良いということなので、それを弾きますね。
●その時はプレイヤーとしての主張は置いておくと。
タナカ:元々ヒラオの作る音楽が好きなので、そこは崩したくないっていう気持ちは大きいです。でも自分が提案してもっと良いものができて、かつヒラオが良いって言うのであれば、それを採用する。みたいなところがありますね。
●M-1「太陽になりたくて」から渋みのあるイントロで、懐かしさを感じますよね。そういうところは狙っている?
ヒラオ:いやぁ…曲ってウンチと一緒だと思うんですよ。街に出て、いろいろ吸収して、帰ってきてウンチとして出たものが曲になっているので。だから、求めてそういう形にできるっていうものではないんですよね。「あ、今日のウンチ、めっちゃ良いからみんなに見てほしい!」っていう(笑)。だから、狙って作っているわけではないです。
タナカ:いきなり何てことを言うんだ…。
●ははは(笑)。じゃあ出てくる曲は意外なものだったりするんですか?
ヒラオ:そうですね。「自分、こんな曲が書けるんだ!」みたいな時はあります。自分が書いているというよりも、自分自身がバンドのイメージに寄っていっているような感覚かもしれないですね。
●歌詞に関してもそういう感覚なんですか?
ヒラオ:歌詞も「なんでこんなことを思い付いたんだろう?」っていう瞬間もあるので、そうかもしれない。自分が“ヒラオコジョー”というキャラクターになっている時があるのかもしれないです。
●作品を通して歌詞が一貫していますよね。日常の出来事のちょっとした感情のゆらぎとか、そういうところを饒舌に表現している感じがします。
ヒラオ:私小説のような、自分で経験したことしか書けないというか。その思い出を切り売りしている感覚です。空想めいたものはあまり得意じゃないので、「あの時の、この気持ちを歌いたい」みたいな、その時に感じたことを自分なりに掘り下げて書いているんです。
●「思い出を切り売りしている」というところで言うと、その物語の切り取り方を工夫して作品にしている?
ヒラオ:1曲の中でその一瞬だけを最後まで歌いたいのか、何年もの時間を感じさせたいのかって自分の中に考えがある場合は、そういう切り取り方をすごく考えますね。
●今作の中で一番印象深かった歌詞はありますか?
ヒラオ:M-8「凸凹」ですね。この曲の舞台はまだ地元にいる頃で、学生時代から車の免許を取ったくらいまでの2〜3年間の話なんです。『OU-TOTSU』が完成した後、僕とタナカとハラで地元に帰った時に「せっかく地元に帰ってきたから、思い出の場所を辿ろう」っていうことで、3人で歌詞に出てくる無人駅に行ったんです。そこに着いたら「ここが歌詞の場所なのか…」って全員で黙りこくって半泣きになるっていう(笑)。
タナカ:若い頃の自分を呼び覚まされますよね。映画を観ているような感覚になっちゃうんです。
●確かに「凸凹」は具体的に言わない分、想像力をかきたてられて、甘酸っぱくて切ない体験を思い出させるというところがあるかなと思うんですよね。でもそういう曲を書いていると逆に心の傷をエグることになりません?
ヒラオ:そうですね…。
タナカ:だから(演奏中に)泣くのかな?
ヒラオ:記念イベントのような大事な時とかは、頼みもしないのに涙が出てくるんですよね。
●それくらい感情がこもっているから、より聴き手の心を揺さぶるんでしょうね。
タナカ:2年前に下北沢CLUB Que(以下Que)でワンマンライブをやった時、後半に「凸凹」を演奏したんですけど、曲が2周目に入ったくらいでヒラオが(ウルッと)きちゃったんですよ。それで僕らも「ウワッ」って演奏に感情が入り過ぎちゃったんです。それからしばらく「あれは危ない!」ということで「凸凹」はライブでやれないくらいだったんですよ。
●ちなみに「凸凹」の題材になっている子に、この曲は届いていたりするんでしょうか?
ヒラオ:届いているんじゃないですかね。ただミュージシャンとして「これは君のために作ったんだ」って聴かせるのは恥ずかしいじゃないですか。それよりも「これ絶対、私のことよ!」って気づいてくれた方が嬉しいというか。
●じゃあ例えばどこかで「凸凹」が流れて…。
ヒラオ:「あれ? これ私のこと?」みたいな。そういう子が100人いてくれたらいいなって思います。
●ははは(笑)。今までの話が台無しじゃないですか(笑)。メンバーのみなさんはそういう歌詞を見て、率直にどう思いますか?
コウチ:楽曲制作という面では、「凸凹」の歌詞なんかは1周目と2周目で状況が変わっているじゃないですか、そういう部分を汲み取って「こういう気持ちなのかな?」って、勝手に想像しながら「1番はこういうテイストにしつつ、2番は違うテイストにして…」ということをずっと考えていますね。
●確かに「凸凹」のドラムはすごく抑えて叩いているけど、疾走感も出ているんですよね。曲を理解していないと、ああいう叩き方にはならないのかなと。
コウチ:その時の気持ちを上手いこと出せたらと思ってドラムを叩いているんです。メンバーとして、一番の理解者でありたいなと思っています。
●なるほど。
タナカ:昔、ヒラオが「歌詞は世に出した瞬間に自分のものだけではなくなる、だから聴いた人が感じたものが正解だよ」と言って、歌詞の内容を教えてくれなかったんです。それから自分に置き換えて歌詞を見るようになって、すごく自分の生活に馴染んでくるというか。その中で「この曲に教えてもらったな」、「救われたな」っていうことがたくさんありますね。
ハラ:ヒラオくんの歌詞は国語の教科書に載せたいと思うくらいなんですよ。僕は彼の歌詞を見て「そんな表現もできるんだ! 1つの事柄にこんなに言い方があるんだな」ってなります。そこに辿り着くまでにいろんな道を辿ってきたと思うんですけど。そういうところも含めて、毎回ハッとさせられるんですよね。
●これからもそういうスタンスで歌詞を書いていく?
ヒラオ:そうですね。独りよがりにならずに極力正直に書きたいと思います。100枚のアルバムよりも、1枚のアルバムで100枚分くらいのボリュームを感じて聴いて欲しいという気持ちがあります。
●12/22に“ヒラオコワンマン in QUATTRO 〜 じっちゃんの気も知らないで〜”が行われますね。どんなライブにしたいですか?
タナカ:以前僕らがQueでワンマンライブをした時に「武道館でワンマンライブをやる。その時はQueに観に来てくれた人は無料で招待するよ」と言ったんですよね。もちろん僕らは本気で目指しています。だから前回の渋谷WWW、そして今回の渋谷CLUB QUATTROと、成長していく過程を見てほしいんですよね。僕らも成長しているし、お客さんも日々いろんなことを感じて生活していると思うので、ライブでいろいろ感じ取って欲しいなって。
ヒラオ:メンバー全員、音楽を始めたきっかけは自分のためだったと思うんです。 でもこのバンドを5年間続けてきて、自分のためだけでは頑張れなくなってきていると思うんですよね。 そういう意味でも、僕らが何か大きなことに挑戦すること、それだけで励まされる人ってたくさんいると思う。そういう姿を観て欲しいと思います。
●成長を見届けてほしいと。
ハラ:この間コールドプレイのライブ映像を見ていた時、何も考えずに夢中で見入ってしまったんですよね。そんな他のことを全部忘れて夢中になれるような空間というか、そういう場所にできたらいいなって。そんな風に思っています。
コウチ:今回のワンマンは2時間くらいになると思うんですけど、その時間を僕たちのために使うって結構な労力だと思うんですよ。でも、その2時間を絶対に心に残る時間にしたいと思っています。僕らも何かを持って帰りたいし、お客さんも何かを持って帰ってもらえたらなと思いますね。
Interview:馬渡司