今年5/10、SHIBUYA-AXでのワンマン公演“510mariko Party@SHIBUYA-AX”開催前にチケットが売れないことを公言して都内にてゲリラお散歩ライブを敢行し、最終的にはたくさんの観客を集めてライブを大成功させた後藤まりこ。破天荒かつ濁りのない表現&幅広い活動で独自の道を歩む彼女が、レコード会社と事務所を移籍して最新アルバム『こわれた箱にりなっくす』を完成させた。彼女の内面から溢れ出る激情、女性らしさと優れた感性、活動の中で感じてきたたくさんの感謝の想いが詰め込まれた今作は、“人間・後藤まりこ”と最も距離が近い作品なのかもしれない。
●今年のトピックスでいえば、所属レコード会社と事務所を一新したり、春にはSHIBUYA-AXのワンマン公演“510mariko Party@SHIBUYA-AX”のチケットが売れていないことを公言して都内のゲリラお散歩ライブを敢行したり。
後藤:そうですね。
●かと思えば8月には尾道で撮影をしたり、10月には舞台『ロミオとジュリエットの子供たち』にも出演しましたよね。
後藤:そうなんです。8月の尾道の撮影は、島田角栄さんっていうパンクの映画を撮る人の映画に出させてもらって。
●ソロで活動を始めた当初、テーマとして「断らないこと」とおっしゃっていましたよね。音楽活動だけではなくて、いろんな経験をしてきてどうでしたか?
後藤:ドラマとかも色々とやらせてもらって、役者さんって大変やし偉いなって思いました。そういうことをやらせてもらっている中で思うことは、やっぱり音楽がいいなって。どう転んでも芝居の人にはなられへんなってことがわかってよかったです。
●“やっぱり音楽がいいな”と思いつつ、色んなことに挑戦するというスタンスは変わってないんですか?
後藤:そうですね。やっぱり求められたら、断る理由がなかったら僕は断らないんで。日程も空いてたし。
●後藤さんのブログを読んでいると、ここ最近の心境が今回のアルバム『こわれた箱にりなっくす』に密接に繋がっていると感じたんです。それは、色んな人に対しての感謝の気持ちというか。“510mariko Party@SHIBUYA-AX”のワンマン公演が1つの大きなきっかけになっていると思うんですが、あの日のライブは大きかったですか?
後藤:めちゃくちゃ大きかったです。そこまでめっちゃ必死になって「チケットを売ろう」とか「ライブ観てもらおう」って思ったことって、今まであったと思ってたけど、実はAXに比べたらそんなになかったかも。漠然としたそういう気持ちはあったかもしれへんけど、それが行動を伴ったりはなかったかも。
●へぇ〜。
後藤:漠然とした気持ちはあったけど、それをちゃんとアウトプットできてなくて、バンドのときもモヤモヤした気持ちはあったかも。
●イベンターさんや事務所とか、ライブ1つに関しても色々と役割分担があるから、今まで「チケットを売る」ということに関して直接的に考える機会があまりなかったということもあるんでしょうけど。
後藤:でも僕は基本的に役割分担ができないんですよ。
●全部自分でやりたいということ?
後藤:というか、しゃべんのがめんどくさい。最近、自分にとっていちばん嫌なことは“めんどくさいこと”というのに気づいたんです。
●お。
後藤:人にしゃべって伝えるのがめちゃくちゃ下手で、回数を重ねたらめんどくさいじゃないですか。どうでもよくなってくるし。もう、自分でやった方が早いことは自分でやるし、とにかくめんどくさいことは嫌やなって。だから役割分担ができへんくて。結局は自分が全部やるようになってしんどくなってるのかも知れへんけど、まあできてるウチはそれでいいかと思って。で、「あ、この人は」と思う人がいたら任せていけばええかなって。
●なるほど。そういう部分でいうと、AXのワンマンは「チケットを売る」という作業を自分自身でやったわけですよね。原点みたいな。それが大きかった?
後藤:うん。チケットを売るために軽トラに乗ってお散歩ゲリラライブをやったんですけど、手伝ってくれる人もいたし、お客さんもポスターみたいなものも作って来てくれたり、友達誘ってくれたり。温かかった。
●今回のアルバムは、語弊があるかもしれないけど“優しさ”とか“温かさ”みたいなもの…それがポップ性になっていると感じたんです。だから勝手な想像ですけど、AXとかの経験が繋がってるのかなと。
後藤:影響はゼロではないです。絶対に繋がっていると思います。それがちゃんと曲や音に現れているかどうか、自分の実感はないんですけど、でも絶対に繋がっていると思います。
●それと今作は色んな方に編曲を頼んでいるじゃないですか。これは何かきっかけがあったんですか?
後藤:レーベルの人が決めてくれたんです。僕は今までのCDは友達まわりで作ってきたんですけど、今回は新しい人とやってみようって。レーベルの人からそういう提案があって、今回出来る限り委ねてみようと思っていたんです。でもやったことないから、どうやってアレンジャーさんに頼んだらいいか最初はよくわからなくて。例えば「好き、殺したい、愛してる」とか、最初は“んー?”って思ってたんですよ。でもライブでやっていくうちにめちゃくちゃ大好きになってきて。“これがアレンジかー!”って。最初、馴染みが悪かったんですけど、やっていくうちにすごくよくなってきて。“これはいいぞ”と。めちゃ気に入ってます。
●曲とアレンジが相乗効果になっていると。
後藤:うん。僕が絶対に使わんコードとかも使っていて、僕が作ったら絶対にこんな風にならへんからすごく嬉しかった。
●この曲、すごくキラキラしたアレンジですよね。
後藤:うん、めっちゃキラキラしてる。でもギターで弾き語りで作ったときは、もう呪われてるような。
●確かにこの歌詞で1人で作ったら呪われているような曲になるかもしれない(笑)。リフレインが多いし。
後藤:最初はめっちゃ重かったんですよ。でもそれが明るくなってよかった。
●この曲の歌詞を聴いたとき、以前から後藤さんが持っている鋭くて激しい部分を感じたんですけど、一方でサウンドはすごくキラキラしていて。そのコントラストがすごくいいなと。今の“後藤まりこ”をうまく表現してて、この感じ好きなんですよね。
後藤:うん。いい。僕もすごく好き。
●その中で、「正しい夜の過ごし方」だけは編曲をバンドでやったんですよね。アップテンポなんですけど、エモーショナルなニュアンスがグッとくる曲。
後藤:なんか…思うところもちょっとあって。
●思うところがあった?
後藤:そうですね。歌詞で“虚像を創って偶像崇拝 リアルはどこだ バクが食べた”とかあります。けど、そういうところで思うところがあって、書きました。
●音楽を作って人前で歌う以上は、自分も偶像になる可能性もあるわけで。
後藤:そう。虚像っていうか。偶像を作っていかなあかんなーと思ってるんです。
●あ、思ってるんですか。
後藤:思ってますよ。絶対に作っていかなあかんなって。
●でも後藤さんって、自分が思っていないことを歌いたくないというか、リアリティや純粋性を自分の音楽に求めていたような印象があるんですけど。
後藤:求めてたんかな?
●え? 違うの?
後藤:いや、今わかんないんですよ。ほんまに音楽だけやりたいんやったら別に人前でやる必要はないし。でもAXをやって思ったのは、音楽をやる中に“人に聴いてもらう”ということがあって成り立つんやなって。
●人に喜んでもらうこと。
後藤:うん。それがやっぱり嬉しいし。
●今作の中では「I / O」に、そういう心情がストレートに現れていますよね。音楽への感謝の気持ちというか。
後藤:「I / O」はアルバムの中でいちばん新しい曲ですね。すごく好きな曲。
●歌い方もちょっと違うし。すごく歌が優しい。
後藤:僕、寝転びながら歌いました。
●ハハハ(笑)。後藤さんって1時間以上同じ姿勢ができないと言って、以前の取材でも途中から寝転んでましたよね。寝転ぶのがいちばん自然なんですか?
後藤:僕、家ではずっと寝転んでますよ。猫がおってもおらんくても寝転んでる。あまり立ってないし、座らない。
●そうなのか(笑)。
後藤:「I / O」は立って歌ったら力入るから、寝転ぼうと思って。それで寝転んで歌ったんです。
●それがこの歌のニュアンスにも出ているんですね。あと「関東ローム層」はすごくハイテンションで、ライブを意識して作った曲なのかなと想像したんですけど。
後藤:ラクーア(東京ドームの横にあるスパ施設)に行ったとき、ラクーアの曲を作ってたんですよ。
●は? ラクーア?
後藤:「ラクーア♪ ラクーア♪ ラクーアラクーア♪」って。
●お風呂入りながら?
後藤:はい。それを元に「関東ローム層」ができたんです。
●ハハハ(笑)。アルバムに入れようとかそういうつもりで作ったわけでもなく、ラクーアに行ったときのテンションを音楽で表現したと。
後藤:うん、そうそう。あと“関東ローム層”という単語は、僕、家でラップするときによく言ってたみたいなので、いいかなと。
●確かに「関東ローム層」はちょっとラップの雰囲気がありますね。というか、家でラップしてるんですか?
後藤:よくしてます。作業とかしてて、猫がジャー! っと走りまわったりするんですよ。4匹ともみんな若いから、もう運動会なんですよ。楽しそうにしてるから怒ることもできひんし、「もうどうにでもなれ!」って。
●そういうときにライムを綴るんですか(笑)。
後藤:綴る。
●ハハハハ(笑)。
後藤:“関東ローム層”はたぶん音が好きなんでしょう。アルバムタイトルの“こわれた箱にりなっくす”も。“I / O”とか。音が好きです。言葉の音とリズム。
●さっきも言いましたけど、今作は全体的にポップな印象なんですけど、そういう自覚はありますか?
後藤:うん。今までも自分ではポップだったつもりなんですけど、今聴いてみたら全然違うなって。バンドの頃に比べたら、ソロで出した『299792458』(2012年7月)も『m@u』(2013年12月)もポップになっているとは思うんですけど、でも今回はだいぶん世の中に寄り添ってるというか。結果的に、やろうと思ってそうしたわけじゃなかったけど、そういうアルバムになったからええなと。
●新しい環境になったことも影響しているんでしょうね。
後藤:そうやと思います。周りの人たちが違うかったら、僕もこういうの作れてへんと思うし。
●より自然になってきているんでしょうか?
後藤:うん。そうやと思います。そうやったらいいな。
●“後藤まりこ”という人と音楽との距離がより近くなっているというか。
後藤:なんかね、無理してないんです。無理するのめんどくさい。
●あ、出た。重要なキーワード“めんどくさい”。
後藤:だから最近は、メンタル的なしんどいはあまりないですね。
●いいことなんでしょうね。
後藤:気持ちが高ぶったりとかはありますけど、それを負の方にはなるべく向けんようにしてる。
●今作は“愛”を歌っている曲が多いと思うんですが、そういう部分で気持ちが高ぶったり?
後藤:うん。愛を感じたり、逆に感じなかったり。でも最近は色恋ないですよ。
●「好き、殺したい、愛してる」とか歌ってるのに?
後藤:うん。まったく。想像とかはするんですけどね、でも“やっぱりめんどくさいな”と思ってやめますね。
●あ、また“めんどくさい”。
後藤:うん、めんどくさい。最近は何をするんもめっちゃめんどくさいです。射程距離範囲内にいる人が居るとするじゃないですか。
●撃ったら当たる人ね。
後藤:そうそう。絶対当たるし、昔やったら撃ってたけど、今は“撃ったらめんどくさい”と思って絶対撃たへん。
●昔は撃ってたのか(笑)。
後藤:うん。昔は“めんどくさい”よりも“おもしろい”と思ってたら撃ってたけど、最近はもういい。めんどくさい。
●ハハハハ(笑)。
後藤:僕が基本的にめんどくさい人やから、めんどくさくなりたくないし。嫌われたくないんでしょうね。嫌われたくないから、めんどくさくなりたくない。
●それは前から少し感じていました。“嫌われたくない”という気持ちが強い人なんだろうなって。
後藤:昔からあったんだろうけど、嫌われたくないけど、でも全員に好かれることなんて無理やろうし、僕かて文句言うてるし。
●ハハハ(笑)。
後藤:無理なんはわかってるけど、でもなるべくみんなと仲良くなりたいなって。
●でも後藤さんは昔から正直じゃないですか。だから文句言っても悪くは受け取られないと思うんですけど。
後藤:正直なんかな〜。僕、めっちゃ嘘つきますよ。
●え? どういうところで?
後藤:こうやって普通にしゃべってる時にめっちゃ嘘つく。
●マジで!
後藤:うん、マジで。普通に嘘つく。
●このインタビュー大丈夫? 嘘ついてない?
後藤:このインタビューは大丈夫。たぶん自分の本音を言うて嫌われるのが嫌なんですよ。
●ああ〜、そういうことか。
後藤:ある程度どうでもいいことは嘘までいかへんけどぼやかすというか。ほんまにビビリなんです。
●なるほどね。最初の話であったように、だからAXにお客さんがたくさん来てくれたことに素直になれたし、感謝していると。そういう後藤さんのビビリの部分がほぐれてきたのかもしれないですね。
後藤:うん。ほんまに嬉しかった。事務所もレコード会社もなくなったけど、お客さんはおってくれたんです。すごくありがたかった。
interview:Takeshi.Yamanaka