2010年に結成されたガールズボーカルロックバンド、sylph emew(シルフ エミュー)。2012年には、UVERworldのドキュメンタリー映画に地元バンドとして出演。地元滋賀ではFMひこね(ラジオ)にてレギュラー番組のメインパーソナリティーを担当するなど注目度の高い彼らが、この度初の全国流通盤をリリースする。1stアルバム『&』は、聴き手の数だけ様々な感情が生まれる、無限の可能性を秘めた1枚。感動、喜び、楽しさ、感謝……あなたにとっての『&』は、何ですか?
●2010年4月に結成ということですが、同年10月にミニアルバムを作って、いきなり韓国を含む全国ツアーをされたのにはどういう経緯があったんですか?
良夢:「とりあえずツアーをしよう」というタイミングで、とある焼き鳥屋さんで「最近よく来るお客さんの中に、韓国の音楽プロデューサーがいる」という話を聞いて。毎日お店に通って、そのプロデューサーさんにお会いしたとき「ぜひ音源を聴いてください!」って渡したんですよ。そしたら熱意が伝わって「ライブする?」みたいな感じで、そのままポンポンと決まりました。
shinya:ライブハウスだけじゃなくて、ショッピングモールや野外ステージでもやらせてもらえたんです。
●さらに2012年には、UVERworldのドキュメンタリー映画に地元バンドとして出演したそうですね。何でも、涙を浮かべる良夢さんの姿がとても印象的だったとか。
良夢:リハーサルを見させてもらったんですけど、いつも普段自分たちがライブをやっている場所で、すごいアーティストが演奏していて…目の前にいるのに、すごく遠く存在に感じた悔しさで、涙が込み上げてきて。
●他のメンバーはどうでしたか?
K:映画に使われるということで、ちょっと緊張していましたね。
shinya:僕にとって、UVERworldは地元の大先輩である以前に大好きなアーティストで、いちファンでもあったんです。そういう人たちが、自分たちがいつもやっているライブハウスで演奏していて…しかも、ちょうど僕らがその場所でライブをした1週間後に収録があったから、いっそう感動しました。力をもらえましたね。
●そのときは同じ空間にいたわけですからね。今作を聴いたとき、全体的にすごくコンセプチュアルに作り込まれていると感じたんです。雰囲気が統一されているというか。
shinya:狙いではありますね。今回全国リリースをするにあたって、グッズにしろ写真にしろ、統一感を出していこうという気持ちがあって。
良夢:初期の頃は、目の周りを黒くして怖いイメージでやっていたこともあって、バンドのイメージも結構ブレがあったんです。そこから“統一感を持とう”という気持ちが全員の中に一斉に生まれたことによって、まっすぐ筋が通ったかなというイメージがあります。
shinya:今作はジャケットが宇宙の絵なんですけど、それは“ひとつじゃないもの”っていうことの表れなんですよ。曲によって風景が分かれていて、それも楽しんでもらえるところかなと思います。
良夢:タイトルの『&』っていう言葉が出てきたのは、制作が終わる直前くらいで。どういう風にやりたいかはわかっていたんですけど、それを言葉にすると何なのかっていうのが、ずっとしっくり来ていなくて。最終的に“答えはひとつじゃないんやな”っていうのを思ったときに、このタイトルがいいなと思って。
●そうだったんですね。
良夢:それに、“&”を横向きにすると“∞(無限大)”のマークみたいになるじゃないですか。足し算やかけ算は答えがあるけど、“&”って答えが出てこないというか、人によってそれぞれの答えが出てくる記号だと思うんです。そういった部分も考えてほしいな、ということで。
●多彩な楽曲がありますが、どうやって作っているんですか?
良夢:フルアルバムだったので、一貫したテーマを意識していました。元々ライブ会場限定で作ったCDの中から何曲か入っているんですけど、それを何にするかによって新曲を合わしていく、という意識で新曲を作っていって。曲はshinyaくんやKくんが持ってきたり、私が持っていったりするんですよ。
●shinyaくんとKくんはギターですよね。アレンジ面で、ギターの存在は大きいと思うんですけど。
shinya:シルフ(sylph emew)はギターが2人いるんですけど、プレイヤーとしてのキャラクターも全然違うんですよ。だからその個性をあえて両方とも入れることで、ツインギターの存在感を出せるように心がけています。曲によってどちらかに個性を寄せるわけではなくて、ソロが掛け合いになっていても「こっちの音はこの人が弾いているんだな」ってわかるくらい違う個性をぶつけてみたりして。
●ツインギターだと、ユニゾンで綺麗にまとめてしまうこともあるけど、そういう手法はあまり使わない?
K:セオリーに則っているというより、いい意味でわかりにくいアプローチをすることが多いです。それが良夢が作った曲に入ると、化学反応が起きるんですよね。ギター発信で作った曲だと、どっちかのギターのカラーが色濃く出やすくなると思うんです。でも鍵盤発信の曲だと、アプローチがいろいろあって楽しい。
良夢:彼は“何がそんなに楽しいねん!”って思うくらいずうっっっと音作りをやっているんですよ。すごく楽しそうにツマミをいじったりギターを持ち替えたりして…メンバーも引くぐらいの機材オタクなんです(笑)。
●音作りにすごくこだわりがあると。
K:個人的にはもうちょっとやりたいアプローチはもっとあるんですけど…限られた時間の中で、そのフレーズにいちばん映える音を探すことが最大限にできればいいな、というのはいつも思っています。
シゲ:制作期間中に出てきた曲もあるんですけど、そのときに2人で「あの曲でこういうことをしたから、この曲ではこうしようか」って話しながら、違うアプローチも取り入れたりしてましたね。
shinya:今回入れた曲以外にも30曲くらい用意したんですけど、全体のバランスを見つつ選んだので、本当はまだまだ入れたかった曲たちもあったんですよね。
K:役割がしっかりしているものが、要所に入ってひとつになるのがいいなという気持ちで。
●ライブを見ていると、良夢さんの姿がすごくパワフルで印象的だったんです。どんな想いでライブに臨んでいるんですか?
良夢:私はすごく緊張するタイプなので、ライブ前にはえずいたりするんですけど…いざ始まると、パンッとスイッチが入るというか。飛び込み台から飛び込むような感覚で、ドキドキ感とヒヤヒヤ感があるんですよね。それが気持ち良いというか。
●でも歌の内容的に“行くぞ!”っていう勢いだけのものじゃないですよね。
良夢:1曲1曲思い入れもあるので、その曲になったらパッと景色が変わるくらいの気持ちで入り込んじゃうんですよ。もちろん、その上でお客さんを置いていくことがないように。その世界感をしっかり守ってくれているメンバー、という感じです。
●アレンジもしっかりしているから、ひとつの個性として固まっている印象でした。メンバーとの繋がりが楽曲にも関係してくる部分もある?
K:そうですね。ドラムのTAKAHIROは今年に入ってから正式メンバーになったんですけど、曲も作れるタイプのドラマーなので、アレンジもどんどん作曲のときに放り込んできてくれるんです。僕ら4人は結成時からやっていますけど、そこでアレンジが凝り固まったり、マンネリ的な部分が出たときに、それを打破するようなものを入れてくれるんですよ。
shinya:それに、ずっと一緒にやっているがゆえに言えないことがあるじゃないですか。変に気を遣ってしまっていた部分を、TAKAHIROならズバズバ言ってくれたりするんですよね。彼が言ってくることによって「俺も実はそう思ってた」なんて、モヤモヤしていた部分がよくなることもあって。
TAKAHIRO:思ったことをシンプルに言っちゃうタイプなので。ギターのフレーズとかでも、本人たちは直接口には出さないんですけど、“これ、どう思う?”みたいな顔をするときがあるんですよ。だから「ちょっとダサいんちゃう?」とか言っちゃう。
一同:アハハハハ!
K:でもいいと思ったら素直に「めっちゃええやん!」って言ってくれるし。
●じゃあ、TAKAHIROくんのジャッジで決まっている部分もある?
shinya:それは結構あるかもしれない。
●すごくいい関係性ですね。
shinya:一緒にいる時間も長いですからね。基本的に、シルフは5人で動くことが多いんですよ。ライブの日でもリハ後に全員でご飯を食べに行ったりするし。
●なるほど。アルバムは5人の総意で作っているけど、『&』というタイトルに決まったのが最後だったというのが不思議な感じがしますね。
shinya:完全に録り終わってから「曲順はどうしようか」って話しているときにやっと出て来たワードで。曲もそうですし、ツアーを回ったときに込み上げてくる感情や景色、いろんなことが“ひとつじゃない”と思ったんです。僕らは深く悩んじゃう方なんですけど、このタイトルが出て来たときはみんな“あ、それやな”って思いました。
●向かっている先がみんな一緒だったと。ひとりひとりに訊きたいんですが、自分にとっての『&』ってなんだと思いますか?
良夢:無限ですね。1個のものと1個のものがくっついて、凄まじいエネルギーを持った何かになると思うんです。バンドとひとりのお客さんとか、CD1枚とそれを手に取ったお客さんとか、あるいは寂しい気持ちと寂しくない気持ちとか…何千億通りの可能性があると思うんですけど、それぞれの景色があって、それぞれの感じ方があって…想像すると無限大の可能性があるんですよね。
シゲ:今回初めて全国リリースさせていただくということで、ここに来るまでにいろんな人に支えられて、“自分たちだけの力じゃない”っていうことを実感して。力を合わせてここまで来たということと、ここからまたスタートという想いが僕の中では大きくて。
●周りの人たちとの『&』というか。
K:例えばちょっと落ち込んだときに元気になるだとか、テンションを上げたいからシルフのこの曲を聴くだとか…何かがあったときに僕らの音楽を聴いてもらったら、その先にある感情が僕にとっての『&』かなと思います。
TAKAHIRO:僕も“ひとつじゃない”っていうところが大きいですね。“&”は何とでも混ざり合うし、何にでもなると思うので。
shinya:僕もみんなが言ったこととほとんど同じなんですけど、身近な人たちへの感謝の気持ちを込めた『&』でもありますね。アルバムの最後にM-11「CHEST(album ver.)」という曲があるんですけど、その中に“We love this place chest and you”という歌詞があるんです。チェストっていうのは“箱”っていう意味で、それを僕らはライブハウスに見立てていて。なおかつチェストには胸中っていう意味もあるから、“ライブハウスという場所と、そこに来てくれる人たちを愛しています”っていう歌詞になっているんです。その曲が最後に来たことで、このアルバムが完成したように思います。
●そう考えると、“&”ってすごい言葉ですね。
良夢:そうですね。自分で付けておいて言うのもアレですけど、我ながら荷が重いタイトルを付けたなという感じです(笑)。奥が深いタイトルなので、まだ作った私自身もうっすらとしかわかっていない状態というか。今からリリースして、ツアーを重ねることでその意味を知っていくんだろうなと思っています。
shinya:下手をすると、バンドを辞めるまでずっと続いているテーマかもしれないですね。
●僕もこういうタイトルを掲げられるバンドに出会えて、本当によかったと思います。シルフが今後行こうとしている道筋というか、目標などはありますか?
shinya:メンバー間でずっと話していることなんですけど、僕たちの目標は昔から変わらず“メジャーデビュー”なんです。
シゲ:もっと大きいバンドになって、支えてくれる人たちと一緒に喜びたいという気持ちがあって。だからもっと大きい会場でもライブをやりたいですね。
良夢:ドームや武道館が絵空事にならないよう、着実に向かって行けるようにという気持ちを込めて作ったので。このリリースが、やっとたどり着いたスタートラインなんです。
shinya:バンド名にもある“sylph”っていうのは、風の精霊のことなんですよ。だから、これから新しい風を起こしていくようなバンドになりたいと思っています。
Interview:PJ
Edit:森下恭子