LIQUIDROOMのフロアに入ると、後方まで埋め尽くしたオーディエンスの群れがざわついている。これから始まるキノコホテルの実演会を前にして、高まる胸の鼓動を抑えきれないのだ。ステージ上には幕が張られており、そこに映し出された“恋の蟻地獄”の大きな文字が挑発的に心のざわつきを煽っている…というのは気のせいか。何はともあれ、早く彼女たちの姿を見たい。そんな欲求が弾けんばかりになった頃合いを見計らったのように、幕越しにメンバーのシルエットが1人1人映し出されていくと大きな歓声と嬌声がそこかしこから上がった。さあ、妖しく魅惑的な夜の始まりだ。
オープニングチューンは今年5月に発売した最新作『マリアンヌの呪縛』から、「肉体と天使」が飾る。初っ端から縦横無尽にドライブするイザベル=ケメ鴨川(電気ギター)のギターに、オーディエンスのテンションを底から確実に押し上げていくジュリエッタ霧島(電気ベース)とファビエンヌ猪苗代(ドラムス)のグルーヴィーなリズムセクション。その上に支配人・マリアンヌ東雲(歌と電気オルガン)の艶かしくも芯の強い歌声と扇情的なオルガンの音色が重なると、早くも観衆たちは強力な呪縛に囚われてしまったかのよう。ステージから放たれる音の波に、日常の煩い事を全て投げ出して身体を全力で揺らすしかない。
サイケデリックな映像をバックにどこまでもトリップさせてしまうかのごとき「回転ベッドの向こうがわ」で観る者たちを恍惚状態に陥らせたかと思えば、激情にかられて速射砲のように言葉を吐き散らすパンキッシュな「すべて売り物」のカバーではまさに圧倒。続くキノコホテル流の“ダンスナンバー”という「Fの巡回」では、観客たちに奇妙なキノコポーズ的踊りを強要して一体感を無理やり生み出していく。“おっきくなーれー”という謎の掛け声に刺激されたかどうかは知らないが、淡々とした中にも熱さを秘めたビートの反復に男女問わず心がエレクトせずにはいられない。着実に絶頂へと向けて、誘われていった。
音源とは違う怪しげなアレンジのカバー曲「悪魔巣取金愚」で早くイキたい気持ちをさらに高めておきながら、「夜の素粒子」では一転して全てを浄化するようなホーリーな雰囲気で落ち着かせようとする。だが「セクサロイドM」からはまたテンポアップして、会場のボルテージをブチ上げていくのだ。「愛と教育」では“最初からやり直し”と言い放ち、本編ラストの「ゴーゴー・キノコホテル」を始める前には”あんた、それでもキンタマついてんの?”とドSに顧客たちをなじり、最後まで徹底的に振りまわしてくれた。“でもこういうのが好きなんでしょ?”と言わんばかりに。
まだまだイキ足りないオーディエンスの前に、ラテックスラバー製のキャット・スーツにぴっちり身を包んだ支配人を筆頭に、黒を基調とした衣装の従業員たちが再び登場して湧かせる。「ボレロ昇天」からの新旧織り交ぜてのメドレーでも昇天しきれない顧客たちのために、アンコールは二回戦に突入。「真っ赤なゼリー」でこの夜はお開きとなったが、火照りきった身体に宿った熱情はいつまでも冷めることがないだろう。そして再び次の実演会へと足を運んでしまう…それが逃れることのできないキノコホテルの呪縛なのだ。
TEXT:IMAI