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nano.RIPE

透明なガラスの向こうに見える景色を確かな未来へ変えていくために

nano_main今年1月に3rdアルバム『涙の落ちる速度』を発表して以来、約半年ぶりにnano.RIPEがニューシングル『透明な世界』をリリースした。表題曲はTVアニメ『グラスリップ』エンディング主題歌として、既に7月から放映中なので耳にした人も多いだろう。アニメの世界観とも絶妙にリンクした爽やかに駆け抜けるような楽曲は、まさしく彼らの王道を満喫させてくれる。9月からはワンマン2デイズツアー、来年1月には過去最大規模を更新するZepp DiverCity公演も予定するなど、ますます勢いを増しながらメジャーデビュー5年目へと4人は突入していく。

 

ガラスのカタチも息の吹き込み方によって何とでも変えられるし、そういうところが“人が生きる”ということにも重なるなと思って

●今回の表題曲M-1「透明な世界」はTVアニメ『グラスリップ』エンディング主題歌になっていますが、最初からそれを想定して作った曲なんですか?

きみコ:アニメの大まかなストーリーは聞いてから作りました。でも本当に大体の設定と物語の背景を聞いたくらいで、その時点ではまだ結末がどうなるのかも知らなかったんです。ただ、P.A.WORKS(アニメーション制作会社)とは『花咲くいろは』(TVアニメ)の頃からたくさんの仕事を一緒にしてきたのもあって、「nano.RIPEの好きなように書いてくれたらきっとハマるからご自由にどうぞ」と言ってくれて。だから『グラスリップ』の世界観を踏まえつつも、自由に書かせてもらいましたね。

●「透明な世界」という曲名は、アニメの主人公の名前(深水透子)にかけているのかなと思ったんですが。

きみコ:それもありますね。あとは主人公の暮らしている場所がガラス工房ということで、キーワードとして“ガラス”という言葉が出てきたりもして。タイトルを考えていた時もどうしても“ガラス”という言葉を使いたくなったんですけど、それだと『グラスリップ』とも重なっちゃうので避けようかなと。最終的にガラスのイメージから、“透明な”という言葉を引っ張ってきた感じです。あとは“キラッ”という歌詞も、そのあたりから引っ張られて出てきた言葉ですね。

●“キラッ”というフレーズはすごく印象的でした。

きみコ:これはちょっと思い切りましたね。あんまりバンドの歌詞では使われない言葉だと思うんですけど、流れ的にここは“キラッ”が良いなと思って。これまでなら“これはさすがにないだろう”と思っていたような部分も、今はどんどん壊せていっているんです。そういう意味でも、自由に書けるようになってきたかなと思います。

●歌い出しの“カタチのない世界に息を吹き込む またあたしが生まれる”というのは、息を吹き込んで作ったガラス細工を自分の分身と捉えている感じ?

きみコ:まさにそうですね。そのへんは本当に、アニメから引っ張られて出てきた歌詞で。ちょうど先日、第1話の放送を見た時にもそのシーンがすごくフィーチャーして描かれていたんですよ。やっぱり(この歌詞を)入れて良かったなと思いました。

●確かにガラス工房といえば、息を吹き込んでいるシーンが最も象徴的ですよね。

きみコ:ガラスのカタチも息の吹き込み方によって何とでも変えられるし、そういうところが“人が生きる”ということにも重なるなと思って。

●『グラスリップ』にはガラスを通して未来が見えるというファンタジー的な要素もありますが、それも楽曲に反映されていたりする?

きみコ:「透明な世界」の最初のサビに“透明なガラスの向こう ぼんやりと透かして見えた景色はまだ あたしも知らないきみも知らない世界かな”という部分があって。そこは主人公の透子がガラスの向こうにいつもぼんやりとした景色が見えていたんだけど、それが何なのかはまだわからないという場面に重ねているんですよね。(アニメでは)そこに転校生の(沖倉)駆くんという男の子が来て、それは未来なんだっていうことに気が付くところから物語が始まっていくんです。

●アニメのストーリーにも歌詞がリンクしている。

きみコ:その話だけ聴くとすごく現実離れしたファンタジーに思えるんですけど、実は(主人公が)そこに見た景色はいくつもあって。“その中からどれを選ぶかが未来だ”っていうメッセージを込めているのが、ストーリーが進むにつれてだんだんハッキリしていくんです。実際に未来って見えるものじゃなくても、想像はするじゃないですか。たとえば“何年後にはこうなっていたいな”とか考えて、そこに向かって自分がどんな道を選ぶかっていうのとほとんど同じだなと思ったんですよね。

●未来を頭の中に描いて、そこまでの道を選んでいくのは現実世界と変わらない。

きみコ:だから設定だけ見るとファンタジーなんですけど、ストーリーが進んでいくと実はメッセージ性の強い作品だというのがわかると思うんです。ただのファンタジーじゃないというところがすごく好きだったので、そういう部分は歌詞にも入れましたね。

●曲調はどんな感じにしようと思っていたんですか?

きみコ:今回に関しては、nano.RIPEの王道の曲を作ろうと思っていて。P.A.WORKSとの仕事という面で考えても、今回求められているのは「ハナノイロ」(『花咲くいろは』オープニング主題歌)みたいな世界観に近くて“nano.RIPEとはこういうものだ”という曲だろうなと。

●nano.RIPEらしい曲を意識して作った。

きみコ:P.A.WORKS自体も、“P.A.WORKSのアニメはこういうものだ”というのがしっかりと確立されている会社だから。そこにnano.RIPEを起用してくれたということは、求められているのは変化球ではなくド真ん中のストレートだろうと思って。すごく王道の曲を書いたので、アニメの放送後にTwitterやネット上の反応を見ても「nano.RIPEらしい」という評判がすごく多かったんですよ。「(何か他の曲に)似ている」とか「今までにありそうな曲だ」と言われたとしても、今回はむしろ狙い通りなので良かったです。爽やかな青春群像劇によく似合う曲になりましたね。

●この曲は(G.ササキ)ジュンくんの作曲ですが、きみコさんも候補曲は出したんですか?

きみコ:制作前の打合せにはジュンと2人で参加して、「よし、(どちらの曲が採用されるか)勝負だ!」という感じになっていたんですよ。でもその直後にあたしは声帯炎になって、声を一切出せなくなってしまって…。そこまで重症ではなかったんですけど「二度とライブをキャンセルしたくない」という気持ちがあったので、かなりシビアに対応して1週間くらい一言も発しない感じだったんです。それがちょうど今作の制作期間と重なっていたのと、ジュンが最初に作ってきた曲がすごく良くて「もう敵わないからいいや」と思えたので、これに決めました。

●それくらいジュンくんが持ってきた段階でクオリティが高かったと。

きみコ:あとはカップリングに(自分が作曲した)M-3「フォルトファインダー」が入ったというのもあって。この曲はたまたま歌詞の世界観で、『グラスリップ』とリンクする部分があったんですよ。“ぼくらだけのレンズを”とか“そこから覗いた景色は”という歌詞が、『グラスリップ』のキャッチコピー「ガラスの向こうに、明日が見える。」にすごくリンクするなと思ったんです。

●「フォルトファインダー」も偶然、アニメの世界観とリンクしていたんですね。

きみコ:実はこの曲も「透明な世界」と一緒に候補曲として提出していたくらいなんですよ。やっぱり書き下ろしのほうが世界観により合っているということで「透明な世界」に決まったんですけど、せっかく世界観も近いからということでカップリングに入れようとなって。再録候補がいっぱいある中で、今回は「フォルトファインダー」になりました。

●頭の中では、他にも再録候補がたくさんあると。

きみコ:あたしの中では“このアルバムのこの曲を再録したい”というものがたくさんありますね。昔の音源をさかのぼって聴いてもらうよりも、今のnano.RIPEで録ったものを聴いてもらいたいなと思っていて。“今だったらこんな曲は書けないな。昔のあたしにありがとう”みたいな曲が結構あるんです。

●昔の自分だからこそ作れた曲もある。

きみコ:「フォルトファインダー」はそういうものなんですよね。歌詞自体もすごく短いし、“そこには悲しいものなんてない”という1行だけがサビっていうのも他になくて。こんなに思い切った歌詞は、今では書けないかなって思います。そういう意味でも、再録はどんどんやっていきたいですね。

●もう1曲のカップリングM-2「絶対値」は、アニメとは直接関係ない?

きみコ:これは全く関係ないです。いつもシングルを作る時は全体のバランスを考えて他がアップテンポな曲ばかりだと、しっとりしたバラードを1曲入れたりするんですよ。今回は「透明な世界」が爽やかな曲で、「フォルトファインダー」がライブで盛り上がりそうな曲だったので、もう1曲はミディアム〜スローな曲を入れるのが良いかなという話はしていたんです。

●当初は全体のバランスを取ろうとしていた。

きみコ:レコーディングの2〜3日前までバラードを入れようと思っていたんですけど、ちょうど今後に向けて「絶対値」のプリプロをしていたら「この曲を入れちゃえば?」という話が出て。9月からのツアーでもこの曲が入ることによってセットリストが良い感じに組めるんじゃないかということで、思い切ってこの曲に決めました。3曲ともアッパーな曲というシングルは、今回が初めてだと思います。

●これは最近作った曲ということ?

きみコ:かなり新しい曲ですね。「透明な世界」と同じくらいかな。

●「絶対値」は空を“そら”と“から”で、降りを“ふり”と“おり”で使い分けるという言葉遊びが入っているんですよね?

きみコ:この歌詞を書いている中で、そういう部分がややこしいけど面白いなと思って。だから後半は特にそれをふんだんに盛り込んでいます(笑)。歌録りの時はフリガナを振らないと、自分でもどっちかわからなくなっちゃうくらいでしたね。でもあえて歌詞カードにはフリガナを入れずに、どっちの読み方か想像してもらうのも面白いかなと。聴いた時に答え合わせをして、楽しんでもらえたらなと思います。

●先ほどもおっしゃったように、この曲もツアーでは盛り上がりそうです。

きみコ:本当に9月からのワンマンツアーのために入れたような曲ですね。今回は新しい挑戦として全箇所で2デイズを実施したり、来年の1/3にはZepp DiverCity公演も決まっているんですよ。2015年の9月でメジャーデビュー5周年になるので、来年は5周年イヤーということで1年間かけてライブをどんどんやっていこうというのがあって。今年の下半期からは、ライブ展開が今まで以上に大きなものになっていく感じです。

●ライブ予定が盛りだくさんなので、どれも楽しみですね。

きみコ:ツアーは全箇所2デイズということで、「2日とも来て良かったな」と思えるものにしたいと思っていて。そのために色々と作戦を練っているところなので、ぜひ2日間の通し券を買って頂きたいですね。あと、1/3のZepp DiverCityはnano.RIPE史上一番大きなライブハウスになるので、そこでは9月からのツアーで得たものを存分に吐き出したいなと。年内から年明けまで、全部を楽しみにしていてもらえたらなと思います。

Interview:IMAI

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