2013年はINORANにとって、めまぐるしい1年だった。FAKE?の10周年記念ライブ(2月)への参加から、自らのソロデビュー15周年イヤーを締め括るZepp DiverCity公演(3月)と9月の全国ツアー、7月にはMuddy Apesとしての2ndアルバム発売。さらにはLUNA SEAとして13年5ヶ月ぶりのオリジナルアルバム発売に至るまで、話題に事欠かない活動の充実ぶりだと言えるだろう。そんな1年を経て2014年3月、待望の新作ミニアルバム『Somewhere』をリリースした。余人には及びもつかない経験を数多くしながらも、尽きることなき音楽への情熱と創作意欲。その新たな果実となった今作はタイトル通り、“どこか”を目指して終わりなき旅を続ける音楽人“INORAN”の生き様を映し出しているかのようだ。
●前作のアルバム『Dive youth, Sonik dive』を2012年6月にリリースして以来の新作発表となりますが。
INORAN:『Dive youth, Sonik dive』を作ってからツアーで日本各地をまわって、その後にヨーロッパやアジアもまわったんです。そこでロックをライブでみんなと共有するっていうことに、すごく心地よい手応えがあって。でも最後の最後に完成させるのではなくて、ツアーファイナルのライブで一度ブッ壊そうと思ったんですよ。結果的に良いライブになったし、そこからまた構築していこうということで作ってきた曲を集めたミニアルバムですね。
●“ブッ壊す”というのはどういう意味で…?
INORAN:ツアーをまわったことでの手応えというか、何か残るものが欲しかったんです。次のツアーまでの間は空くかもしれないけど、つながっていくものだから(ライブに)気を留めておくためのキーワードとしてブッ壊したかったというか。“Destroy”という意味ではないですね。英詞になってからアルバムを2枚作ってきて、それと共にツアーメンバーとももっとグルーヴしたいなっていうところでそういう表現になったんですよ。
●文字どおりの意味で、破壊するわけではない。
INORAN:気持ちの問題で、何かを超えるというか。自分の体力や精神力的な部分で行けるところまで声を出したり、プレイしたりするっていうことですね。“やっぱり演奏者としての情熱がライブの空間で出せないとな”って思うから。
●ツアーをまわっていく中で、そういう想いが芽生えていったんでしょうか?
INORAN:集団と言っても個々の集まりなわけで、それぞれにバイオリズムがあるわけですよ。ツアーではスタッフも含めたみんなで、そこを補い合いながら進んでいく。だから気心を知れば知るほどに人間的な部分を隠さなくなっていくし、共同体として生き物のようになってくるんです。それを(ツアーファイナルで)ただ終わりにするんじゃなくて、さらに上へと行けた時に絆がもっと強くなるんだろうなって。
●人間同士の絆や“熱”のようなものを求めていたと。
INORAN:変な話、『Somewhere』も勘で作ったみたいなところがあって。様々な想いをミックスした曲が連なっているようなものにしたかったから。だから、どの曲もライブで新たな熱を加えてくれるものになったと思うんですよ。
●収録曲はどれもツアー終了後に作ったんですか?
INORAN:M-5「Sakura」以外はそうですね。この曲のメロディ自体は3年前にできていて、それは気持ちから作ったというか。(当時は東日本大)震災直後というのもあって、そういう想いもあったのかもしれないですね。
●震災がキッカケになった?
INORAN:それだけではないんですけど、僕の中ではあの時からミュージシャンとしての考え方が変わったから。そういう部分もあったのかもしれない。
●3年前に浮かんでいたメロディをこのタイミングで形にしようと思った理由とは?
INORAN:タイミングが合ったというか。たまたま去年の年末に祖母が亡くなったり、知り合いが亡くなったりといったことがまとめて一遍に来た時があったんですよ。シンプルに言うと、そういう(亡くなった)人の隣にいる人を元気にするようなものを形にしたいなというのがあって。それは別れ(の曲)ではなく、共に生きていくようなもので。そういうものを曲にしたいなという想いと、春にリリースすることが決まっていたから花が咲く季節の歌も作りたかったというところが全部重なったんですよね。
●そういった想いも楽曲に込められている。
INORAN:想いにすごくシンプルなものにしたかったんです。そういう意味で肩に力が入っていないし、ナチュラルなものであって。そして、どこか足りないもの…。わかりやすく言えば、未完成なものかな。
●制作にもリラックスして臨まれたんでしょうか?
INORAN:そうですね。デモ段階では、もっとラフでしたから。『Teardrop』(2011年発売の前々作)や『Dive youth, Sonik dive』よりは(音を)詰め込んじゃったところはあるけど、その2作よりも縛りがないというか。たとえば『Teardrop』の時は、“ギターはダブルにしない”とか自分に規制をかけたりもしたんですよ。
●逆に全く縛りなく作ることで、方向性がまとまりにくかったりはしない?
INORAN:バラバラかもしれないけど、ライブをやったりする内に馴染むと思うんですよ。結局、自然とまとまってくるんです。辻褄を合わせようとして生きているんじゃなくて、生きているなら自然と辻褄が合うわけで。“自分に正直であれば、自分らしくあれば”という感じの作り方ですね。
●“こういう曲にしよう”と意識して作ることもあまりなかったんでしょうか?
INORAN:あまりないですね。グルーヴしていれば良いかなっていうだけです。
●グルーヴを重視するということは、曲作りもバンドのメンバーと一緒にやっている?
INORAN:ある程度までのデモテープを自分で作ってきて、そこからメンバーと一緒にアレンジしていく感じですね。デモテープというのは設計図みたいなものだと思うんですけど、そこから離れていっても構わないんですよ。僕は、そこにエゴはないんです。そのほうが面白いし、“人と一緒にやっているんだから(元とは)違うものができて当たり前”っていう考え方なので。そうじゃないと、フレーズも生きてこないというか。だから、どの活動でも“バンド”をやっている気分でいて。
●ソロ以外にもMuddy ApesやLUNA SEAで活動されていますが、それぞれから刺激されることもあるのでは?
INORAN:それは実感していますね。今はおおまかに3バンドやっていますけど、3つが対になっているというか。“こっちで得たものをあっちに落として、あっちで得たものをそっちに落として”というのはすごくあります。
●中でもソロが一番、自分を出せる場所という感じでしょうか?
INORAN:僕はどれでも自分を出していますから(笑)。そこはあまり変わらないですね。でもやっぱり一緒にやる人が違えば自ずと別のものになるわけだし、ソロでもメンバーが違えばまた違うでしょうからね。僕はLUNA SEAの時に作る曲もソロの時に作る曲もあまり変わらないんですよ。ただ、曲のキーが違ったりするだけで。
●今作の曲作りは他の活動と並行しながら、やっていたんですか?
INORAN:いや、去年の12月くらいに作ったものですね。僕は(作品に向けて)一気に作っちゃうタイプなんですよ。やっぱりフレッシュなほうが好きっていうか。
●最近のマインドに近い曲を出したい。
INORAN:そうですね。自分の中でのブームや旬みたいなものに、正直に生きたいから。だから、(作る曲が)多ジャンルに渡ったりするんです。たとえば明日になったらロック(という気分)じゃなくなっているかもしれないけど、それはそれで良いと思うんですよ。
●今回のブームは何だったんですか?
INORAN:やっぱり、ロックとかロックンロールですね。今はそういうライブが楽しいから。
●実際、時期によって聴く音楽のジャンルも違う?
INORAN:僕は雑食なので、色んな音楽を聴きますね。それこそYoutubeのリンクを飛びまわって、“こんなものもあるんだ”みたいな感じで聴いたりもして。良いものは良いと思うし、やっぱり音楽で高揚したいから。
●自分が作る曲に関しても、そういうものを求めているわけですよね。
INORAN:自分が作るものもそうだし、そういうものが好きっていう。隣にいてくれて、違う感情を生み出してくれるのが音楽だと僕は思っていて。寄り添ってくれて、奮い立たせてくれたり、泣かせてくれたりもする。やっぱり今でも音楽が大好きでやり続けているわけだから、そういうものであって欲しいですね。
●そういう音楽をいかに作るかということが大事。
INORAN:基本的に、エゴはいらないと僕は思っていて。“自分らしいこと”と自分の個性は必ずしもイコールではないと思うんですよ。そこを間違えないというか、音楽に正直でありたいというだけですね。家で1人でやっているわけではないので、協力してくれる人みんなが少しでも幸せになって欲しいし、自分もそうなりたいからやっている。とにかく音楽に、真摯にやっていきたいなと。そっちに進むためには手段を問わないというか。
●それが今回は“一度ブッ壊す”ということだった。
INORAN:音楽の旅もまだ道半ばだから。色んな景色を見て色んなものを吸収して、色んな音楽を通して色んなことをしたいなと思っています。LUNA SEAが25周年で、自分のソロも15周年を超えたところで、一周まわったような感覚があるんですよ。そこでまた吸収できるところは吸収して、充電していきたいなと。良い音楽を聴いて、良い音楽を作っていきたいですね。
●良い音楽と数多く出会えているからこそ、そう思えるのでは?
INORAN:音楽人生が前に進めば進むほど、多いですね。昔のほうが“こうでなきゃ”みたいな感じで、凝り固まっていた気がする。でも今は良いものは良いって思えるから。たぶん僕は音楽をやっている人の放つ熱とか想いやパワー、そういうものも含めて音楽が好きなんだと思います。それは物や服についても同じだし、捉え方が変わってきているというか。
●常に変化しているし、具体的なゴールを定めていないというところで、今回は『Somewhere』(どこか)というタイトルなのかなと。
INORAN:ここ数年はLUNA SEAもソロもやっていて、その中でどういう出会いがあって、どこに行くのかっていうのが全然読めないんですよね。予想していたのとは、いつの間にか違うところにいたりとか。これからも旅は続くんだけど、“どこかに進んでいくんだろうな”っていうくらいで良いんじゃないかなと。そんな想いも込めて、『Somewhere』というタイトルにしました。ツアーや音源で聴いてもらって、その想いを受け入れてもらえたら半年後や1年後に“あ、『Somewhere』ってこういうことだったんだね”というのがわかるんじゃないかな。
Interview:IMAI
Assistant:馬渡司