日本ではリリースさえしていない無名のバンドが今、イギリスのインディー・ロックシーンで最も熱い新人バンドの1つとなっている。そのバンドの名は、taffy。2000年代前半に前身バンドを結成して以降、マイペースな活動をしてきたが日本で陽の目を浴びることはこれまで一度もなかった。そんな彼らが2012年にイギリスの名門インディー・レーベルClub AC30よりリリースを果たすと、当地のメディアから数々の高評価を受けることとなる。日本人アーティストにはレビューを受けることすら困難な『NME』誌では「否定する人の蜘蛛の巣を吹き飛ばす」と評され、イギリス3大新聞の1つ『ガーディアン』紙では「これをアデルとかあの辺に聴かせてやってくれ」とまで言われるなど絶賛の嵐…。日本の音楽シーンでは全く認知されてこなかったバンドが、ブリットポップ復興の旗手とすら讃えられているのだ。2度にわたるイギリスでのヘッドラインツアーも果たし、2013年6月にUKとEUでリリースされた彼らの2ndアルバム『Lixiviate』が半年遅れでようやく日本でも発売。奇跡的なサクセスストーリーを描き出そうとしている彼らの実態に、初のインタビューで迫った(Ba.koichinは諸事情により欠席)。
●taffyは現在、イギリスを中心にヨーロッパで高評価を得ているわけですが、活動を始めた当初から海外で活動したいという意識があったんですか?
asano:元々、活動自体が消極的で…。
●消極的?
iris:「月に1本ライブがやれたらいいよね〜」くらいでした。koichin(Ba.)は「3ヶ月に1回くらいでいいよ」と言っていたんですけど(笑)。
●ライブ活動もそれほど熱心にしていなかったと。
iris:音楽をやっていること自体が楽しいんです。当時はスタジオの時間が一番楽しくて、そこでやっていることを披露してみようかという感じでライブもやっていて。イベントで他の出演バンドを観ると「自分たちもああいうことをしたらいいのかな?」とか思うんですけど、そこまで自分の熱がついていかないというか。
●オーディエンスを意識してのパフォーマンスをしているわけではなかった?
iris:私たちは楽しくやっているだけだから、「観たい人には観てもらえればいい」というスタンスでしたね。向こうから「今日のライブに行きたい!」とでも言われない限り、誰かを誘ったりもしなかったんです。もし気を遣って来てもらったりしたら、申し訳ない気持ちが先に立っちゃうから。「だったら、もう誘わなくてもいいか」っていう感じでどんどん消極的になっていきました(笑)。
●でも自分たちの音楽を聴いて欲しいという気持ちはあるんですよね?
iris:そこは今、やっと芽生えてきました(笑)。
ken:今は存分にあります(笑)。でも英詞なので日本のヒットチャートに入ったりするのは難しいだろうし、実際そういうところを意識して作ってはいないですね。
●売れることを目指して、作ってはいない。
iris:そこの根底は変わらないんですけど、海外でメディアへの露出が徐々に増えてきてからは「たくさんじゃないけど、自分たちの音楽を好きな人がちょっとはいるんだ」ということが認識はできたので、その人たちに届けたいなという意識は出てきました。それまでは友だちに「聴かせて!」とか言われても、「う〜ん。でもあんまり好きじゃないと思うよ?」という感じの対応が身に付いちゃっていて(笑)。
●周りには理解されないだろうと思っていた。
iris:周りの人たちを見ていて、「みんなはこういうのが好きなんだろうな」と思ったりはするんですよ。そのこと自体は理解できるんだけど、それを自分がしたいかと言ったらそうじゃない。やろうと思っても到底できないし、自分のできることがたまたまこういう感じだったというか。「みんなは好きじゃないと思うよ?」というスタンスはずっとありましたね。
●そんな人たちが海外でリリースをするということになった経緯とは?
asano:元々は、特にレコーディングしたいとも思っていなくて。2011年頃に今のレーベルオーナーと出会った時に、「これは海外で絶対売れる」と言って頂いたんですよ。そこでレコーディングをすることになったんですけど、その時点ではただ作品を作るというだけでリリースも何も決まっていなかったんです。
iris:koichinなんて「録って、どうするの?」とか言っていましたからね(笑)。私自身もたまに「曲を作ってみたんだけど…」みたいな感じで、友だちに聴かせるだけで終わっていて。本当に「これを録って、どうするの?」という感じではありました。
●とはいえ、2012年にイギリスで初のリリースを果たすわけですが。
asano:流れとしては、まずイギリスでリリースしてくれるレーベルを探していて。そういう中で現レーベルのClub AC30から連絡が来て、最初は「今度、クリスマスパーティをやるから出る?」という軽い感じで誘われたんですよ。その時はまだリリースも決まっていなかったんですけど、とりあえず僕らも軽い気持ちで行ってライブしてみたらすごく盛り上がったんです。
●それがキッカケになった?
asano:最初はお客さんも「誰だ、こいつら?」っていう感じで後ろのほうで見ていたんですけど、中盤あたりからお客さんがだんだん前に集まってきて、すごく盛り上がったんですよ。ライブが終わってからも、みんながkenに抱きついてきて(笑)。それを見て、レーベルの人が「よし、出そう!」ということになったんです。
iris:そこから1stフルアルバム『Caramel Sunset』を出して、まずヨーロッパに知れ渡って。
●『NME』や『ガーディアン』といった有名なメディアでも絶賛されたわけですよね。
asano:レビューが載ることは事前に聞いていても、何を書かれるかは世に出るまでわからないんですよ。でも読んでみると、すごく高評価をしてくれていて。
iris:「良かったね〜」と言い合いましたね。毎回、テストみたいな感じです(笑)。
●発行されるまで、どんな評価かわからない。
asano:そこに向こうのレーベルの人も一緒に喜んだり驚いたりしてくれて、みんなでハラハラしているんですよね。向こうのメディアは“良いものは良い、良くないものは良くない”というのがハッキリしているんですよ。ボロクソに書かれる時は、本当にボロクソですからね。
iris:自分たちのレビューの隣に載っている人たちって、もう錚々たる方々なんですよ。その人たちですら叩かれているのに、「ウチらはこれでいいの?」って思っちゃいますね。他人事みたいな感じで、「これ、ウチらのことらしいよ」とか言っています(笑)。
●自分たちでも不思議なくらい高評価を受けている。
asano:逆にイギリスで対バンから、「何でこんなにメディアから評判が良いの?」と訊かれたりしますからね。
iris:UKツアーで対バンする地元のバンドからすると、「僕たちは『NME』に載ったバンドと対バンするんだ」ということになるんですよ。彼らはいつも『NME』を読んでいて、いつか自分たちも出たいと思っているわけで。だから「どうやって載ったの!?」って訊かれるんですけど、私たちも「わかんないんだよね」っていう(笑)。そういうところで「すごいことなんだな」と実感はしています。
●イギリスでは90年代ブリットポップやシューゲイザーの流れを独自に昇華したバンドとして評価されていますが、実際にルーツはそのあたりなんですか?
iris:そのあたりの名前をよく挙げられるんですけど、私は本当に詳しくなくて…。自分で音楽を漁るということをしなくて、ただ唯一好きなのがビートルズなんです。ビートルズだったらだいたい何でも口ずさめるんですけど、かと言って作詞作曲が誰かまでは知らないのであんまり胸を張って「好きです」とは言えないくらいなんですよ。あんまり深く追求するのは好きじゃないというか、聴いたまま受け入れて…それを出すみたいな(笑)。
●純粋に自分が好きだと思うものを聴いて、素直に取り入れているだけというか。
iris:そういった意味ではジャンルを問わず、自分が「これ良いじゃん」と思ったものを聴く感じなんです。でも気に入った曲の入っているアルバムを買っても、同じアーティストの他のアルバムを探したりもせず、その曲をひたすら聴いていたりとか。良く言えば、自然と出会った曲しか(自分の中には)入ってこない。今は変に影響を受けたくないので、新しい音楽を聴くのが怖くなっていて。だから、最近はむしろ聴かないですね。
●irisさん以外のメンバーはどうなんですか?
ken:僕はもう“音楽がないと生きていけない”という感じなので、色々聴きますね。特にオールディーズが好きで、1930年代のジャンプ・ブルースとか…いわゆるロックン・ロールの元になったようなものをよく聴いています。人間のエネルギッシュな姿が伝わってくる音楽が好きで、そういうエネルギーを今の自分がやっている音楽にも注入できたらいいなと思っているんです。とはいえ、自分もフレーズを研究したりするようなスタンスではないんですけどね。
●asanoさんは?
asano:僕は逆に、誰が作詞/作曲したかを調べたりするタイプというか。音楽をすごく聴いているほうだと思うんですよ。基本的には60年代のガレージ・サイケとかが好きで、ザ・フーとかをよく聴きますね。ガレージとかサイケって、初期衝動の塊じゃないですか。自分の音楽カンというものを保つためには初期衝動がすごく大事だと思っているのもあって、よく聴いています。
●一聴、90年代のブリットポップやUKロックからの影響がありそうに見えて、実はそこを熱心に聴いている人は誰もいないという…。
ken:むしろそのあたりが一番、疎いジャンルかもしれないです。koichinに至っては、アニソンがメインですからね(笑)。
●メンバーの誰も、ブリットポップやシューゲイザーを通っていない?
iris:世間一般と同じくらいには知っているという程度ですね。
asano:通ってはいますけど、そこを掘り下げたりはしていなくて。
ken:でもkoichinはザ・スミスがすごく好きですよ。
●あ、koichinさんだけはそのあたりを通っていると。
iris:確かにkoichinは「どちらかといえば、UKロックが好きなほうだった」みたいなことを別のインタビューで話していて。私たちもそこで「そうだったんだ」と知りました(笑)。
●そういう感じにも関わらず、ブリットポップの本場で高く評価されているというのが面白いですよね。
iris:自分たちでは意識していなかったから、驚きました。本家に言ってもらえるとは…という感じですね。あと面白いのは、アメリカの方が聴くと「オルタナだね」とか「ガレージだね」と言われるんですよ。でもイギリスだと「ブリットポップだね」と言われる。もし本当にそこを狙ってやろうとしても、私は知らなすぎてできないですから(笑)。何をお手本にしたらいいのかもわからない。
●全く違う音楽的背景を持った4人が集まった結果、今の音楽性が偶然的に生まれているわけですね。ちなみに、歌詞や曲はどなたが書かれているんですか?
iris:私がほとんど書いています。ベースとなるものをまずスタジオでみんなに聴かせて、好きなように弾いてもらうところからいつも始まって。そういうことを重ねる中で、曲ができていきますね。
●ベースの段階ではどんな形で?
asano:弾き語りですね。
iris:何も録らずに、スタジオでいきなり「じゃあ、いくよ〜」って弾いてみたりとか(笑)。
ken:結構、自由な感じの弾き語りです(笑)。
●自由な弾き語り(笑)。
asano:構成に関しても自由なので、みんなが色んな発想を出していくんです。そこでああだこうだ言い合いながら固めていって、曲ができていきますね。
iris:最終的な構成とかが見えている場合は「こうしてください」と言うんですけど、それすらも自由の下に「だいたいこんな感じだから」くらいの伝え方なので(笑)。
●メンバーに任せる自由度が高い。
asano:イメージがある場合も、抽象的な表現が多くて。「北欧っぽい感じ」とか「車窓から見ている感じ」だったり…。
iris:「電車に乗っているつもりで弾いて」とかね(笑)。他にも「食べながら弾いているとしたら」とか「お風呂に入りながら弾いているとしたら」みたいな感じで伝えることが多いです。
●そういうイメージを具現化していった結果が、こういう音になっている。洋楽感があるのは、英語の発音が自然だからというのもあると思うんですが。
iris:私は小さい頃からインターナショナルスクールに通っていたんですよ。だから日本語よりも、英語のほうが使いやすかった時代もあるくらいなんです。
●だから自然な発音なんですね。あと、英語で歌う以上は歌詞の内容も重要だったのでは?
iris:そうなんですよ。今までは日本で活動していたから、英語で歌うにしても日本人が聴き慣れているような単語を使っていたんです。ある程度のストーリーがあれば、そこまで深い意味を持たせていなかったというか。でもイギリスでリリースするとなったら、一語一句を真剣に選ばないといけないというところで歌詞はガラッと変わりましたね。易しい英語じゃなくてもいいから、ちゃんと意味を持たせようという方向になりました。
●歌詞の内容は具体的にどんなことを?
iris:意識しているわけではないんですけど、気付くと“死”について書いていることが多いですね。あとは大きな枠で言えば、“愛”についてとか。
●普遍的なことを歌っているから、海外でも受け入れられたんでしょうね。
iris:そうかもしれない。曲は明るかったりポップな印象が強いんですけど、歌詞の内容はストイックに書いていることが多いんです。そこのヒネくれた感じがイギリスの人にはヒットしたのかなって思います。
●前作がそうやって評価された後に、今回の2ndアルバム『Lixiviate』リリースとなるわけですが、プレッシャーはなかった?
iris:やっている側はそこまで深く考えずに作っているので、「前作の流れに沿って」とかもなくて。いつも単純に「曲ができたからアルバムに収めようか」っていう形で、コンセプトとかは特にないんですよ(笑)。全てにおいて深く考えていないところが、良い方向に転がっているというか。本当に流れるがままというか、常にあるがままという感じですね(笑)。器用にはできないので…。
●何か特定のジャンルを意識したり、作為的な感じではない。
asano:1曲1曲、ベストなものを作ろうというだけで。具体的に「ブリットポップと言われているから、そういうものをやろう」というわけじゃなくて、その曲がどういうものを求めているかということを一番に考えています。
iris:「その曲の最終形が最高になるように」ということを常にやっていくのが、我々のスタイルですね。
●作品全体のコンセプトを考えたりするわけではなく、それぞれにベストな形を追求した曲が集まってアルバムになっている。
asano:そうなると曲調がバラバラになる恐れもあるんですけど、実際に今回のアルバムを作ってみたら意外とまとまりがあって。全体的に“taffy”というフィルターがかかっていることで、1枚のアルバムとして聴けるものになっているというか。
●“taffy”というフィルターを通すことでバラエティ豊かな楽曲にも統一感が生まれている。
ken:あと、今回のアルバムに関してはUKツアーをまわった中で自然と練られたバンド感みたいなものが、どっしりと動かないtaffyの土台みたいなものになったのかなと。「こういう曲をやったらお客さんはどういう顔をするかな?」というのがイメージできるようになった感じはしますね。スタジオで録音していても、ライブ録音みたいな気分だったんです。
●元々は月に1本くらいしかライブをしていなかったわけですが、今はもう好きになりました?
ken:もちろんです! UKツアーですごく良い体験をしたことが今回のアルバムにも反映されているし、今は本当にライブって楽しいなと思えていますね。
asano:元からライブは好きだったんですけど、当時はそれに対して受け入れてくれる場所がなかったので。イギリスで最初のリリースをする前にも「需要がないから、ツアーをする必要はない」ということを話していたんです。だからリリース後に向こうのレーベルから「ツアーはどうだ?」という話があった時も、最初は断ったんですよね。
●最初は乗り気じゃなかったと。
asano:でも何度もオファーが来たから、「だったらツアーをやらないで断るよりも、やってから断ろう」と話し合って。やってみて散々な目にあえば、断る時の説得力もあるだろうと(笑)。それでOKしてツアーをやってみたら各地で盛り上がって、「いけるじゃん!」となったんです。今や気が付いたら、1年間で3回もツアーをまわっているという状況で…。
●そうやって海外での評価は高まっている中で、日本での反響はどうなんですか?
ken:今のところ、何も変わっていないです。
iris:少しでも変わったら嬉しいですけど、自分の中で8〜9割は変わらないだろうなと思っています(笑)。
●ネガティブですね(笑)。
iris:いまだに(メディアに出ているのを見ても)他人事みたいなところがあって。これまでが、あまりにも存在を認識されていなかったので…。
asano:「聴いてくれる人は、そんなにいないだろう」という意識が根付いちゃっているんですよ。でも実際に今は、こうやって日本のメディアでも色々と取り上げてもらっていて。「カッコ良い」と言ってくれる人たちも出てきているので、単純に嬉しい気持ちはありますね。
●そういう意味で、今回は良いキッカケになるんじゃないですか?
asano:ちょっと前向きにはなりましたね。来年(2014年)はさらに前向きになれるかなと思います。
iris:メンバーとしては、やることは最初から最後までずっと一貫して一緒で。良い曲を作って、作品に収めていくということだけなんですよ。
ken:今はその気持ちがより強くなったなという気がします。
Interview:IMAI