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vez

轟音の中に存在する美しい旋律と確かな想い

PHOTO_vez轟音の中に鳴り響く美しい旋律と、現実を直視し、たくさんの想いを詰め込んだ歌。HATE HONEY解散後、高木フトシを中心に飯田成一(ex.ZI:KILL / CRAZE)、YANA(ZEPPET STORE / GHEEE / NACANO)、ASAKI(AGE of PUNK / ex.GUNIW TOOLS / BUG)の4人がvezとして集結し、待望の1stフルアルバム『Heaven flower』を完成させた。最高のグルーヴと感情を掻きむしる旋律、最も大切なものはなにか? と問いかけ続けるような、胸に突き刺さる歌が満載の今作は、ロックに魅了された彼らの魂の叫び声だ。

 

 

「常に本気で向き合う必要があるというか、それが正解かどうかはわからなくても、正しいと思ったことは言わないと意味がない」

●2008年にリリースされた高木さんのソロアルバムについてインタビューをさせて頂いたとき、既にvezとしても活動しているとおっしゃっていたんですが、現メンバーが揃ったのは2011年らしいですね。

高木:HATE HONEYが解散した翌年くらいからvezを始めたんですけど、最初は3ピースだったんです。それでメンバーチェンジを経て、今のメンバーになる前は、俺とMITSU(ex.HATE HONEY)とPay money To my Painの石川(T$UYO$HI)で。でも、石川はP.T.Pをちゃんとやった方がいいと思ったし、MITSUはMITSUでJEANNIENITROっていうソロプロジェクトをやっていて、当時子供が生まれて大変な時期だったというのもあって、「もう来年から君たちいらない」って話をしたんです。

●それぞれのために。

高木:お互いのためというか「俺、真面目にvezやりたいから」みたいな。

●ハハハ(笑)。

高木:そもそも飲み仲間からのスタートだったので、それが可能なメンバーだったんですよね。その状態になって、飯田さんが「vezやろうよ」と言ってくれて。「M-1「Black sheep tail」を俺に弾かせてよ」って。それでベースが成一くんだったら、ギターも負けないくらいの人じゃないと駄目だと考えたときにアサキチ(ASAKI)が思い浮かんだんです。アサキチは昔から知り合いなんですけど、よく飲んでいたときに「vezのギターは俺だろ」と言ってたんです。

●なるほど。

高木:それから色々とあってアサキチが正式に加入するまで2年くらいかかるんですけど、俺としてはアサキチ以外考えられなかったんです。というのは、バンドでひとりが楽曲を作るのもいいんですけど、俺としては“自分にそこまでの才能があるかどうか?”と考えたら疑問なんですよ。だから曲を作ることができるアサキチがいいだろうと。更に、アサキチが持っているものと俺が持っているものって両極端なので、それが一緒になる方がバンドとして絶対にいいと思ったんです。実際この4人でスタジオに入ったら、最初からめちゃくちゃ良かったんですよ。曲もすぐに出来ちゃって。“やっぱこれだな”っていう感じがしました。

●皮膚感覚として、最初からしっくりくるものがあったと。

高木:アサキチが入ることによって楽曲の幅も広がったんです。今ライブ会場で出しているシングル3枚と、今回のアルバムを聴いてくれればいちばんわかりやすいと思います。とてつもない幅になっているので成功したなと。

●今作を聴いて思ったのは、轟音の中に潜む美しさを共通して感じたんです。歌メロだけではなく、ギターの旋律の美しさやリズムの美しさ、アンサンブルの美しさ…そういうツボみたいなものがどの曲にもあるような気がしたんです。

高木:それは俺もどこかしらで感じている部分があって。タイトル曲のM-12「Heaven flower」はアサキチが作ってきた曲なんですけど、詞をつけて曲順を並べたときに、タイトル曲として「Heaven flower」を持ってきたらアルバムがいちばんまとまると思ったんです。たぶんそういうことですよね。

●そうですね。「Heaven flower」がその“美しさ”の最たる例というか。エッヂの立ったロックサウンドが中心の今作の中で、「Heaven flower」がいちばん開けている。

高木:今のvezを表現する上で「Heaven flower」がいちばんまとまるかなと思ったんです。それをアサキチに言ったとき、「いいの? ありがとう」と言われたんですけど。

ASAKI:「その曲でいいの?」って(笑)。

高木:“いいも何も、お前だけのもんじゃねえよ”っていう気持ちもあるんですけど(笑)。

●それで「Heaven flower」をアルバムのタイトルにしようと。

ASAKI:タイトル的には重たいニュアンスも含まれているのかもしれないけど、言葉の中には絶望を感じなかったのがすごいよなと思ったんですよね。

●アルバム全体を通すと、怒りや絶望といった感情が見え隠れする作品だと思うんですが、「Heaven flower」という曲がタイトル曲になることによって救われる感じがあって。そもそもこの曲は、どういう経緯で作られたんですか?

ASAKI:なんですかね? パッと浮かびました(笑)。

高木:俺的には得意なコード進行でもあったんですけど、このサウンドから浮かぶ言葉は“Heaven flower”しかないと思ったんです。自然とその言葉が出てきて。でも、2番の頭に“神風”って言葉を使っているんですよ。

●そうなんですよね。

高木:ポップな中にもそういう意志はちゃんと入れていかないと気持ち悪いというか。そういったメッセージも含めて「Heaven flower」だと。例えば靖国参拝の話って小泉総理のときからあるじゃないですか。いつも思うんですけど、極論を言えば人間に右も左も上も下もない。特に俺らはロックが好きだし、好きなものは自由以外の何ものでもない。もう40歳を過ぎたし、自由が不自由だっていうことも十分知ってる。だけど、ロックをやる上ではどこまで自由になれるかが勝負で。更に言えば、世界中が「国がどう…」とか言ってて“うるせえよ!”って思うんです。そういうことも含めて、このアルバムではM-4「深刻と謳う名の真実」とかも書いているんです。

●なるほど。

高木:自分が戦争で死ぬときに国なんか思わないですよ。母親か、愛している妻か、子どもじゃないですか。その話をしようぜっていう。

●そういう想いが歌いたいことの原動力になるんですか?

高木:そうですね。そもそも、そんなにポジティブなロックバンドが好きじゃないんですよね。でも、日常を忘れる世界をライブでは作りあげなきゃいけないっていうのは、この歳になって初めてわかってきたことでもあって。ロックバンドとはいえ、全体をひとつにすることの大事さ…「みんな好き勝手やってくれよ」では少ない気がするんですよね。

●少ない?

高木:感動というか、心の満腹感の度合いが。ライブハウスクラスのバンドだとしても、そういうのは意識してやるべきだと思いますね。一喜一憂しているお客さんの顔を見て歌っていると、歌っているこっちの心が洗われるんです。もらっているものが多ければ多いほど、返すものも多く返さないといけないじゃないですか。それは意識しないとダメなんですよね。じゃないと、どうしてももらってばかりになっちゃうんですよ。ずっとやっていると意外とそのことに気がつかなかったりするんです。

●ああ〜。

高木:でもいったん休んだりすると、そこに気がついたりする。誰かのためとかじゃないんですよ。結果としては自分のためではあると思うんですけど、自分のためだけではないっていうのも大事。

●5年前にソロのタイミングでインタビューをさせていただいたとき「HATE HONEYが解散したときに音楽を辞めようと思った時期があった」とおっしゃっていて、「でもまだ伝えきれていないから、音楽を続けていくべきだと考え直した」というお話があったんですけど、“伝えないといけない”という想いはvezに脈々と受け継がれているんですね。

高木:そうですね。震災の前にAKUH -鴉空-(高木フトシとYANAのアコースティックユニット)でチェルノブイリをテーマにした『Red Counter』というシングルを作ったんです。当時、田中優さんときくちゆみさんっていう活動家の方のイベントに出させてもらったりしていたんですけど、なんやかんや言っても2011年の震災が起こるまでは、自分もそこまでは考えていなかったなと思ったんです。

●そこまでは考えていなかったとは?

高木:考えていたつもりだったけど、どこかリアリティがなかったというか。震災が起こる前は俺に対して「偽善者だ」とか言ってくる人もいたんですよ。チャリティーイベントをやってもそういう声があったし。でも震災後はそれが普通の感覚になっていますよね。人って、良くも悪くもそうだと思うんです。だからこそ、常に本気で向き合う必要があるというか、それが正解かどうかはわからなくても、正しいと思ったことは言わないと意味がないような気がしているんです。

●なるほど。

高木:音楽だから、伝わらなくてもいいんです。でも音楽の特権は、俺らが死んでも残るということで。そこに意味があると思っていて。

●音楽をやるということに対しての覚悟というか。

高木:HATE HONYが解散して、音楽を辞めようかなと思っていた俺に「まだ伝えきってねえだろ」と言ってくれたのは名古屋池下UPSETのナカイさんなんですけど、未だにナカイさんは名古屋のシーンが少しでも活性化すればいいという想いで、休みの日に名古屋のバンドを連れて東京に毎年来るんです。それこそロックンロールですよね。だから今はもう、ナカイさんと俺のどっちが先に辞めるかの勝負ですよ(笑)。

●そしてリリース後は、9月末から12月頭までツアーを予定されていますね。さっきライブの話で「歌っていて心が洗われる」という話がありましたけど、今回はどんなツアーにしたいですか?

高木:vezとして初めて行く場所が多いんですけど、お客さんが1人でもいれば俺的にはいいんです。そこで感じ取ってくれたらいいなと思いますね。諦めるとか諦めないとかそういった世界の話ではなくて、単純に“やれば出来る”ってことを感じ取ってくれればいい。“決めちゃってるのは自分だよ”っていう。それは伝えたいですね。

●はい。

高木:つい最近大阪に行って知り合いと話したんですけど、究極な話、明日死んじゃうかもわかんないじゃないですか。だから“一期一会”って本当に大事だなって。大事にするっていうことも難しいんですけど、そこは集中しないと、人間ってもったいないですよね。そういうことを歌っているときにみんなと共有できればいいんじゃないかなと思ってます。

ASAKI:去年、俺はChirolynと2人のアコースティックユニット・AC/ACで全国30箇所くらいまわったんですよ。今年も本間清と一緒に全国をまわって。2つともロックンロールといえばロックンロールなんですけど、アコースティックだったんです。それで実際にまわってみて感じたのは、ライブを観に来たくても来れない人たちのリアルな声を聞いて、「次に合うときはロックンロールバンドで会おうぜ」って約束したんで。

●要するに、今回はその約束を果たすツアーだと。

ASAKI:そうですね。「お前らに会いに行くぞ」っていう。あと、俺はネット社会が大嫌いなんですよ。だから目を見て話をしたい。それが出来るバンドがvezだと思ってるんです。「お前らと一緒に転がるぞ」って。それが出来るといいですよね。

高木:バリバリTwitterとかやってますけどね(笑)。

ASAKI:でもそれは結局、疑似なんです(笑)。俺はお前の目を見て話をしたい。

interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:森下恭子

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