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PAN

すべてはライブの“あの一瞬”のために

187_PAN011995年に結成し、18年間ライブハウスシーンを走り続けてきたPAN。ライブをますます激しく鋭く熱く強いものにし、もはや夏の風物詩となったイベント“MASTER COLISEUM '13”の開催を発表して注目を集める彼らが、傑作と呼び声の高いアルバム『Positive And Negative』(2011年12月)以来となる待望の新作ミニアルバム『バッカーゲッター』を完成させた。真面目なこともふざけたことも、すべてを全力でやるという彼らの想いと覚悟が音に表れた7曲は、今まで以上にたくさんのライブキッズを熱狂させるに違いない。

「ここまでやってくると、“ほんまにバンドが好きなんやな”って自分で確信できる。だから全然さらけ出す。振り切る。思ったことを言える」

●つい先日ライブを拝見したんですが、ちょっともう無敵な感じというか、何があってもブレない強さをびんびん感じたんです。フロントマンの川さんと楽器隊3人がぐちゃぐちゃになりそうで絶対にならないタフな感じがすごく良くて。

川さん:今はバンドの目的がはっきりしているんです。「俺らどんなバンドやねん?」というところを突き詰めたというか。やりたいことはいっぱいあるけど、今自分たちがなにをすべきかっていうところを何年か前から絞ったんです。それで曲作りとかライブのやり方がまとまってきているので、形に出てきているんじゃないかなって。

●迷いもなく4人が共有していると。

川さん:そうですね。今のバンドの目的は…言うても長いことやってるじゃないですか。その中で、色んなことができるようになってきて、ちょこちょこ色んなことをしたい時期もあったけど、高校生の頃に作っていた曲をもう1回聴き直したときに「よくこんなこと歌えたな」と思ったんです。高校生の頃なんて怖いものないじゃないですか。

●はい。無知なりの無敵というか。

川さん:それを今、もう1回やろうって。一周まわって「どうやねん?」みたいな。今はそんな感じですね。余分なものを省く。ミニアルバム『TORIHADA GAME』(2010年3月)くらいから徐々にそんな感じになってきて。曲も、1回作って全体を見て、「ここは余分やから要らんやろ」とか。

●あ、そういう意識の変化は曲作りにも表れているんですね。

川さん:ややこしくしていく傾向にあったから、「ここはもっと単純にしていこう」って。そういう感じで、今はライブも曲作りも歌詞も目的がはっきりしています。いいところはもっと伸ばすというか、伝えたいところをガーンと出すというか。でもやることは1つじゃなくて、逸れるんやったらとことん逸れる。全体的に濃くするというか。

●だから今回のアー写、こんな感じなのか。

ゴッチ:ライブも絶対に強くなったと自分たちでも思うんですよね。

●よこしんは加入して1年強ですが、メンバーの中でいちばん客観的にバンドを見ることができる立場だと思うんです。実際に入ってみて、どう感じますか?

よこしん:もともとは先輩バンドとして外から見ていて。で、実際に入って、今まではついていくのに必死だったんですけど、どんどんみんなで意見を出して、それが1本の線みたいになって…というところに自分も同じベクトルで進むことができているから、バンドがなんか強くなったような気はしてます。

●川さんゴッチダイスケの3人は幼馴染で付き合いも長いし、よこしんは1人年下ということもあり、苦労したんじゃないですか?

よこしん:苦労はいっぱいありました。年齢も6つ違うんですよ。だから最初の頃は入りづらいというか、気を使うこともあって。そういう面で様子見していた時期を経て、今はどんどん仲間に入れてくれている感があるし、自分も仲間に入った感があるし。前のアルバム『Positive And Negative』(2011年12月)の制作でやっとメンバーになれたというか、自分が入ったPANのアルバムが完成したことで自信にも繋がったというか、メンバーになりました。

●先輩3人から見てよこしんはどうですか?

川さん:がんばってると思います。払っている時給に対する働きはしてると思う。

一同:ハハハハハハ(笑)。

ダイスケ:曲も作ってもらったし。

川さん:そうそう、曲を作れるんですよ。『Positive And Negative』でもよこしんが作った曲が収録されているし。バンドに入って間もないのに楽曲を持ってくるというガツガツさは嬉しかったですね。

ゴッチ:新しい風がバンドに入りましたよね。

川さん:柑橘系のね。

●バンドとしてますます充実している中、今回ミニアルバム『バッカーゲッター』がリリースとなりますけど、今作は最近のPANのライブの印象とリンクするんですよね。迷いがないというか、現時点のPANの哲学やポリシーが詰め込まれている。今のPANがすごく伝わりやすい作品ですよね。

川さん:曲調はバラエティを出したいと思っていたんですけど、考え方としては、今のライブでやってもテンションが変わらないものというか、どんなことやってもブレずに「PANやな」となるようなもの。だから作っているときはライブを意識しましたね。

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●PVになっているM-1「直感ベイベー」はさっき川さんが言っていたようなシンプルな強さがモロに出ている曲ですよね。

川さん:そうですね。この曲は、もともとのネタはよこしんが持ってきたんです。それを「この部分がいいから、ここを使ってどうしようか?」みたいな感じで、そこにダイスケが持ってきた曲とくっつけて1つの曲にしたんです。

●お、なるほど。もともとは2つの曲だったと。

川さん:そこにバンドのアレンジを足して、そこに歌詞を入れたんです。リズムを変えたりとかしながら、みんなでライブをイメージしながら作って、1回録ったやつを客観的に聴いて。もともとはミニアルバムのリード曲にするつもりで作ってはいなかったんですけど、バンドで合わしているうちにおもしろい曲やし、これがいいかなと。歌詞も含めて今までのPANにあまりないタイプの曲かなっていう感覚が自分たち的にあったので、ライブの定番曲になっていけば今までよりももっと多くの人にガツン! といけるんじゃないかなと。

●この「直感ベイベー」は瞬発力がありますよね。

川さん:うん。ライブハウスの後ろの方の人に対しても「後ろでも理解できるやろ?」っていう。そういう気持ちで作った曲ですね。

●既にライブでもやっていますけど、いい反応だし。

ダイスケ:意外に。

●「意外に」ちゃうやろ! 自信満々のリード曲や!

一同:アハハハハ(笑)。

川さん:リード曲にしてよかったです。初めてやったときも「お? こんなに反応してくれるんや?」」と思って。

ダイスケ:確かにわかりやすさは狙ってはいたんです。歌詞も曲もシンプルに、インパクトあるものを作っていこうやって。だからライブの反応が良かったら嬉しいです。

●それはここ何作品からの経験が活きているし、過去に歌詞で苦労した経験(※2009年3月リリースのシングル『いっせーのせっ!!』で伊藤銀次をプロデューサーに迎え、色々と苦労した結果、川さんは歌詞に対する価値観が変わった)も活きているんですね。

ゴッチ:よく覚えてますね(笑)。

川さん:そういう経験はほんまにデカいです。昔はわけわからん歌詞ばかりでしたけど、その根本的な考え方は今も変わってないんですよ。ただ、それを“いかに出すか”という部分が以前と違うと思います。

●M-6「鳴り響く音」はめちゃくちゃいい曲だと思ったんです。まさに18年バンドを続けてきたからこそ歌える曲だし、この曲を聴いただけでPANが18年もバンドをやってきた理由がわかる。グッとくる。

川さん:バンドをやっている気持ちってみんなスレスレじゃないですか。そのギリギリのところで、今バンドをやっている理由は何か? と自問したら、ライブでガツンとやる一瞬…その瞬間のためにやってるんですよ。ライブって一瞬のものじゃないですか。その場でどれだけ気持ちを高めることができるかが大切で。そういうことをライブをしながら思うし、だんだんそれが自分にとってより大事になってきているんです。

●そういう素の気持ちをさらけ出すことは以前はあまりしていなかったですよね?

川さん:昔はあまりさらけ出していなかったですね。でも今は気持ちの土台がしっかりしているから、例えブレたときでもそこに戻ることができる。昔は「ポーン」「ポーン」と言葉を出していたから、ブレたらよくわからくなるっていうか。でもそれがおもしろいと思ってやっていたんですけど、今は気持ちの土台がしっかりしているから、その気持ちから出たおもしろい言葉を選ぶようにしてるっていうか。

●なるほど。ということは、「鳴り響く音」は剥き出しの気持ちというか、PANというバンドの意志というか芯を歌っているんですね。

川さん:そうですね。めちゃくちゃストレートやから、何年か前やったら書かれへんような歌詞やったかも。自分の中にそこまで自信がないから「こんなこと言うてもな…」となっていたような気がします。でもここまでやってくると、「ほんまにバンドが好きなんやな」って自分で確信できる。だから全然さらけ出す。振り切る。思ったことを言える。

●ええ話やな〜!

ゴッチ:居酒屋で酒飲みながらする熱い話みたいになってるやん。

ダイスケ:ビール3つ持ってきて!

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●「鳴り響く音」は特にPANのライブとリンクするんですよね。ああいうライブができるのは、「鳴り響く音」で歌っているようなことを思っているからというか。

川さん:曲調は割と今作の中ではゆったりしてる方ですけど、聴き入ってほしくないというか。ライブでガーッ! といってほしい。そうなればいいなと思って作りました。

●今回の7曲はどんな感じで決まったんですか?

ダイスケ:ゴッチもよこしんもいっぱいネタを持ってきてくれるんですよ。それぞれが全部良くてなんとかしたいから、バンドであーだこーだと相談しながら、さっき川さんが言ってたように「この曲で伝えたいところをガーンと出そう」という感じで作っていって、その選抜を勝ち抜いた曲を入れたんです。

ゴッチ:だから総選挙ですよ。勝ち抜いた選りすぐりです。

川さん:厳しい選抜を勝ち抜いた7曲です。

ダイスケ:M-7「BIG WAVE」は違いますけどね(笑)。
※注:「BIG WAVE」は川さんが弾き語りでアドリブ的に歌っている曲。ゴッチの突っ込みが要所要所に入っている。

●まあ、こういうバカバカしさもPANですけどね。

一同:ハハハ(笑)。

ダイスケ:そうですね。だからいいかなと。

川さん:バンドやから楽しいし、遊びをやることは全然OKやと思うんです。だから「ちょっと時間あるしやってみようか」みたいな軽いノリで。PANはそんなノリで始まったバンドですから、一周まわって、経験を活かしてバンドのみんなで作った6曲に、パッと閃きで作ったような「BIG WAVE」を加えました。

●前のアルバム『Positive And Negative』でも感じたことなんですけど、今作はすごく説得力があると思うんです。ライブもそれは同じで、どんなに素晴らしいことを歌っていても、かっこつけていたらわかりますよね。

ゴッチ:うん、わかりますね。

●逆に、どんなにぐちゃぐちゃになっていても、本心をさらけ出している人はかっこいい。それって説得力の差だと思うんですが、今作はそういう意味での説得力がある。自分に嘘をついていないというか、信頼できる音楽というか。

川さん:そういうものって、ちょっとダサかったりとか。でも「ダサくてかっこいい」ということがあるじゃないですか。でもそこまでいかへんかったら心に残るものにはならへんし、その場その場で綺麗事を言ってもしゃーないし、それを観ているのも嫌やし。

●いい作品ができましたね。最後にアルバムタイトル“バッカーゲッター”について訊きたいんですが。

川さん:これは造語ですね。制作の最後に「アルバムタイトルどうしよう?」と考えてて、“直感ベイベー”はアルバムタイトルではないなと。

●うんうん。

川さん:“なんかないかなー”と考えていたんですけど、響きとかイントネーションを大事にしたいから、“バックパッカー”ってなんかええなと思ったんです。“Tシャツとかに書いてたらかっこよさそうやな”って。

●ハハハ(笑)。かっこわるいやろ(笑)。

川さん:そういう感じでアイディアをいっぱい出すんですよ。そんな中で、“バッター”って“打つ人”じゃないですか。それと同じような感じで、“バカなおもしろいことをする人”という意味で“バッカー”という言葉を思いついたんです。“バッカー”っていいなと。で、それを“手に入れていく人”という意味で“ゲッター”。その2つをくっつけたら、日本語の“馬鹿げた”にもなる。

●おお〜、なるほど。

川さん:それで“バッカーゲッター”がいいなと。おもしろいことを人生の中で手に入れていく人。そういう感じで色々と込めた意味もありますけど、まずは響きだけでもインパクトのある言葉だし。

●いいですね。「鳴り響く音」みたいな真面目なことも歌いつつ、おもしろいことを人生の中で手に入れていく。PANというバンドを表していますね。

川さん:バカなこともしなかったバンドをやっていかれへんし。そこから繋がって今があるから。

interview:Takeshi.Yamanaka

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