2007年5月に8thアルバム『our PMA』をリリースし、同年末までのツアーを最後に解散したスカパンクバンド、KEMURI。90年代から00年代のシーンを牽引してきた彼らが、昨年“AIR JAM 2012”で見事復活を遂げ、そしてこの春、過去に何枚もの名作を産んできたアメリカのBlasting Room Studiosでニューアルバム『ALL FOR THIS!』を完成させた。血と気持ちが沸き立つラウドかつ最高のスカパンクサウンドに、様々な感情を乗せて届けられるKEMURIの強い想いとメッセージ。今作『ALL FOR THIS!』を聴けば、彼らがどのような想いで復活を決意し、そして今現在どのような想いで音を鳴らしているかがビシビシと伝わってくる。すべてはこのために…KEMURIの新たな物語は始まった。
●KEMURIの復活は“AIR JAM 2012”の出演を打診されたのがきっかけということですけど…今作のM-1「Standing in the rain」と、M-13「Let’s start it again」という曲の中で、雨の中で自身がずぶ濡れになっているという心理描写がありますが、これは“日本中が雨の中に居る”という心境みたいなものが表現されているのかなと思ったんです。
伊藤:歌詞は受け取った方がどう受け取るかによるとは思うんだけど、まさにおっしゃる通りです。「Standing in the rain」では“Standing in the rain,soaked with a pain(痛みでびしょ濡れになりながら雨の中にたたずんでいる)”と歌っているんだけど、それは僕ではなくて日本がずぶ濡れになっちゃって、どこに行ったら良いのかわからない状況というか。痛みの中で、ずぶ濡れになっている感じだなあと。それを“自分”という比喩を使って表現しているんですよね。そのとき僕はどれくらい落ち込んでいたかというと、心理状態的には全然落ち込んではいないんだけど、おせっかいながらにすごく心配というか。「おいおい、本当にみんな大丈夫か?」っていう。そんな感じの心持ちだったんです。
●震災以降、そういう心持ちでいた中で“AIR JAM”の出演を打診されて、復活という具体的な行動に移されたわけですか?
伊藤:そう、結局ね。「“AIR JAM”をやるのでKEMURI復活しないか?」とKEMURIの元メンバーから連絡が来て「なに言ってんの? “AIR JAM”は誰だって出たいに決まってるじゃん」と思ったんです。最初は軽い気持ちで誘ってんのかなと思って、でも会って話して“あ〜”って。ブラッド(Ba.津田)とか、別のメンバーとも話して。そのときに考えたのは、“AIR JAM”は誰だって出たいに決まってるし、東北のために何かやりたいとか、誰だってそう思ってる。だからこんな状況で“AIR JAM”だけのために再結成するなんて、とてもできないと。1回限りでも、この先ずっとやるのでも自分にとっては同じことだから、KEMURIが復活するんだったら、どこまでできるかわからないけど、アルバムもちゃんと作ってツアーもちゃんとやって、“AIR JAM”に出ている他のバンドたちが普通にやっていることを視野に入れた中での復活じゃなかったら意味がないって。
●はい。
伊藤:今回は特に東北の支援を謳っているわけだし、その他にも“AIR JAM”自体や、出演している個人個人がいろんなメッセージを発しているわけでしょ? それに全部賛同するわけじゃないけど、最低限それくらいはやらないと、とても恥ずかしくて出られない。ブラッドと週に1回くらい飲みながら話して「何ができるんだろう?」って話して、「じゃあやってみよう」ってことで“AIR JAM”のことが決まったんです。
●なるほど。去年“リユニオン・ツアー”を行われたわけですが、“AIR JAM”を含めて数年振りにKEMURIとしてステージに立たれた感触や感想はどうだったんですか?
伊藤:自分たちの音楽の前であの大観衆を目の当たりにして“こんなにウェルカムな雰囲気なの?”っていうのが不思議だった。やっぱり解散したバンドだし、たかが5年しか経ってないうちに再結成だから気恥ずかしい部分があったんです。それは未だにあるけど。“AIR JAM”は一度も出たことがなかったし、すごいアウェーなんだろうなって思っていたんですけど、ライブ自体もすごくお客さんが盛り上がったし、びっくりしましたね。
●そして“AIR JAM”や“リユニオン・ツアー”の後、今年の1月に南さんが脱退され、初代ギタリストの田中さんが復帰されたんですよね。
伊藤:新しいギターなんて誰でもいいわけじゃないし、どうしようかなと思っていたところに、ちょうどソロアルバムの曲をT(G.田中 "T" 幸彦)に「書いてくれないか」って頼んでいたので、話してみたんです。書いてきてくれた曲を聴いて、離れていた間にTはがんばって音楽を構築して来たんだなって思ったんですよね。すごくかっこよかった。しかもちょっと無理な注文を出したんだけど、すぐに返ってきたし。いろんな意味で“ちゃんとした人たちとやって来たんだな”って思って。やっぱりギターも上手いし、Tのこと大好きだし、「今はどんなことをやってるの?」とか探りながら訊いていったんです(笑)。で、何かに縛られている状態でもなかったから。他のメンバーにも話をしてTに決まったんです。
●奇跡的というか、すごい巡り合わせですね。
伊藤:今考えても鳥肌が立つくらい。Tじゃなかったらどうなってたかなと思いますね。よく入ってくれたなあと思うけど(笑)。
●田中さんが脱退されたのは確か90年代ですよね。
伊藤:98年だから15年前ですね。
●15年も離れていたけど、田中さんが作った曲から“今までがんばって音楽をやってきたんだな”ということが伝わったと。そういうのが音楽を通してわかるって素晴らしいことですよね。
伊藤:結局そこですからね。飲んでいて楽しくても、一緒に音楽をやってピンと来なかったら成立しない関係だし。でもやっぱり、全然綺麗事じゃなくて、本当にTは大変だったんです。オリジナルメンバーで始めた95年から約3年間KEMURIで一緒にやって楽しかったけど、当時は日本でライブをすると言っても手弁当な感じだったし。好きだから、楽しいからやっていただけのところで、メンバーに申し訳ないと思いつつも「なんとかがんばらなくちゃな」って本当に大変だった。KEMURIというバンドは、幸運にもロードランナー・レコードさんからリリースしたじゃないですか。だけど、まだまだいろんなことが追いついてくるまで時間がかかる中で、やっと98年のアメリカツアーが予定されて、その後にレコーディングがあって。下北沢SHELTERや昔のLOFTでは、KEMURIがやればすぐに売り切れる状態になって、ものすごく盛り上がってきて、次のアルバムでいよいよ…という前にいろんな理由があってTが脱退したので、本当に大変な状況の中でやっとここまで来たというか。その後、KEMURIというバンドの名前が知れ渡ってピークを迎えるわけですけど、そういうKEMURIを脱退したTがどういう気持ちで眺めながら15年間を過ごして来たかっていうのは、書いてきた曲で痛いほどわかったんです。だから、今回はKEMURIでやってくれないと困るなと(笑)。
●なるほど(笑)。
伊藤:本当にがんばったから。そのがんばり方たるや、素晴らしいものがあった。いろんなストーリーがあるんですよ。
●今回のアルバムは、今年の春にアメリカでレコーディングされたんですよね。
伊藤:95年、98年、05年、07年、そして今回のレコーディングも同じBlasting Room Studiosでやっているんです。もう何回も行っている気心の知れたスタジオで。
●渡米する前には、ある程度アルバムの全体像が見えていたんですか?
伊藤:ほぼね。ただ歌詞は全然できていない曲もあったし、モチーフはできていたけど向こうで練り直した曲もあった。結構未完成な曲が多かったですよ。現地についてからの変更も多かったし。
●今作はどう考えておられたんですか?
伊藤:具体的な楽曲イメージとしては“速く激しく”。歌詞のイメージとしては“愛”。その中には怒りもあるし、優しさもあるし、思ったことを全部書こうと思って。でもやっぱり、このアルバムを聴いて“今日より明日が良くなってほしい”と思う人が増えるようなアルバムにしたいと思って。それだけですね。
●「速く激しく」とおっしゃいましたが、歌詞の中でも自分たちの音楽を“ラウド”や“ノイズ”と表現されていますよね。例えばM-4「sky without a cloud」は“Music so loud it will clear the darkest sky(その音楽は凄くラウドで頭上に広がる真っ暗な空を切りひらく)”という表現がありますよね。これは個人的な印象なんですが、特に震災以降のライブハウスで、速く激しい音楽を鳴らしたときに異様な一体感が生まれると感じていて。その場に居る人たちが感情を解放させるというか。「sky without a cloud」で歌っていることは、その印象に当てはまるんです。今の音楽シーンで速くて激しいものが求められているような気がするし、人にエネルギーを与えると思うんです。今作はアルバム全体がすごくエネルギーに満ちていて、聴いていて力が湧いて来たり、エネルギーを与えてくれるというか。それがすごくいいなと思いました。やっぱりKEMURIはいいなって。
伊藤:ありがとうございます。「sky without a cloud」の歌詞って、みんなわかってるようなことを言葉にして歌っているわけですよ。「ぶあつい雲の上に青空が広がっていることなんて、飛行機に乗ったことのある奴なら誰でも知ってるよ!」って自分で突っ込んじゃうんですけど、それすらわかんなくなるような状況なんじゃないかなって。だからそういうこともちゃんと歌わなくちゃダメかなと。本当はそんなこと歌わなくてもいいんだけどね。でも今回は、敢えて“こんなこと歌わなくていいのにな”と思うような言葉でも、そのまま歌詞にしていることが多いです。
●直感に近い形で歌詞にしたと。
伊藤:でも本当に、速くて激しい音楽っていうのはやる側に強い気持ちとかエネルギーがないと基本的にはできない。それが何かに対する怒りなのかもしれないし、愛かもしれないけど、気を強く持ってエネルギーがないとできないよね。それがお客さんにもライブでは伝わるんじゃないかな。必ず伝わるもんだと信じてやってますけど。
●速くて激しいアルバムにしたいという想いは強かったんですか?
伊藤:変にジジイ感を出さないで…みんなだんだん渋くなるでしょ? 不自然に元気なのも嫌だけど、自然な感じでやりたいと思うことをやろうと。元気が有り余っているってのもあるし、もっと元気になりたいから音楽を作るっていう気持ちも両方ある。バッド・レリジョンだって何歳になってもずっとああいう音楽をやっているじゃないですか。渋くならずに、そういう風に行きましょうと。
●今作を聴いて“やっぱりスカパンクっていいな”と思いました。エネルギーのある音楽ですよね。
伊藤:いいですよ。最高だと思う。
●アメリカでの制作作業はスムーズだったんですか?
伊藤:そうですね。変に煮詰まって空気が淀んだりしたことは一切なかった。みんな前向きに、ものすごくがんばって。音楽にフォーカスして24時間そんな雰囲気だった。ホーン隊は大変だったと思いますけどね。曲のアレンジが変更になれば変えないといけなくなる部分もあるし。でも今回オリジナルメンバーの霜田裕司もホーンアレンジに参加してくれているので。
●久々に参加した田中さんも気心知れた仲というか。
伊藤:Tが復帰して最初にコバケン(Sax.コバヤシ)、ブラッド、庄至くん、T、僕で小さいスタジオに入ったとき、驚くほど違和感なく馴染んできましたからね。スルスルスルっと。15年も離れてなかったような感じ。“あ〜、KEMURIだ”と思った。『Little Playmate』という1枚目のアルバムを出す前によく練習していたスタジオだったからかもしれないけど、昔にタイムスリップした感覚だった。「New Generation」という曲をやって、Tのギターのソロを聴いて「あぁ〜!」って。本当に違和感なく。レコーディングも終始そういう雰囲気でしたよ。
●そういう雰囲気はライブにも出ていますよね。先日ライブを観たときに思ったんですけど、すごく楽しそうにライブをやっているなって。それがお客さんにも伝わっているような感じがあった。
伊藤:嬉しいですね。本当に楽しいもん。リハーサルをやったり、一緒に旅に行ったり、イベントに出たり。いちばん楽しい。アルバムの制作は本当に大変だったけど、みんな音楽が大好きだから、それで飯を食いたいと思ってプロのミュージシャンを目指してがんばっていて、本当にそんな生活ができているから当然楽しくて当たり前なんだけど、でもやっぱり本当に充実しているし楽しいですよ。雰囲気が最高だし。
●その“楽しい”という感覚は、初期衝動みたいなものなんですか? 一周回った感じ?
伊藤:いや、それとはちょっと違う。やっぱり演奏とかシビアにやらなきゃいけないところのハードルはどんどん高くなってきて、どんどんそういう話がメンバー間でも出ているんです。初期の頃だったらわけもわからずやっていたところが、今はテーマを持ってお互いが何を考えているのかっていうことをちゃんとアウトプットしている。それを理解した上で「できない」じゃなくて「まずはやってみよう」っていう空気があるから。だから一周したというより、新しいバンドをやっているみたい。
●なるほど。バンドと音楽を全力で楽しんでいると。
伊藤:名前もメンバーも楽曲もほぼ同じだけど、新しいバンドをやっているみたい。楽しいですよ。
●今作は全体の雰囲気としてすごく楽しいんですけど、歌詞は喜怒哀楽でいう“楽”だけの感情が入っているわけではなくて、むしろ怒りから生まれたものがスカパンクというサウンドに乗って楽しい音楽になっていて、それを聴いてみんながライブで暴れる。それはすごく不思議な感じだと思うんですけど、音楽のあるべき姿のような気がするんです。そこはふみおさんが大切にしてきたことなのかなと思いますし、常に怒りを持っておられるんだなと改めて感じたんです。
伊藤:持ってますよ。怒りも許す心も、すべて心の“ひだ”だからね。怒りが悪いとかじゃなくて、何も感じなくなったら終わりだと思う。怒りも感性のひとつだと思うから。
●そんな中で、M-12「one drop」の歌詞には葛藤や迷いがいちばん色濃く出ているように感じたんですが、これはどういう心境だったんですか?
伊藤:この曲の歌入れをしているときに、歌入れをやってくれたBill Stevenson(All / Descendentsのドラマー)が、「この歌詞はちょうど日記に書いた俺の心情とド被りなんだ」ってうるうるしちゃって。50歳近い男が2人で「そうだよね」なんて言いながら泣いていたんです(笑)。ずっとパンクとかハードコアばっかりやってきたBillと、そんな話になるくらいの曲です。
●そんなことがあったんですね。
伊藤:僕の人生の中でのある瞬間…それってたった一度きりで終わるものではなく、不定期にふと湧いてくる感情だと思うんですよ。だけど、それに対して結論を出して、何かをやってみたからこういう曲を書こうと思った。やっぱり何かをやってみないまま悩みを歌にしたくないんです。でも何か結論を出して行動したとしても、必ず同じようなことでまた迷ったりする。そういうところにBillがシンパシーを感じたんだけど、そういう歌ですね。
●さきほどおっしゃっていましたが、今作は今感じていることをすべて詰め込んだんでしょうか?
伊藤:うん。歌詞を読み返せば読み返すほど、バンドメンバーへのダイレクトなメッセージだったりするし、自分たちへのメッセージだったりする。アルバムタイトルにも繋がるんですけど「本当にがんばるしかないでしょ! 気合い入れてやっていこうや!」っていう決心。“できるかな? 大丈夫かな?”って思うこともあるわけですよ。ずっとそうだったし、“AIR JAM”に出演させてもらうと決心した日からの心境をなるべくずっとフレッシュな言葉にしたくて。いちばん最後にできたのがM-11「Don't worry」なんですけど、これは本当に最後の最後までできなかった。
●曲は先にでき上がってたんですか?
伊藤:確か、曲は渡米する2日前くらいにできたんです。まだ仮歌を録ってもなかった。
●要するにレコーディングの現場で歌詞を書かなくてはいけなかったと。
伊藤:そうだったんですよ。だから歌詞を書いてレコーディングで初めて歌を合わせるというか。でも、やってみるとすぐにできたんです。何か歌いやすくて、歌詞も上手に乗って。「Don't worry」の歌詞は、バンドのメンバーに「心配するなよ」っていう内容だったということもあって。
●アルバムの中でも強く伝わってきたのはM-7「STAND UP!」だったんです。まさに今のKEMURIを表しているというか。聴くだけでも奮い立たされるし、こうやってインタビューをさせていただかなくてもKEMURIが何を考えて活動しているかということがよくわかる。“So fun to hang on with our fear(物凄い恐怖心と共にしがみついているのも楽しいもんだよ)”と歌詞にありますけど、それがすごくいいなと。何でも新しいことをしようと思えば恐怖心はあると思うんですけど、そういう恐怖心も含めて楽しめるのはまさに“PMA”ですよね。
伊藤:ほんとほんと。何か事故があるとすべてを疑いたくなるけど、文明って諸刃の剣な部分があって。恐怖心もひとつだし、それによって享受している利便さもあるでしょ? だから恐いと思ったときにかまえて相手を攻撃するよりも、恐いなと思いながらもその気持ちを表に出さないで、しがみつく手を強めるくらいな感じで行った方がいいんじゃないかなと(笑)。
●リリース後は全国ツアーですが、どんなツアーにしたいですか?
伊藤:いやぁ、ほんと最悪な気持ちになって帰ってもらえるようなね(笑)。
●ハハハ(笑)。
伊藤:ぐっしょり汗をかいてヘトヘトになって。でもヘトヘトになるけど、その瞬間だけはいろんな日々のことを忘れて、心をからっぽにしてKEMURIの音楽と自分の好きなことに集中できるような。夜眠るときに“また明日目が覚めても笑いたい”と思うようなツアーにしたいと思います。
●今ライブをやっている感覚は5年前と比べて違いますか?
伊藤:全然違いますね。超楽しいですもん。歌っていて気持ちいいし、本当にそれだけですね。KEMURIの音楽が楽しい。
●ツアー以降の予定は考えていらっしゃるんですか?
伊藤:すぐにアルバム制作にかかりたいと思っています。間を置かずに2枚目を出したいですね。本当に“2枚目”っていう感覚なんだよね。2枚目じゃないんだけど。
●よく考えたらめっちゃ出してますもんね(笑)。やりたいアイディアが湧いて来ているんですか?
伊藤:Tもがんばって曲を作っているんですよ。今作に収録されなかったものもあるし、ブラッドもモチーフがあるし。
●すぐにできるんじゃないかと。
伊藤:自分たちのアルバムを作るということを太い幹として、そこから前向きな意味で枝葉が伸びていってもらいたい。新しいバンドとのコラボレーションだったり、スカパンクが好きでやっている若いバンドたちで、KEMURIと一緒にやってもいいと思っている人がいればやってみたい。すべて含めて、2番目のプロジェクトに進んでいかないと動かないんじゃないかなって思っているから。そういうのを大事にして作っていきたい。
●若い世代もがんばっている人たちが多いですし。
伊藤:たぶんKEMURI再結成のときに比べて、今はすごく沈静化しているから。“AIR JAM”でワーっと名前が出て盛り上がって。でも特別なことが特別じゃなくなっている感じが自分的にはすごくよくて。それで“何をやってこれからのKEMURIを構築していくのか?”っていうのが大きなテーマであるし、自分たちにとって大切なことだと思うんだよね。いろんな意味で、やりたいことは多いです。
●すごく楽しみです。
伊藤:楽しみにしていてください。今回、ほんっとにいいアルバムができたから。“ここにきてこんなにいいアルバムができるんだな!”ってびっくりした。自分たちでも「何でこんなにいいアルバムができたんだろうね?」って話していたくらい。アメリカのスタジオも、エンジニアの腕もグレードアップしているし、すごくいい音だった。聴く人が聴けばわかってくれる、いちばん新しいことをやっている自負があります。誰かの焼き直しじゃなくて、最新型のKEMURIのスカパンクをやっている。“本当にこれがやりたかった”ということが、やっとできたかもしれない。楽曲もクオリティもすべてにおいて。
●素晴らしいですね。
伊藤:だからまさに“ALL FOR THIS”ですよね。自分たちも“すべてはこのためにあった”と思いたいし、そういう気持ちで作ったんです。応援してくれたのに勝手に解散して、再結成したものの、今まで応援してくれたファンの人たちが“どうなのかなあ?”ってレジでお金を払うときまで疑いながらも、聴いたときに“すべてはこのためにあったんだ!”と思ってもらえるようなアルバムにしたいと思っていたので、自分たち的には、まず最初の目標は達成できたかなと。応援してくれた人たちに「ちょっと聴いてよ!」って届けたいアルバムです。
●バンドの歴史や背景って音に出ると思うんですけど、このアルバムがKEMURIの今の状態を証明しているんですね。
伊藤:想定外でしたけど、非常に喜ばしい想定外です。
interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:森下恭子
PHOTO:緒車寿一