聴く者の心にそっと染み入り魅了する天性の歌声を持つG./Vo.清水美和子によるソロプロジェクト、Predawn(プリドーン)。異例のロングセールスを記録している1stミニアルバム『手のなかの鳥』(2010年6月)以来、3年近くリリース期間が空きながらも各所で話題に上がり続けていたその存在感は特筆すべきものだろう。USインディーやUKロックからトラディショナルなルーツミュージックまで様々な国や時代、ジャンルの音楽からの影響を独自の感性でドリーミーに昇華したサウンドは他に類を見ない。まるでアナログ盤レコードから聞こえてくるような音質が印象的な、今回の1stアルバム『A Golden Wheel』。細部にまで至るこだわりがその底知れぬ音楽的探究心をうかがわせながらも、マニアックな作為など全く感じさせない天衣無縫な魅力が同居した稀有の名盤がここに誕生した。聴けば聴くほどに新たな出会いがある、普遍的な作品にいつまでも耽溺していたい。
●今作『A Golden Wheel』には、まるでアナログ盤のレコードを聴いているような質感がありますね。
清水:実際に1回録ったトラックを専門業者に送って、アナログ盤に彫ってもらっていて。その盤を歪ませて針飛びさせたりしたものをまた録音して、その音を曲の中にミックスしたりしているんです。
●M-1「JPS」の針飛び的な音はそれだったんですね。最初はエラーかと思いましたよ(笑)。
清水:レコードがリアルタイムだった方にはただの雑音に聴こえるんでしょうけど、CD世代の自分にとっては新鮮だったというか。あと、曲と並行したところで何か別の音が鳴っているというのが好きで。レコードだとそういう感じも出せるので、やってみたかったんです。あと、レコードを逆回転させた音を曲の中にミックスしたりもしていますね。
●元々、アナログ盤が好きだったんですか?
清水:いや、自分のアナログ盤(『手のなかの鳥』の12インチ盤)ができた時も、聴くためのターンテーブルがなくて(笑)。人からターンテーブルを頂いて、聴くようになったという感じですね。でもこのアルバムを作るときに、そういうイメージはあって。
●レコードのような音質はイメージしていた。
清水:最初はオルゴールを作って鳴らしたいなと思っていたんですけど、調べてみたら録音できる長さが(限られているので)難しそうで。だったらレコードかなということは、前々から思っていたんです。
●最初はオルゴールを使おうと思っていたんですね。
清水:1回、“物”にした音をまた録音するっていうか。その“物”自体の音がするっていうのが魅力的だなと思って。デジタルって、それ自体の音はしないじゃないですか? CDは一応、プレイヤーに入れた時に、ピューンっていう音はするけど(笑)。そういうCDの回る音とか、レコードだと針のプツッという音とか、“回る”っていうことに意味を見出したかったところがあったのかな。
●M-6「Milky Way」でも曲のバックに、レコードが回っているような音が入っていますよね。
清水:そうですね。あれもレコードから抽出したトラックをミックスしたんですよ。
●耳を澄まして聴くと気付くレベルの繊細な音や仕掛けが入っているので、聴き込む楽しさもある。
清水:そうやって聴く楽しさもあるだろうし、自分でも作っている間に何回も何回も聴くので、“ここにこういう音が欲しい”っていう感じで色々と仕掛けたくなっちゃうのかな(笑)。元々、曲が思い浮かぶ時から既にそういう音のイメージがあったりもします。“こういう音が欲しい”とか“ザラッとした音にしたい”とか。
●元々、そういう質感の音楽が好きだったりする?
清水:色んな音楽を聴くんですけど、そういうザラッとした音のものが好きだったりはしますね。パキッとした音よりかは、モヤっとした音というか…。
●好きなアーティストに挙げているSparklehorseやThe Velvet Underground、Radioheadなんかは時代も国も違うけど、そういう質感は近いものがあるのかなと。
清水:そうかもしれない。そこに挙げているアーティストの音はあんまりハイファイな感じじゃないんですよね。Radioheadの音も有機的な感じのするところが好きなんです。
●色んな国の音楽から影響を受けているせいか、どこか1つの国を想像させない感じがします。
清水:人によって言われることが全然違うんですよ。「北欧っぽい」とも言われるし、「アメリカの田舎っぽい」とも言われたりして(笑)。自分では結構、日本っぽいと思うんですけどね。
●自分で日本っぽいと思うのはどのあたりが?
清水:メロディとかハーモニーとか…、あとは息遣いとかが和風だなと思うんですよね。結構、わびさびはあるほうだと思います(笑)。
●そう言われてみれば、後ろで鳴っている小さな音もわびさび的かもしれないですね(笑)。
清水:“ししおどし”みたいな感じですよね(笑)。あとは、間合いですね。そういうところが、日本語で歌っている人以上に、日本っぽいんじゃないかと自分では思っています。
●今作も自分で全ての楽器を演奏しているのは、そういう独自の感覚やイメージをより忠実に表現するためなのかなと。
清水:イメージを形にする時に他人の手が入ると、“それもいいかも?”と思っちゃうので。でもそういうことは後からライブでやれたりするし、頭の中にあるイメージを自分で再現したいということは強く思っていて。大変だったんですけど、今回も全部1人でやりました。
●バンドだとまず自分のイメージを言葉にして、メンバーに伝えなくちゃいけないですからね。
清水:1回その人のフィルターを通さないといけないので、やっぱりちょっと違ってきたりもして。“もっと下手くそでいいのに!”って思っちゃったりする(笑)。人に頼むと、上手になりすぎるっていうか。
●上手すぎるのも求めているイメージとは違う。
清水:ヘタウマなアーティストのほうが聴いていて落ち着きますね(笑)。それに、その不完全さの中に完全さがあったりするから。だから、Daniel Johnstonとかも大好きだし。小学生が描いた絵が完璧だったりしますもんね。そこらへんのサークルにいる大学生とかにも相当上手い人がいっぱいいると思うんですけど、“そこじゃないんだよな…”っていう(笑)。
●ただ、今作に関してはそういうザラッとした音質ながらも、耳障りが悪いものにはなっていないというのがすごいところかなと。
清水:たまに「音質悪いね」って、言われますけど(笑)。でも自分でもちゃんと聴けるものにしようという意識はありますね。他の曲と音質が違うっていうのは独特で良いかなって思うんですけど、音のレベルや音圧が違ったりするのは良くないなと。だから、そこはもう最後にプロの手に預けてやってもらいました。
●それにヘタウマといっても、あからさまにイビツな感じはしないというか。
清水:自分では色々思うところもあるんですけどね(笑)。ちょっと不完全でも、無邪気だったら良いなというのがあって。その時に入り込んで楽しみながら録れていれば良いと思うんです。
●細部の音作りも楽しみながらやっているわけですよね。M-4「Breakwaters」では、求めているイメージに合う音を探しに伊豆まで行ったそうですが。
清水:この曲を作り始めた時、ギターのリフの中に最初からその音が入っている気がして。ずっと頭の中にあったんですけど、何の音かはわからなかったんです。“キィキィ”っていう音で、海で聴いた気がしたので伊豆に行くことにしました。そこにあるかないかはわからなかったけど、あと…温泉に入りたかったし(笑)。
●それも楽しみの1つですよね(笑)。
清水:でも伊豆の港に行ったらキィキィ鳴っていたので、「やっぱりこれだった」と思って。漁船に乗り込むための小さな階段みたいなのがあるんですけど、その下に車輪が付いていて、それが波で動くときに“キィー”って鳴るんです。たぶん錆びているんでしょうけど。
●その音をかつてどこかで聴いたことがあったと。
清水:たぶん旅行でどこかの海へ行った時に聴いた音が、頭の中にあって。曲名も“防波堤”という意味なのでもしかしたら最初に作った時は覚えていたのかもしれないんですけど、全然忘れていて…。何の音かがわかって、すごい発見をした気分です(笑)。
●前作以上に、自分の頭の中にあるイメージを具現化できたという感覚もあるんじゃないですか?
清水:そうかもしれないですね。前作でちゃんとできたことが自信にもなって、“あれもこれもやっちゃおう”みたいな欲は出てきましたね。やりたいことは形にできたかなと思います。
●聴いていて飽きさせない流れにもなっています。
清水:流れはわりと考えましたね。自分が飽きっぽいというのもあるし、波があるもののほうが好きなので。あと、前に兄が「CDを試聴する時は2曲目と7曲目を聴けば、良い作品かどうかわかる」ということを言っていて。なので、自分的には今回も2曲目と7曲目に推し曲を持ってきています。ちなみに、兄はすごいメタル小僧なんですけど(笑)。
●ハハハ(笑)。自分でも満足する作品ができた?
清水:そうですね。周りからの「次はいつ出すの?」っていうプレッシャーは感じているんですけど、それに急かされずにちゃんと1曲1曲と向き合って音源にできたと思うから。
●ライブの時にビールを飲むのもプレッシャーから?
清水:それもあると思います。足がプルプル震えちゃったりもするので、つい飲んじゃいますね(笑)。特にアウェー感を感じるところでは飲んじゃいます。
●そういう意味では、今回のリリースツアーはどこもホーム感があるだろうから安心してやれますね。
清水:でもそれはそれで楽しくなって、飲んじゃうかもしれないです(笑)。
Interview:IMAI