2013/2/17@渋谷 CLUB ASIA
w / COMANECHI(from UK) / PLASTICZOOMS / NINGEN OK / ZZZ`s / THE NOVEMBERS
「こんばんは。BO NINGENです」とBa./Vo.のTaigenが言い、長髪の4人のシルエットがライトに浮かび上がる。エンジンをアイドリングさせるようにTaigenのベースが不気味な咆哮を始め、そこにMonnaがタイトなリズムを差し込み、意識の表面を少しずつ塗りつぶすようにYukiとKohheiがギターを歪ませる。ピリピリと空気が張り詰め、興奮が溢れ出す直前の一瞬、オーディエンスが息を飲む音がどこかから聞こえてくる。初めて観るBO NINGENとのランデブーは、心地良いシャワーを全身に浴びているような、そして同時に犯されているような、とてもセンセーショナルな体験だった。
BO NINGENはロンドン在住、日本人4人によるサイケデリックロックバンドである。イギリスのアートカレッジで知り合った4人で結成。もともと音楽をやるつもりで留学したわけではなかったという。彼らは同国のStolen Recordingsに所属し、2009年に限定リリースしたデビューEP『Koroshitai Kimochi』は即完売。世界的に有名なフェスである“Glastonbury Festival”や“Offset Festival”などに抜擢されつつ、2010年にリリースしたアルバム『Bo Ningen』は各方面で大絶賛を受けて日本でも話題を集める。ポール・シムノンやFRANZ FERDINAND、KlaxonsといったUKロックシーンを代表する先人たちからも賞賛を受けたというのだから、日本での認知度に反して、イギリスでの評価は相当なものだ。更に音楽シーンだけではなく、アート方面から彼らを支持する声は多い。ファッション誌や老舗シューズメーカー・Clarksのキャンペーンモデルなどにも起用されている。
彼らが10月にリリースし、既に高い評価を受けている2ndアルバム『Line The Wall』の日本盤リリースに伴い来日、この日のライブは来日ツアーの一貫でもある。日本人4人による、結成も活動拠点もイギリスというBO NINGEN。いわゆる逆輸入バンドだ。
ライブは1曲目の「Soko」からテンションが高かった。次から次へと押し寄せる音の壁からTaigenがおもむろに身を乗り出し、眼光鋭くフロアを挑発する。4人で幾重にもアンサンブルを塗り重ねるループの美学は、インテリジェンスと狂気を同時に感じさせる。既に観客が埋め尽くしていたフロアに、ロビーで飲んだくれていた酔客がどっと押し寄せる。BO NINGENが出す甘美な音の渦に全員が吸い寄せられているのだ。BO NINGENの4人は凶暴な音をぶつけ合って砕けさせ、その破片を山のように積み上げ、螺旋のごとくテンションを上昇させていく。
特筆すべき点はたくさんあったが、特に強烈だったのはTaigenのヴォーカリゼーション。照明に浮かび上がった彼は、両腕をくるくるとコンテンポラリーダンスのようにくねらせ、観る者の心の隙間を射抜くような眼力で我々を睨めつける。“歌”というより“表現”と言った方が適しているそのヴォーカルは、太いグルーヴで丸裸になったオーディエンスの心を的確に射抜いていく。フロアは理性を完全に失い去り、BO NINGENの一挙手一投足に歓喜の声をあげ、グラスを宙に掲げ、スマートフォンで写真を撮る。4人が4人とも長い髪を振り乱して暴れる様は壮観で、まるで炎がメラメラと燃えるがごとき光景に会場の興奮はさらにヒートアップする。
その音楽はサイケデリックでありながらも粘着性は高くなく、オルタナティブでありながらも前衛的というわけでもない。グルーヴからは土着的な匂いを感じさせつつも、随所に洗練性を感じさせる。猛獣を飼い慣らすかのように、衝動や自我や本能といった自らの凶暴な内面性を見事に飼いならしているように見える。
そして彼らのライブを観ていると、音楽シーンのみならず、ファッションや芸術家など多方面のアーティストたちがBO NINGENに惹かれる理由は、その絶妙なセンスにあるのではないかと思えてくる。ループを重ねて踊らせたと思えば、心地いいほどあっけなく曲を終わらせる曲構成、ダンサブルなビートとメタル的要素を混ぜ合わせるアレンジ、ハッとするほどの衝動的なパーソナリティを随所に編み込んだ言葉選び、Taigenの神懸かったパフォーマンス、4人がステージに立った瞬間からずっと漂わせている事件性。その随所に洗練された感性が溢れており、既存のフォーマットに自らを当てはめようとしなかった者のみが手にすることができる圧倒的な迫力は、クラウドの興奮をますます増幅させていく。
近寄りがたいほどのオーラをまとったステージに反し、MCでのTaigenは非常に礼儀正しく、日本でリリース及びツアーができることの喜びや音楽に込めた想いを熱く語る。そしてとてつもなくメロウなギターが印象的な「Yuruyaka Na Ao」がスタートし、はち切れんばかりの感情を叫ぶように歌うTaigen。MCで見せたパーソナリティを見事に楽曲へと注入し、感情を揺さぶられたフロアからは大きな歓喜の声が沸き起こる。確信犯なのか、はたまた天才か。彼らは“魅せる”ということを肌でわかっている。
その熱量のまま、本編最後の「Daikaisei Part Ⅰ,Ⅱ」では瞬間的な爆発を思わせる激しいプレイで4人が暴れまくり、この日初めてと言っていいほど粘度の高いプレイでフロアをカオティックに支配し、狂気のアンサンブルでずぶずぶと意識の下にオーディエンスを落とし込んでいく。会場は恍惚の表情で埋め尽くされる。ライブを1つのパッケージとして捉えている彼らのストーリーテリングに舌を巻く。
BO NINGENのライブを目の当たりにして、日本語詞で歌っているにも関わらず、彼らが海外で評価されている理由がわかったような気がする。ステージ上で繰り広げられている圧倒的な“なにか”は、その意味や仕組みが理解できずとも、周りにいる人間の意識を巻き込むのだ。言語など関係ないのだ。巨大な星が持つ重力のように、周りに存在するものすべてを音の渦中に飲み込んでいくBO NINGEN。そのライブに日本のロックの最先端を見た。
TEXT:Takeshi.Yamanaka
PHOTO:Yasuyuki Kimura