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フラワーカンパニーズ

中間色の感情を表現する名手・フラカンのニューシングルは 決してブレることのない彼らの新たなスタートを予感させる

PHOTO_FC泣いているような笑っているようなみずみずしい感情を表現し、骨太なロックサウンドを鳴らし続けて24年。たくさんのロックファンを踊らせ、暴れさせ、その魂を震えさせてきた我らがフラワーカンパニーズ。昨年10月に名アルバム『ハッピーエンド』をリリースし、渋谷公会堂からスタートしたツアー真っ只中の彼らが、早くもニューシングル『ビューティフルドリーマー』を完成させた。今作に収録されている3曲は、決してブレることのない彼らの新たなスタートを予感させる、パワフルで温かくて人間味が溢れていて、フラカンにしか鳴らせない音とフラカンにしか歌えない想いが詰まっている。4月に控えた日比谷野外音楽堂ワンマンを前に、「死ぬまで突っ走る」と宣言した鈴木圭介とグレートマエカワに迫るスペシャルロングインタビュー。

 

 

「1台カメラが増えて、ちょっと熱っていうか、俯瞰度というか、そういう今まではなかったものができてきたかな」

PHOTO_FC10●早速ですが、2012年は忙しかったですか?

鈴木:忙しかったですね〜。

マエカワ:アルバム作るわ、夏フェスも多かったし、ツアーも従来通りあったし。

鈴木:2011年も忙しかったんですけど、去年はアルバム制作があったから、それがいちばんやっぱり。曲を作って、レコーディングしてっていう作業が全部去年だったもんね。

マエカワ:うん、そう。今回のシングルの話も来たから。今回のシングルはアルバム『ハッピーエンド』(2012年10月発売)の制作の終わりくらいから作り始めたんです。

●じゃあ結構前に制作したんですね。

鈴木:そうそう。そういう制作を終えてからアルバムのツアーをやったんです。

マエカワ:制作が終わったら夏フェス、終わったらキャンペーン、終わったらツアーっていうね。

●そのツアーは10/21の渋谷公会堂から始まりましたけど、あの日はどうでしたか? 全体的に楽しいライブだったという印象なんですが。

鈴木:えー、いや…あれは(笑)。

マエカワ:(笑)。

●えっ(笑)。

マエカワ:いや、楽しかったんですけど(笑)、なんか鈴木がちょっとね、終わった後に「うわー良かった!」とは言わなかったんで。

鈴木:俺はひと言も「良かった」とは言ってないんだよね、実は。

●あらら。

マエカワ:鈴木だけは「うーん」みたいな感じだったんだよね。「悪い」とは言ってないんだけど。

鈴木:余裕がなかったんですよね、僕の場合は。

●あ、客席から観る印象だけなんですけど、あの日の圭介さんからは気負いというか、高いテンションというか。常にフルテンのイメージがありました。

鈴木:そうじゃない感じで挑もうと思ってたんですよね。渋公だからって別にもうそうじゃなくて、ラクーに。いつもより若干抜き気味でいいじゃねえか、ってくらいの感じでやろうと思ってたんです。でも、渋公の雰囲気に飲まれたとか、そういうことではまったくなくて。

●ではどういうことで?

鈴木:僕はいつもライブでは耳栓してるんですけど、それがいちばん大きかったんです。今回は渋公だから耳栓を新しいのにしようと思って。、ずっと使ってた耳栓がもうフニャフニャになってたんです。だから古いやつを家に置いてきちゃって、新品しか持ってこなかったんですよ。

●なるほど。

鈴木:そしたら音がなんか締まりすぎちゃって(笑)。いつもと全然勝手が違ったので、結局耳栓なしでやったんですけど、耳栓なしでやったのってここ10年くらいで初めてで。あと、初めてやる曲っていうのもすごく多かったし。

●ツアー初日ですからね。

鈴木:そうそう。気が抜ける瞬間があんまりなかったんですよ。「楽しかったね」って言うまでの時間がかかるというか。ほんとに最後の最後、アンコールの最後でやっとちょっと楽になれたかなっていう。いつものライブでは、真ん中くらいからもう気を抜いちゃってるんですけど(笑)。

●そうだったんですか(笑)。これだけキャリア積んでても色々あるんですね。

マエカワ:たくさんありますよそんなのは(笑)。

鈴木:うんうん。

●今回のシングル曲「ビューティフルドリーマー」はドラマ『まほろ駅前番外地』のオープニングテーマとなっていますが、タイアップの話が先にあったんですか?

マエカワ:そうです。まだアルバム制作のときで、後半「エンドロール」を録ろうかってくらいのときにそういう話を頂いて。割と早い時期に「これはやらなきゃ」っていう話になったから、「おおっ!」つって。その頃はツアーもあったし、なかなかタイトな中でがんばったなと。

鈴木:作る前から約束事があったんですよ。BPM決まってましたし。

●あ、BPMが決まってたんですか。

マエカワ:俺たちの歌モノというかメロディで持ってくような曲だったら120ぐらいで全然いいんだけど、「割とリズミックでBPM120」って言われたから、俺らがなかなかやらない感じなんだよね。

鈴木:バラードとかじゃなくて、ロックサウンドとして鳴っていつつこのテンポでっていう。

●やや遅めというか。

鈴木:僕らだったら絶対BPMを上げちゃうので。

マエカワ:そう、まずそこら辺が難しかったね。でも、こんな良い話やらない手はないし、「やれない」って言われても「是非やらせて下さい!」って感じじゃないですか。

●歌詞の内容とかも注文はあったんですか?

鈴木:ありました。これは先に映画にもなってるんですけど、原作とDVDと、シナリオも読んで。

●でも歌詞の内容とか、すごくフラカンっぽいですよね。

マエカワ:そう。そうなんですよね。

鈴木:世界観がそんなに自分と差がないというか。そのまま自分の感じで書いちゃってもいけるだろって作っている途中で気付いたんです。

●まず最初に圭介さんが原曲を持ってきたんですか?

鈴木:そうです。そのアイディアも何パターンかあったんですよね。3〜4曲分あって。

マエカワ:それから色々とあったんですけどね。

鈴木:みんなでサビを作り直したりとか。

マエカワ:何パターンか。

鈴木:サビも3〜4パターンぐらいは作ったのかな。歌詞も4〜5パターンくらい。

●そんなに作ったんですか。

鈴木:その後に詰めていった感じです。原曲から残ってるのは出だしの“ハッピーじゃないラッキーじゃない”だけですよ。

●その“ハッピーじゃないラッキーじゃない”というフレーズがまず耳に残るんです。フラカンは喜怒哀楽の間を突いてくる名人だと僕は思ってるんですけど(笑)。

一同:ハハハハ(笑)。

●なぜこういう言葉が出てきたんですか? ハッピーじゃなかったんですか?

鈴木:ハッピーじゃない、ですよね。基本。

●そうですか(笑)。

鈴木:“ハッピーだな”と思った瞬間は気付かないですよね。後々に、“あのとき俺すっげえ幸せだったな”っていう。今は幸せじゃないわけでもないんですけど、“ハッピーじゃない”という感覚はずーっとですよね。“ラッキーだな”って思うときもあるんですけど、まあでも“トータルで考えたらラッキーじゃないよな俺”っていう想いがいつもあるし(笑)。

●ハハハ(笑)。

鈴木:その物語もそうなんですよ。原作が。ドラマで瑛太さんがやっている役柄がそういう感じなんですよ。

●あんなイケメンなのに。

鈴木:そうなんです。

マエカワ:松田くん(松田龍平)もそうだよね。

●2人ともハッピーじゃなくラッキーじゃないと。

鈴木:そう感じたんですね、僕はね。実際は分からないですけど。

マエカワ:まぁでもそういうニュアンスの話で。

鈴木:そういう感じの話だったので、割と近いなって思ったんです。低体温な感じが。「ちょっとひと山当てようぜ!」みたいな感じの話でもなく、淡々としてるっていうか、その中でちょっとずつ日々の何かがあったりする。事件はちゃんと起こるんですけど。

●アルバム『ハッピーエンド』の「エンドロール」では常田真太郎さん(スキマスイッチ)に歌詞も含めてプロデュースされたじゃないですか。今回の2曲ともそうなんですけど、情景を想起させるというか、すごくみずみずしい感じがするんですけど、そういう経験が活きているんでしょうか?

鈴木:最初はそういう自覚がなかったんですよ。でも物語の主題歌なので、そこに沿うように作るじゃないですか。だから主人公はまず俺じゃないなっていう。今までは全部自分の思ってることが主題だったんですけど、今回の主役は2人(瑛太と松田)じゃないですか。そういうのは初めてだったんですけど、気分的には瑛太さんになって作ったんです。

●なるほど。

鈴木:だからあの時期、僕はたぶんカエラちゃん(木村カエラ)と寝てましたよね。毎晩寝てたはずです(※妄想の話です)。

●アハハハハハ(笑)。

鈴木:それは冗談ですけど(笑)、それぐらい物語目線から投影して作ったほうがいいのかなって。でも逆に「沿わせすぎもどうかな?」という想いもあって。オファー自体が「オープニング曲なんだけどちゃんと自分たちの曲としても成立させるようにしてほしい」という感じだったんです。そこのさじ加減っていうんですかね。自分が主役じゃないんだけど、最終的に自分の歌にするっていう。歌詞を作り直したりもしてたので、途中から割と自覚的にやりました。そこで「エンドロール」の経験が活きたというか。

●情景的な表現などに繋がっているんですね。

鈴木:そう。カメラを1個増やしたって感じですね。僕はたぶん、今まではずーっとワンカメでやってたんです。

●主観のカメラのみという。

鈴木:映画でいうところの主人公を撮ってる神の目みたいなアングルあるじゃないですか。そういう視点を僕は持ってなかったんですね。もうずーっとカメラも1つしかなくて。

●確かにそうだ(笑)。

マエカワ:確かにそうだ(笑)。

鈴木:情景とか景色は全部自分の目を通してのものだったりするので、この辺(と言って自分の後方を指さす)からのアングルで撮るっていうのがなかったんですよね。それを1個増やさざるを得なくなってきたというか。だから気分的には瑛太くん寄りの気持ちで作ってるんですけど、自分の歌になってる。

●それって素晴らしいことですね。

鈴木:周りにどう思われてるかっていうのはさほど気にしてなくて。もちろん見てくれは気にしますし、かっこいいに越したことはないんですけど、曲とか作ってるときは割とそういうのがなくなっちゃってて。でも1台カメラが増えて、ちょっと熱っていうか、俯瞰度というか、そういう今まではなかったものができたかなと。こないだのアルバムとそこがいちばん違う。

マエカワ:同じ時期だけど、作り方も全然違うんだよね。「心の氷」にしてもそうなんですけど。

 

「これライブで3回くらいやっただけなんですけど、お客さんから“あの曲はアルバムに入らないんですか?”って言われたんです」

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●さっきマエカワさんがおっしゃいましたけど、「心の氷」も今までとは違う感覚なんですか?

鈴木:そうですね。「心の氷」の原曲自体はアルバム『ハッピーエンド』の制作のためのセッションで1曲目に作ったんです。

マエカワ:だから2年くらい前の曲なんです。

●あ、そんなに前に生まれた曲なんですか。

鈴木:アルバム用の曲として震災前に唯一出来てた曲がこれなんです。ライブでも3回くらいやったね。ただ、アルバムには結果入らなかったんです。

●それがこのタイミングでなぜ形に?

鈴木:「ビューティフルドリーマー」がバンドサウンドでガッといってるので、カップリングということもあるし、ちょっと違う方向で振り切ったものにしたほうがいいんじゃないのかって。

●この曲も感情の中間色と言いますか、サウンドは優しくてぽこぽこした感じの音で。

鈴木:実際ぽこぽこ鳴ってますもんね。

●でも歌の内容がとてもフラカンらしいというか。

鈴木:あまり楽しげなことではないかもしれないですね。

●今作の新曲は2曲ともなんですけど、歌詞に“夢”が出てきていて。

鈴木:それが全部過去形の夢というか、終わっちゃった夢なんですよね。

●そうそう。昨日今日で出来た夢じゃないという。

鈴木:夢の残尿感みたいな。

●ハハハ(笑)。

鈴木:「心の氷」は何も考えずに作っちゃったんですよ。何の疑問もなく出来たっていう感じですかね。普通に出来て「どう?」っていう。気負いもせずに。

●この曲すごくフラカンぽくって良いですね。

マエカワ:名曲ですよね。

鈴木:でも、アルバムを作っているときは誰もこれを「収録しよう」とは言わなかったんですよね。誰もこのカードを上げなかった。

マエカワ:プラカードが1つも上がらなかったよな。メンバー、スタッフ合わせても。

●アルバムのイメージと合わなかったとか?

鈴木:そう、そんな気がしますよ。

マエカワ:うん。それがたぶん大きい。

●アルバムはもっと動的というか。

マエカワ:ちょっと優しすぎちゃうところもある感じ。

鈴木:それにアルバムは震災後の気持ちで固めたかったっていうのもあるかもしれないですね。

●なるほど。

鈴木:「心の氷」は震災前に作った曲なので。でもこれライブで3回くらいやっただけなんですけど、お客さんから「あの曲はアルバムに入らないんですか?」って言われたんです。The ピーズと一緒に石巻と宮古にツアーで行ったとき、そこでお客さんに言われたんです。そう言われるってことは良い曲なのかも知れないぞって。プラカードは上がってなかったけど、お客さんからはリクエストがあったんだぞっていう。

●手応えはあったんですね。

マエカワ:最初は弾き語りだったので「アコギでやろうか」って言ってたんだけど、「アコギでやるんならパーカッションも入れようか」みたいな感じでアレンジのアイディアが決まっていって。「だったらベースも入れようか」みたいな。

鈴木:「だったらギターも入れようか」みたいになるよね。

マエカワ:で、最終的には「ストリングスも入れたらおもしろいね」って。

鈴木:弾き語りからはちょっと離れちゃったね。

マエカワ:でも弾き語りじゃなくてこういう形にしてよかったなと思う。

●歌詞とサウンドのギャップ感が何とも言えない味を出していて。

鈴木:そうですね。

マエカワ:そう。アコギだとちょっと寂しすぎちゃって、曲の印象がまた変わっちゃうよね。

●もっとシリアスになるというか。

鈴木:そうそう。この曲はモノクロじゃないんですよね。

マエカワ:そうだね。ものすごくしっかりしとるし。

鈴木:カラーテレビなんだと思うんですよ、これ。

●カラーのフィルムで撮っていると。

鈴木:そう。アコギ1本でやっちゃうとモノクロっぽくなっちゃうので、そうじゃなくてよかったなって。

●そしてもう1曲が「この胸の中だけ」のサイプレス上野とロベルト吉野 in ドリームランドREMIXということですが…。

マエカワ:これもまたドリームだよな。

●これはどういう経緯なんですか?

マエカワ:最初に3曲入れようという話になってて、レコード会社のスタッフからアイディアとして提案されて。

マエカワ:「カバーもいいね」とかって言ってたんだけど、過去曲、例えば「深夜高速」のREMIXもいいかなと。でも「深夜高速」はもうたくさんやってるから。

●結構やってきてますよね(笑)。

マエカワ:「この胸の中だけ」は今のレコード会社に入って作った最初のアルバムのリード曲だったんだけど、この曲をもう一度もっと表に出したいなと思ってて、「「この胸の中だけ」のREMIXとかおもしろくないですか?」って言ったら、それもいいねって。

●なるほど。

マエカワ:でも実は「この胸の中だけ」は、マスター音源のトラック別のデータがない! ってなって。

鈴木:だからREMIXできないという。

マエカワ:「この胸の中だけ」のレコーディングは自分たちでやったから、マルチのデータがないの。

●フラカンってすごいですね(笑)。

鈴木:なくなってた(笑)。

マエカワ:完全に俺ら4人だけで普通のスタジオ入って録っただけだから。

●ハハハハ(笑)。

マエカワ:REMIXするなんて頭にもないから、それを残しとく頭もないんですよね。だからレコード会社のスタッフに「マスターありますか?」って聞かれて、「ちょっと探してみたけどないです!」って。

●アハハハハハ(笑)。

鈴木:「じゃあ録り直すか!」って。

マエカワ:もう1回録り直したっていうね。

●REMIXのために。

マエカワ:リテイクだぞほんとに。

鈴木:REMIXのために。

●こういうコラボはおもしろいですね。すごく新鮮でした。

マエカワ:やったことないからね。「こういう風になるんだ」っていう驚きがあった。

鈴木:色々とヒップホップのルールを知りました。曲の途中で自己紹介するんだ、とか。なるほどね、ヒップホップの人って結構そうみたいなんですよね。

●ここにきてまた今作でも初体験をたくさんしていますね。

マエカワ:そうだ、初体験シングルだねこれは。

鈴木:はじめてのおつかいが多いな。

マエカワ:そうだよ。

鈴木:もう40超えて。

「逆再生を部分的にリップシンクしたことがある人はいるかも知れませんけど、1曲丸ごと覚えた人は世界中を探してもそんなにいないと思います」

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●「ビューティフルドリーマー」のミュージックビデオは一見逆再生っぽい作りになっていますよね。圭介さんが曲を歌いながら街中を歩いていて、ところどころ逆再生っぽくなったりしますけど、この映像は逆再生とそうじゃない部分が混在していますよね?

鈴木:そうなんですよ。

●一瞬すごい混乱しちゃうんです。「あれ? これどっちだろう?」っていう。

鈴木:そうなんですよ。僕が観てても「ん?どっちだ?」ってなりますもん。

●でも自転車が走っているシーンを見て、逆再生じゃない部分があると気づいたんです。自転車は後ろ向きには走れないので。

鈴木:そうそう。だから自転車が反対向きに走ってるシーンでは、実際の僕は後ろ向きでずっと歩いてるってことですよね。実際、ずっと後ろ向きだったんですよ。それはどういうことかというと、言葉も逆再生で歌ってるんですよ、あれ。

●えっ? そこまでやったんですか?

マエカワ:そこまでやったんです(※詳しくはフラワーカンパニーズ「ビューティフルドリーマー」特設サイトのメイキング映像を参照)。

●すごいな!

鈴木:それが監督から出された最初の条件だったんですよ。「逆再生で撮りたい」と。「で、逆に動いてほしい」と。そもそも、ドラマ『まほろ駅前番外地』のオープニングのシーンがそういう感じなんですね。

●あ、なるほど。そこと連動しているんですね。

鈴木:そうなんです。ドラマとミュージックビデオの監督は別の方なんですけど、ドラマと何かリンクさせようというアイディアで。ドラマのオープニングの映像を作った監督さんにビデオをお願いしました。撮影したロケーションも場所も一緒なんですよね。そこでやるって。

●ふむふむ。

鈴木:更に注文があったんですけど、「リップシンクを合わせたい」と。「逆再生で口を合わせてくれ」と。1曲ですよ?

●難題じゃないですか!

マエカワ:難題ですよ。

鈴木:これがもう大変で。「スズキケイスケ」を「ケスイケキズス」と読んだら済む問題じゃないんですよね。

●発音のコツみたいなものがあるらしいですね。

鈴木:歌になると母音が全然違うんですよ。だから全部ローマ字にして、それを逆にするんです。

●うわー!

鈴木:でもローマ字を逆にしただけでは発音とかが変わってくるので、歌ったものを逆再生にしてもらった音をもらって、それを1週間くらい聴き続けるんです。延々と。もうほんとこれ以上やったら気が狂うっていうような。

●ひえー!

鈴木:だからリズムも「これどこのサイケな音楽だよ!」みたいな。というか、「サイケデリックミュージックでもここまではねぇだろ!」っていうような。もう民族音楽。どこか知らない国の。

●呪文みたいなノリですね。

鈴木:ほんとそうですよ。もうひと言も分かんないですもん。

マエカワ:ハハハハハハ(笑)。

●大変でしたね…。

鈴木:いちおう監督がローマ字で逆にしたのを文字にして渡してくれたんですけど、これがね、結局聴かないと覚えられないんですよ。それをもらったんですけど、全部自分で聴いて感じた音に書き直したんです。ヒアリングで。

●はい。

鈴木:自分仕様のものにして、また何回も聴くと。更に、逆再生すると“ここは何小節目か?”っていうのが出てこないんです。歌詞の語尾が結構適当なところで終わったりしていて、出てくるところはすっげーあやふやで、自分でも「えー!」っていうところで出てくるんですよ。そのタイミングを覚えるには、もう聴くしかないんですよね、ほんとに。それを散々やって、リップシンクをしたんです。

●でも…ちょっと合ってないですよね。

一同:アハハハハハハハ(爆笑)。

鈴木:そう! それが悔しくてしょうがない! あんだけやったのに!

●さっきそこまで苦労したという話を聞いていたとき、“でも合ってないところあったな…”と心の中で思ってました(笑)。

マエカワ:合ってないところもある(笑)。

鈴木:そう。

●残念ですね(笑)。

マエカワ:そうなんだよなー。悔しいよなあれな(笑)。かなり苦労したのに。

鈴木:「逆再生だから合わなくてもしょうがないよ!」じゃなくて、「いやいやいやいや! 俺はあんだけやったのに!」っていう気持ち。

●気が狂う寸前までいったのに。

鈴木:にも関わらず合ってねぇのかよ! っていう。CGでなんとかなんないのかって思いましたもんね。

●ハハハ(笑)。CGでリップシンク(笑)。

鈴木:なんとかなんなかったんでしょうね(笑)。しかも僕は、リップシンクを合わせてる場面も合わせてない場面も全部ひと通りやってるんです。1曲丸ごと覚えてるので。

●え? 使っていない部分も1曲丸ごと習得したんですか?

鈴木:そうですよ。しかも、今後の役に全く立たないことやってるわけじゃないですか。「今回リップシンクでうまく合わない部分もあったけど、次回はちゃんとやれる」みたいに、次に繋がることなんて絶対にないし。次作のミュージックビデオでも逆再生なんて絶対やるわけない(笑)。

マエカワ:そういう現場がないからな(笑)。

●ハハハハハハ(笑)。

鈴木:覚えたものを今後覚えてる必要が全くないじゃないですか。ライブで逆に歌うわけないし、なんならその普通の本回転の方の歌詞もまだ覚えてない段階だったのに、先に逆再生覚えるくらいの感じだったんですよ。

●なるほど。

鈴木:この曲はミュージックビデオも含めてめっちゃ苦労しましたね。

●見えない部分でのすごい苦労があったわけですね。

マエカワ:そうなんですよ。

鈴木:ミュージックビデオに関しては今まででいちばん大変でした。当日に関してはもっと大変な現場はいくらでもあったんですけど、準備がいちばん大変だった。今までのミュージックビデオは当日までの準備とかほとんどしないし。

マエカワ:当日すごい時間がかかるとかはあったけどね。

鈴木:当日に「こうこうこうして下さい」って言われたのをその現場でやっていくっていうのは今まで何度もあったし、撮影に時間がかかって朝になっちゃうこともあるんです。そういう部分では、「ビューティフルドリーマー」の撮影は、集合は朝だったんですけど昼には終わってたんですよ。

●シーン的にもそんなに多いわけじゃないし。

鈴木:ただ、逆再生で歌ったっていうところはみんなに分かっておいて欲しいんですよね。

●その苦労はミュージックビデオを観るだけじゃ分かんないですよね。

鈴木:逆再生の音源をカップリングにしても良かったですけどね。

●アハハハハハ(笑)。

マエカワ:違うREMIXだな。

鈴木:誰も聴きたくないそんなの!

マエカワ:世界初だよそれ(笑)。

●気が狂いそうになるカップリング(笑)。

鈴木:誰も絶対1回以上聴かないっていうね。絶対聴きたくないです。俺、最初聴いたときに“もう絶対聴きたくねぇなあ”って思いましたもんね。“うわぁこれはもう…”っていう。

●ここ2作のミュージックビデオはすごく攻めてますよね。アルバムのリード曲「エンドロール」は本人たちはそんなに出てなかったですけど、ドラマ仕立ての内容が衝撃的で。

鈴木:過激作ですね。

●いい意味で非常にショッキングでした。オナニーのシーンとかもあって。

マエカワ:はいはい。

鈴木:あれはそうですね、監督がもうかなりショッキングな監督だったので(笑)。

●思い切った表現をされたわけですね。

マエカワ:ちょっとベクトル違うけど、ここ2作は良い挑戦してるね。

●挑戦してますよね。

鈴木:「ちょっと攻めていいですか?」みたいなモードだよね。前作は監督が攻めたんですよ。僕らはヘアカタログみたいに上半身裸で歌っただけだったので、そんなに攻めてなかった。

●あまり苦労はなかったんですね。

鈴木:そうなんですよ。でも今回は監督もすごい苦労されていたんですよ。だって、まず監督がソロで歌ってましたから。

●え?

マエカワ:自ら「こういうビデオになりますよ」っていうのを撮ってくれたんですよ。

鈴木:逆再生で監督自ら歌ったやつを。

マエカワ:監督もリップシンクしてるんですよ。

●そうだったんですか(笑)。

鈴木:そう。悔しいことに監督の方が(リップが)合っているんです。だから僕はちょっと監督を超えられなかったっていう。自分の中では悔しいですね。

●自分の曲なのにね。

鈴木:あ、でも自分の曲だからこそっていうのもちょっとあったかもしれない。更に“なんで逆再生をやんなきゃいけねえんだ!”みたいな気持ちも。

●ジレンマが。

鈴木:内心は“リップシンクする場所をある程度最初から決めてもらって、そこだけでいいんじゃねぇか”っていう(笑)。“全部やることはないんじゃないのか?”って疑問と葛藤の中やってたので。たぶん逆再生を部分的にリップシンクしたことがある人はいるかも知れませんけど、1曲丸ごと覚えた人は世界中を探してもそんなにいないと思います。

●確かに(笑)。

鈴木:『探偵ナイトスクープ』で前にやってたんですよ。おじさんからの「文章を全部逆から読んでカセットに録って、逆再生したらちゃんと普通の文章になってるかどうか確かめてくれ」っていう依頼で。でも実際にやったら出来ていなかったんです。なぜなら母音があったからで。番組中も、おじさんが全部ローマ字にしてやっていたんですよ。俺は“おっさんよくやるなー”と思って笑いながら観てたんですけど、まさか自分がやるとは思わなかったなあ。しかも歌でっていう。

●攻めてますね。

マエカワ:うん、攻めてますね。

鈴木:攻めましたね。今後の肥やしにならないようなことですけど(笑)。

マエカワ:なるなる。がんばったんだから。

●その努力が(笑)。

マエカワ:43歳になってがんばった自分。

鈴木:年取ったときに「お前は逆再生で全部リップシンク出来るか?」ってひとつの自慢話になるね。若手に対して「お前はそれが出来るのか!」って。

マエカワ:「おじさんも出来なかったじゃないですか!」って言われんじゃん(笑)。

 

「僕たちはずっと金太郎飴みたいなことやってきてるから、逆にちょっとブレた方がいいくらいですよね。“ブレさせることができるならブレさせてみろ!”みたいな」

●ところで1/19からツアーの後半戦が始まって、最後は4/21の日比谷野外大音楽堂ですね。春までは突っ走って行くと。

鈴木:春まではと言わず、死ぬまでだな。

●か、かっこいい!

鈴木:そのスピードは遅くなるにせよ、気持ち的にはね。

マエカワ:途中で逆再生があったりするかもしれないけど(笑)、気持ち的には。

鈴木:ちょっと戻っちゃったからな、逆再生で(笑)。でも突っ走りたいです。

●夢のかけらがなくなるまでは突っ走って行くと。

鈴木:そうですね。ギリギリまで、死ぬ一歩手前までって感じです。

●2013年はどういう感じになりそうですか?

鈴木:もう1作作る勢いです。

●おっ!

マエカワ:今回のシングルは挑戦や初体験が多かったじゃないですか。ちょっと挑戦しながら色々と曲を作っていって、そういう感じで作ったら新しいものが出来るなっていう実感が自分らの中にあるんですよね。

●可能性が広がったと。

鈴木:今までと比べて作り方を変えたから。

マエカワ:だから「曲作ろう」というモードになっています。次の作品がいつになるかはちょっと置いといて、今年は曲をたくさん作ろうと思って。色んな作り方しようと思ってます。

●楽しみですね。

マエカワ:ここ10年の作り方じゃない感じというか、今までとは違う作り方しようと思って。

鈴木:アルバム『ハッピーエンド』でちょっと一区切りして、ここからはちょっと別枠なんですよね、僕らの気持ち的に。ちょっと違うギアに入れた感じなんです。

●それは制作に関するモードがですか?

鈴木:そうです。

マエカワ:ライブは4月の野音が終わった後も、またなんらかあるだろうし。今までと違うやり方で作ったものが「いつものフラカンじゃん」っていう話になるかもしれないけど、それはそれでいいんですよね。

●はい。

マエカワ:別にそこを変えようとは思ってもないし。やり方だったり、新曲を作りたいっていうところで新しいモードになっているんです。色んなアイディアで出来そうだっていう手応えがあるんだよね。

鈴木:うん。僕ら的には、今回のシングルはかなりギアチェンジしてるんですよ。なので、自分たち自身もちょっと楽しみですよね。また初めてのことがいろいろ増えるんじゃないのかなと。

●音楽に限らずですけど、同じことを長くやってると当然マンネリになることもあるじゃないですか。でも今のフラカンはそうじゃなく、常にいろんなところで新しいことにチャレンジしていて、それがバンドにとっていい刺激になって、もっともっと広がっていこうというモードに繋がっているわけですね。

鈴木:そうですね。今までもしてるつもりだったんですよ。でも実はそんなに新しいことしてなかったっていうのがあって。

●本人たちは新しいことをしているつもりだったけど。

鈴木:新曲を作ってる時点でそれ自体が新しいことなんですけど、もうちょっと根本から変えるのもアリじゃないかっていうのが今回のシングルで得たことなんです。なので、もっと変わっていく可能性があります。色々うねってもいいんじゃないかっていう。

マエカワ:うねりたいんだろうね。バンドが今ね。そういう風に。

鈴木:言い方変えるとちょっとブレてもいいぐらいの感じ。

●変わることに怖さはないんですか?

鈴木:ないんですよ。僕たちはずっと金太郎飴みたいなことやってきてるから、逆にちょっとブレた方がいいくらいですよね。「ブレさせることができるならブレさせてみろ!」みたいな。

マエカワ:ほんとそんな感じだよね。

●素晴らしいことですね。

鈴木:僕ら以外の世間全員の人に言いたいですね。「俺たちをブレさせられるならブレさせてみろ!」って。だから新しいことにどんどん乗っかります。

Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:Kaori.T

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