観たものをただでは帰さない衝動的ライブによってライブハウスシーンでは抜群の知名度と人気を誇る3ピースバンド、BAD ATTACKが初の正式な単独音源をリリースする。2003年に結成後、2007年に現メンバーとなって本格始動。ひたすらライブを重ねることによって鍛え上げられてきた力強い演奏と、パンクもメロディックもハードコアも消化したロックンロールは唯一無二だ。そして日常の風景を切り取る言葉で、この街に生きる人間たちの心象風景を描き出す歌詞が聴く者の胸を打つ。紛れもない傑作と断言できる1stアルバムが今、世に放たれた。
●2003年に結成して以来、今回が初の正式な単独音源となるわけですが、活動歴が長いだけに音楽的にも変化してきているんでしょうか?
野村:もう10年近くやっていますからね。元々は僕がバンドをやりたくて、バイト先にいたヤナ(Ba./Cho.柳沢)を誘ったんですよ。当初はメンバーがなかなか集まらなくて、弾き語りみたいなこともしていて。その間に曲調も色々と変わってきて、もっとパンク色が強い時期もあったんです。でも最近は弾き語りでもやれるような曲を、自然と作るようになってきましたね。
●フォーキーな感覚がありつつ、パンク色もあるのはそういう経緯だからなんですね。
野村:普段よく一緒にライブをするのは、パンクかハードコアのバンドが多くて。自分自身はそういう音楽を聴いて育ってきていないんですけど、対バンに影響されて激しい曲をやるようになっていった感じですね。
●パンクがルーツではないんですね。
野村:自分は古いロックが好きですね。ヤナは元々パンクが好きなので、そこから影響は受けていますけど。
柳沢:初期パンクが好きで、ザ・クラッシュやアナーキー、ザ・スタークラブとかを聴いてきましたね。
昇太:自分はミクスチャーからファンクやヒップホップに入っていった感じで、踊れる音楽がすごく好きです。
●3人ともルーツが全然違う。
野村:音楽的な趣味が合うかどうかよりも“バンドがやりたい”っていう気持ちのほうが優先でした。バンドに対するやる気みたいなものは3人ともすごくあったんです。それだったら細かい違いとかは関係ないし、逆にそっちのほうが面白いと思うから。ヤナや昇太が好きなものを色々と好きになったし、俺が好きなもので2人が好きになったものもたくさんあって。今では、音楽的な趣味の違いがあって良かったと思いますね。
●1つのジャンルにこだわりがあるわけじゃなくて、色んな音楽の良さを吸収できる。
柳沢:色々観てみたいし、聴いてみたいという気持ちはありますね。
野村:どういう音楽がやりたいかというのは、後からできていった気がします。色んなバンドと対バンする中で、“俺らもこういう音楽がやりたいな”と思ったりして。
●明確な音楽性のイメージがあったわけではない。
野村:しかも昇太は元々、全くドラムを叩けないようなド素人だったんですよ。俺らと一緒にやるとなって、ドラムを始めた感じなんです。でも音楽は好きで色々と聴いていたし、バンドをやってこなかったことで逆に変なこだわりもなくて。素人の状態から入ったことが、今となっては良かったなと思いますね。昇太は一からのスタートなのですごく向上心があって、それに自分らも刺激されて成長できた部分もすごくあると思うんです。
●ある意味ではバンドを引っ張ってくれたというか。
野村:むしろ今でも引っ張っている感じはしますね。昇太はまだ下手な頃から、自己主張だけはすごくあったんですよ(笑)。でもそういう一歩後ろに引いていない感じが良くて。それまでは俺が作ってきた曲にベースとドラムを乗せてもらう感じだったんですけど、昇太が入ってからは曲も3人でああだこうだ言いながら作るようになって、そこで“バンドになった”という感じがします。
●昇太さんは自己主張が強いんですね。
野村:ドラマーってバンド内でも一歩後ろに引いているタイプの人が多いと思うんですけど、自分らは3ピースなのでドラマーもある意味でフロントマンだから。昇太は自分のドラムでお客さんを楽しませようという気持ちがあるし、“俺を見てくれ!”というタイプの人なのがすごく良かったと思いますね。“後ろで静かに叩いていてくれ”と思う時もありますけど(笑)。
●ハハハ(笑)。
昇太:ドラムってすごく楽しくてカッコ良いのに、なぜ淡々と正確なリズムを叩くだけの人が多いんだろうと昔から思っていて。今はそれも1つのあり方なんだとわかっているんですけど、俺はそうはならないなと。
野村:目立ちたい気持ちが勝っちゃうんだよね(笑)。
●自分のプレイで魅せるドラマーというか。
昇太:激しく、カッコ良く、見応えのあるドラムを目指しています。
野村:自分らは音源も出さずにひたすらライブをやってきて。どれだけ良い曲を演奏しても、ライブではそこで一番カッコ良いバンドが“カッコ良いバンド”なんですよ。そういう意味で、ドラムも淡々と叩いている場合じゃないというか。“ライブでどれだけカッコ良くやれるか”というところにこだわっている部分はありますね。
●ライブでのカッコ良さにこだわってきた。
野村:CDを出すわけじゃなく、ただひたすらライブをやってきたので、そこでしか表現をしていなくて。ライブが生活の基本になっているし、ライブで歌いたい曲じゃないと作らないんですよ。
●ライブありきで曲も作っている。
野村:ライブを意識している部分は大きいですね。なぜ弾き語りじゃなくてドラムのビートとかが必要なのかといえば、普段思っていることを前向きに傾けるためにサウンドの勢いみたいなものが必要だからで。そういうサウンドがあって初めて、前向きな気持ちを乗せられるんですよ。暗いものをただ暗いまま曲にしても、それをライブでやった時に気持ちが盛り上がらないから。
●これまでライブを活動の中心にして、音源を作って来なかった理由は何だったんですか?
野村:周りの友だちからも「音源を作れ」とよく言われていて、自分らとしても作りたいとは思っていたんですよ。でもアルバム1枚を本気で作るとなると大変な作業なので、そこまで本腰を入れて作るっていう気持ちにバンドがなれていなくて。しかもメンバーとの仲が悪かった時期や、曲があんまりできない時期もあったので…。2012年の頭くらいからアルバムを録り始めたんですけど、そのくらいの時期にやっとバンドの状況も良くなって、できてきた曲で本当に良いアルバムを作って色んな人に聴いてもらいたいなと思えるようになったんです。
●モチベーションが湧いてきたと。
野村:バンドを始めて10年、昇太が入って6年くらい経った今、ようやく自信を持って“良い音楽をやっているので聴いてほしい”と思えるようになって。今できたことが自然というか、自分らとしては遅すぎたとかそういう気持ちも全然ない。本当に今で良かったと思うし、良いアルバムができたなと思っています。
●機が熟したところで良い作品が完成した。
野村:もし中途半端な気持ちで作っていたら、後ろめたくて人に薦めたりもできないと思うんですよ。でもそういうものは全くなくて、“聴いてもらえたら何か思ってもらえるんじゃないかな”という気持ちに今はなれる。本当に自分らとしては、今で良かったなと思います。
昇太:バンドの状態が本当に良くなったんですよ。俺も素人の状態から入っているので、自分の中で全然納得できていない部分が多かったんです。でもライブをしこたまやって修行して、ようやくレコーディングができそうだなっていう感じに自然となれたというか。
柳沢:今、アルバムができたのが自然だった気がします。
●2012年の頭くらいから始めたということで、レコーディング自体にも時間をかけたんですね。
野村:月1くらいでレコーディングに入って、1年かけて録った感じですね。でも、それも良かったと思います。レコーディング中にできた曲もあったりして。
●収録曲は最近できたものが多い?
野村:ここ2〜3年くらいで作った曲が多いですね。今みたいな音楽性に自然となっていって、そういう曲がアルバム1枚分揃ったのが今だったという感じです。
●昔の曲はもうやっていないんですか?
野村:ライブで1〜2曲やっているくらいですね。曲調的な違いもあるんですけど、歌詞の内容的にも“今は歌えないな”という曲が多くて。そういう意味でも、あまりライブでやらなくなったというのはありますね。
●歌詞を読ませて頂いて、10年間活動してきた経緯があるからこそ書ける内容だと思いました。
野村:音楽的にもそうですけど、歌詞に関しても10年前に同じものが書けたかと言われれば、間違いなく書けないんです。若くして良い歌詞を書くような才能溢れる人もたくさんいますけど、今回の歌詞は自分にとって今この時にしか書けなかったもので。そういう意味でも本当に今しかできなかったアルバムですね。
●本当に思っていることや実際に見てきた情景を描いているから、嘘がないリアルな言葉になっている。
野村:逆にもう、それしか歌えないというか。嘘はあんまりないと思います。元々がロックファンだから自分でもロックをやり始めたんですけど、歌詞を書く才能があんまりないので上手いこと書けないんですよね。そこで“ただ思っていることをそのまま歌えばいいんだ”ということを教えてくれたのが、パンクだった。優れた歌詞を書かなくても思っていることをそのまま書けば別にいいんだなと気付いてから、だんだん書けるようになってきて。そこから自分の歌詞がすごく好きになりましたね。
●音楽性やスタイルというよりも、精神性やスピリットの部分で“パンク”を感じます。
野村:普段ライブハウスで一緒にやっているのは基本的にパンクバンドが多いので、そういうところで嘘はつけないというのはありますね。昔はパンクの人たちに憧れて、自分もそういうものになりたいと思っていた時期もあったんですよ。それも今回のアルバムを作ろうと思ったタイミングと重なっているんですけど、ライブでもやっと自分たちに自信を持ってやれるようになってきて。一緒にやる相手がどんなバンドでも自分たちのライブを堂々とやっていたら、「良い」と言ってくれる人もだんだん増えてきたんです。
●上手い下手じゃなくて、自信を持ってやらないとお客さんにも何も伝わらない。
野村:借り物な感じでやっていると楽しくないですからね。細かい表面上のことよりも、自分たちのやりたいこと/やれることを堂々とやれば伝わるものは伝わるから。今は自分たちのやっていることに自信や責任を持てるようになってきましたね。
●ライブも進化している?
昇太:みんなのレベルがどんどん上がってきているので、その中で三者三様に安心して演奏できる状態には徐々になっている感覚があって。だからライブが終わった後に「良かったね」と言える回数が増えてきたと思うし、変にヘコむことも少なくなって、レベルがどんどん底上げされてきています。
野村:昔は常にイチかバチかでしたからね(笑)。当時は理想のイメージと自分らの実力にすごく距離があったので、理想のライブをやるためには150%くらいの力が出せないとダメで。“奇跡を起こしに行く”みたいなところがあった(笑)。でも今は納得しながらやれています。
●ライブも含めて本当に機が熟して、今回のアルバムが完成したというか。
柳沢:この3人でやってきて色々とあったんですけど、今だからやっと作れたっていう想いはあるかな。
野村:ヤナよりもベースが上手いヤツや昇太よりドラムが上手いヤツなんていくらでもいるだろうけど、この3人でしかできない感じになっていて。曲も一緒に作っているし、他の人に代わりはできないんですよね。
昇太:“代えが利かないドラムとは? 自分らしさとは何なんだろう?”ということをずっと考えながらやってきて。やっと0じゃなくて、1が出せるようになったかなとは思います。それでみんなの気持ちも自然と作品を作ることに向いていったんです。
●10年活動してきて初のアルバムリリースですが、まだまだこれからという感覚があるのでは?
野村:本当にそうですね。作っている時は集大成的な気持ちもあったんですけど、やっている内にもう次のことがやりたくなってきて。今もまた新しい曲を作っているので、ここを通過点的な感じにして早く次のアルバムを作りたいと思っています。
Interview:IMAI